国…ソレハ穴掘リト慈悲ノナイ箱 VII
人間が歩いている。立派な車が煙を上げて走り抜ける。
周りにはコウさんの家と似た家や四角くてとても背の高い建物がたくさん並んでいる。
住宅地…なのだろうか…。
「ねえ、ここどこだと思う?」
私は彼女に話しかけたつもりだった。だが、いつもの調子に乗った返事が返ってこなかった。
私はハッとして自分の肩を掴む。見る。
彼女はいなくなっていた。
まただ…今夜は何だろう…なんなの??
どこの国に行っても、一度は彼女がいなくなる。
ふと、私は自分の手を見た。何かがおかしい…手のひらを通して、周りの景色が見える。
半透明になってる?!
私、死んだの??!
両手をさらにかざし、青空が手を通して見えることに焦っていると、声が聞こえた。
「帰ったらお菓子はとったもんがちねっ」
「はぁ?!おとなげなぁ!!」
「へっへへ〜」
私の横を二人のニンゲンが通り過ぎていく。
一人は背が高く、一人は少し背が低い。
2人とも背中に何かを背負って、黒っぽい、紺色っぽい服に身を包んでいる。2人は1つの家に入っていく。
私はその家の正面に立って驚いた。
コウさんの家だ…!!
ということは、さっきのはコウさんと、その…お姉さん?!
顔がよく見えなかったから、どんな顔をしているのか、本当に私と似ているのかも分からない。
ここは、マーサさんの言っていた、村…ということなのだろうか…?
「わっ!」
ふと、周りが一瞬で白くなり、場所が移動した。
そこはあの、丸い机のある部屋だ。
私が昨日ご馳走になった時のように4人で机を囲んで。
"いただきまーす!!"
お姉さんは後ろ姿しか見えないが、その正面に座る、コウさんがよく見えた。
コウさんはよく笑っていた。満面の笑みで、幸せそうに12歳らしい、子供らしい笑顔。
にぎやかで、楽しそうで、温かい所。家族。
周りはオレンジ色の空気で満たされているように見えた。
すると、また周りが一瞬で白くなり、場所が移動した。
少し薄暗かった。
私とマーサさんが寝ていた部屋の前に、コウさんがいる。入り口の戸は、中の見えない素材でできており、その戸は閉まっていた。
じっと佇むコウさんは戸の取っ手に手をかけようとした時だった。
中から聞こえてくる声。くぐもっていて、頼りなくて…でもとても綺麗な歌声。
コウさんのお姉さんのものだろうか。
「姉ちゃん、夕ご飯できたって…」
コウさんはポツッと小さな声で言った。
すると、中から聞こえてきたのはなぜか…
「…来るなって、何度言ったらわかるの?!
ご飯はいらないって言ってるじゃん!!
あっちに行けって!!
2度と話しかけるな!!!」
叫ぶような、涙ぐんだ怒声。
なんで?コウさんは知らせに来てくれただけでしょう?なんで、そんなに怒るの??
コウさんは、何もしていないのに…。
コウさんの優しさを無視するようなことを…
なぜ。
コウさんはうつむいて、そこから去っていく。
"何で…俺は………ッ変えなきゃ…俺は、笑っちゃダメなんだ…"
コウさんの心の声。悲しく、暗転している色。
どうして、笑っちゃいけないの?
頭がこんがらがる。その時だ。別の声が聞こえてきたのは。
"ちがう…ちがうちがう!!…ちがうのに…
ごめん…ごめんね、コウ…"
「?!!」
再び場所は移動する。
そこは、砂漠だった。
戻ってきたのだと思った。だけど、体は半透明のまま、彼女は肩にはいない。
まだ、戻ってこれていない…。
ポツンと、1人で立っているコウさん。肩には、ノースさんが乗っている。
私はコウさんの目の前にいた。コウさんには、私が見えていない。
コウさんの目は虚で、クマで目の下が黒くなっている。何かが抜けたように呆然としている。
「コーウ!」
ノースさんが一生懸命話しかけている。
ふと、コウさんの頰に涙が伝う。
「あっ…」
「あー!ダメだよコウ!!我慢だよ!が、ま、ん!!」
歯を食いしばり、ゴシゴシと目を乱暴にこすっている。
「よくやったよ、コウ!偉い偉い!」
「うん、もう大丈夫だよ。ノース」
どうして我慢するの?
泣きたい時に何で泣けないの?
何で泣いちゃダメなの?
私の不満はほんのかすかな怒りの炎を灯す。
ふと、また場所が移った。
コウさんを含めた2つの少年の声が響く。
一番はじめに見た住宅地らしき景色へと、戻ってきていた。
「お前の姉ちゃんさ、目の病気なんだっけ?」
「そ…そうだけど…」
「やっぱそうだよな!だってあんなの初めて見たよ!言っちゃ悪いけど、
気持ち悪くない?一緒に毎日暮らしててさ」
自分の心臓の鼓動が、耳元でうるさく鳴り響いてるのがわかる。
「別に…気持ち悪くはないよ…?」
「へぇ〜すごいな。俺だったら嫌だけどなぁ。ちかよってほしくねぇし、なんかうつりそうじゃん?あんな目になったらいじめられること間違いなしじゃね?」
無意識に、拳を握りしめている。
「まあ、でも確かに…ちょっと怖くなるときもある、かな…」
一連の2人の少年からすれば何気ないであろう会話。だが、そんな何気ない会話でも、時に不幸を呼び寄せる。
「げっ…あれお前の姉ちゃんじゃね?!」
「!!……姉…ちゃん…」
2人の後を歩いていた私は、2人のその先を見据える。
そこにいたのは、コウさんのお姉さん。
長い髪を後ろで1つにくくり、前髪は綺麗に切りそろえられている。
そして、左目が白い。
「おかえり。あ、この前の友達くん。コウのこと、これからもよろしくしてやってね。
じゃあ、家ン中に入るから、またね」
ドアのバタンと閉まる音。
「どうしよう…」
「ごめん、俺用事あったんだ!またな!」
コウさんの友達はそそくさと走って行ってしまう。
「どうしよう…」




