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砂漠の果て -i'M LoOkInG foR-  作者: Min
第1章 旅の話をしましょう
40/50

国…ソレハ穴掘リト慈悲ノナイ箱 IX

 私はとっさに彼女を胸に抱く。砂が巻き上がり、全てを飛ばしていく。


 しかし、それは一瞬のことだった。

 目を開けると、周りの景色は変わり果てていた。


 地面の砂は全て、硬くかたまり、ひび割れ、平らな土地になっている。


 そして、目の前にそびえ立つ、いくつもの十字の柱。赤茶色の錆びたような色をしている。禍々しい雰囲気が漂っていた。


 十字の柱同士の隙間から見えるコウさんの家は、残っているものの、そこにマオさんの姿はなく、倉庫と思われる建物が大破していた。


 ふと、彼女が焦ったように言う。


「サマヨイ、この柱の中!この中にぬいぐるみが詰まってるのを感じる!」


「えっ…そんな…!」


 すぐにそびえ立つ十字の1つに触れる。


 "助けてー!!"

 "何で出してくんねぇんだ!!"

 "いやぁーー!!"

 "助けて!!"

 "おかあさーん!!"

 "コウ!!出してくれ!!"


『助けて、たすけて、タスケテ』


「いやっ…!」


 私は頭を抱えて座り込む。

 やめて、やめて…!


 これは、私のせいじゃない…!!


「サマヨイ…」


 彼女が呼ぶ声は今の私にはもはや聞こえていない。

 ザッザッとひときわ大きく聞こえる足音が近づいてきた。


「なんでだよ…」


 顔を上げると、そこにはコウさんがいた。

 本物のコウさん。


 血の涙を流す勢いで、コウさんは涙を流していた。そして、相手を貫くような、ひどく冷たい視線を向けた。


「コウさ…」


「なんで泣いてんだよ!…ッ何でお前が泣いてんだ!!」


「ごめんなさ…」


「謝れって言ってんじゃねぇんだよ!!

 なんで泣いたか、聞いてるんだ!!」


 何も考えられない私は、思いついた答えをそのまま口に出す。


「コウさんの…過去を見たから…」


 コウさんはハッとして俯いた。

 歯を食いしばり、拳を握りしめて。


「俺が泣きたくても泣けない理由が分かったか!俺は過去のことを反省してるから泣いちゃいけない、感情を出しちゃいけないわけじゃない!!


 この砂漠に誰かの涙を落とせば、埋もれた仲間は、救い出した仲間はもう、二度と帰ってこない…!!ぬいぐるみにのまれた人間は、箱から出られないんだ!!


 だから…だから、ばあちゃんも、じいちゃんも…ッ…姉ちゃんも…!!

 全員…砂にかえったんだ!

 救うことができるのは…俺だけなんだ…」

 

 コウさんは声を押し殺して泣く。


 私は、這ってコウさんに近づく。そして、膝をついて、涙を拭うコウさんの肩に触れようと…



 パンッ



 私の手はコウさんによって払われた。何が起こったのか、一瞬理解が追いつかなかった。


「そうだった…そうだったよなぁ…ノースに全部、教えてもらったんだった」


 うつむいていたコウさんは、急に立ち上がった。

 そして私を睨んだ。

 コウさんの目が、爛々と輝いている。


「オマエ、"ココロココニアラズ"を患ってる奴だな?」


「ッ!!それは!!」


「オマエが…オマエが願ったからこうなったんだろ?!

 人間が消えたのはオマエのせいなんだろ?!!

 感情も何もないクセして!!俺やばあちゃんやじいちゃんのように、今までいろんな人を騙してきたんだろ??!!

『ココロココニアラズ』、『ココロココニアラズ』、『ココロココニアラズ』!!!!! 」


「やめて!!」


「オマエのせいだ!オマエのせいだ!オマエのせいだ!」


 私は後ずさりをするばかりで、何も言えなかった。コウさんはシャベルを手に取る。

 背中に恐怖が駆け巡る。


 私は腰が抜けて、座り込んでしまった。

 コウさんはシャベルをしっかり持ち直す。

 そして、それを振り上げ、私が目を瞑った時だった。


「待ってコウ!!」


 ノースさんが叫んだ。シャベルがカランと音を立てて硬い地面に落ちた。


 何も起きない…。

 私は目を開ける。

 コウさんはボロボロと泣いていた。いくつもの涙が、地面に落ちる。

 そしてその目は、私の目をじっと見ていた。


「白い目……なんで…」


 咄嗟に左目を触る。触れたのは髪の毛ではなく、肌だった。

 見えないはずの左目だった。


 いつのまに左肩に移動した彼女は私の前髪を上に上げていたのだ。



 コウさんは姉と私を重ねている。


 違う、私はこの人のお姉さんじゃない。

 彼のお姉さんなら、こんなこと…。


「出てってくれ…」


「え…」


 小さな声は聞き取れなかった。

 すると、大声で、はっきりと告げる。


「ここから出てってくれッ……!!!」


「ッ…!!」


 そう言われた途端、狂ったように、弾かれたように私は走り出した。

 固くなった地面は皮肉にもとても走りやすく、私はどんどん走っていく。


 後ろは見ない。絶対に、ゼッタイに…!!


 その時だった。後ろから猛烈な風が吹いた。


「きゃあっ!」

「うわぁっ!」


 まともにくらった私は、体が宙に浮き、風がなくなったところに叩きつけられた。


「ヴッ!!……くッ…」


「サマヨイ…大丈夫か…?」


 身体が疲れた。身体が重い。

 私はなんとか起き上がる。


 彼女は私のほおをポンポンと叩く。

 柔らかくて、冷たい。


 私は彼女を肩から下ろす。そして、両手で撫でる。



 涙が溢れた。



 ☆

 サマヨイが…泣いている…。


 ダメだよ、泣いちゃ。だって…


 だって、サマヨイは何も悪くないじゃん。


「サマヨイ…大丈夫か…?」


 ふと、サマヨイはあたしを下に下ろした。そして、両手であたしの脇の下に手を入れ、親指で顔を撫でた。


「やっちゃった……どうしよう……人を…傷つけちゃった…」


「サマヨイは何も悪くない。だって旅人なんだし、何にもカンケーないじゃん。だからさっね?」


 サマヨイの涙はあたしの上にいくつも落ち、布地に染みていく。


「ちがうよ…だって私は、"ココロココニアラズ"

 だもん…!ニンゲンに恨まれて当然のやつなんだ…!!

 なのに…ニンゲンを助けれるなんて思ったのがバカだった…!助けようなんて思ったのがバカだった!

 感情を持ったのがバカだった!!


 調子に乗ってたんだ、自惚れてたんだ!!

 私は馬鹿だ…バカでアホでマヌケでクズで…

 "ココロココニアラズ"なんだ!!」


 あたしは何も言えなかった。サマヨイは感情を持ったのがバカだったって言った。


 これはチャンスだと思った。感情なんていらないって思わせる、大チャンスじゃん?!


 なのに…うれしいのに、なんで?

 なんであたしは悲しいんだ?なんでだい?



「うわあ゛ああああああああああ!!!」


 大声で泣き叫ぶサマヨイ。


「そんな、泣くなよなぁ…」


 日が暮れていく。薄暗くなっている砂漠にサマヨイの鳴き声が、嗚咽が響いている。


 こんなに泣いているこの子は、見たことがなかった。

 その時だった。背筋に悪寒を感じた。


「私、なんで生まれてきたのかなぁ…」


「サマヨイ!」


 サマヨイ、ダメだ!その感情に流されたらダメだ!!





 あたしが…存在出来なくなる…!!






 サマヨイの心が真っ黒に染まっていくのがわかった。

 と同時に、あたしはとても苦しくなる。


「くっ…サマヨイ…」


 息ができないんだけど…?

 この世界にいられなくなると、あたしも死ぬんだけど…??

 それだけは、やめてほしい…。


 大ピンチだった。

 どうする?どうする??どうなる??

 パニックになってあたしも何も考えられない。


 気が遠くなりそう…






「どうして泣いているんだい?」




 そのとき聞こえた声は、あたしのでもサマヨイのでもない、別の声だった。

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