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砂漠の果て -i'M LoOkInG foR-  作者: Min
第1章 旅の話をしましょう
35/50

国…ソレハ穴掘りト慈悲ノナイ箱 IV

 家はポツンと、一件だけ建っていた。


「おもしろい屋根してるねぇ〜」


 彼女のいう通り、今までに見たことのない屋根の作りをしていた。黒っぽい色の板を一枚一枚丁寧に重ねてできているらしい。何かのはずみで落ちてきそうだ。


 家の正面に行くと、ちゃんと扉のついたスライド式の入り口と、その横に少し出っ張って外に出ている部分がある。廊下…だろうか…。


 そしてそこには、1人のおばあさんが、ふかふかの紫色の布の上に座っていた。肩に乗っているぬいぐるみは、犬だった。


「ばあちゃん、ただいま」


「おかえり。あら、いらっしゃい…ん?…あなた…どこかで…」


 身につけている衣服の袖から骨ばった腕がのぞいている。シワの多い、働き者な手…。


「この人はサマヨイさん。旅人だから会ったこと、ないんじゃないかな…」


「そ、そうね。ささ、上がって、次の大風が来てしまう」


 さっきの砂嵐だ。それは嫌だ。

 それにしてもあのおばあさん…私のことを、知ってるの?


 私の中に不安という名の黒い雲が広がっていくような心地がした。それはまるで、今の空模様と同じように…。


「気をつけなよ。嫌な予感すっから」


 彼女が小声で言った。


「わかってるよ。でもこの人たちは、大丈夫だと思う」


「根拠は?」


「ない」


「はぁ」


 そんなため息つかなくてもいいのに。疑っていたとしても顔に出すのは失礼だ。


 私は入り口からお邪魔すると、丸い机が1つ置いてある部屋へと通された。丸い電球が付いているだけの少し明かりの寂しい部屋。置いてある家具は質素で、落ち着いている雰囲気にとてもあっている。


「草の匂いがする」


 彼女は一言そう言う。すると、ノースさんは説明してくれた。


「この部屋の床だよ。わらでできてるからその匂いだね。僕ははこの匂い結構好きなんだよねぇ〜。あ、どーぞどーぞ、そこに座って!」


 私は促されるまま丸い机の前に腰かける。コウさんは目の前の向かい側に座った。


 それにしてもノースさん、よく喋るなぁ…。トリのぬいぐるみだからかな…。


「サマヨイさんは何歳?」


「私ですか?…17ですけど…」


 ノースさんの元気の良さに圧倒されつつ答える。


「そーか、じゃあ、コウより5歳年上だね」


「そうですか…」


 と言うことは、コウさんは12歳なんだ…。背も私とあまり変わらないし、なんだか…大人びてるな…。


 自分の中でいろいろ考えていると、ぼーっとするのが悪いところ。気づけばその場は沈黙に包まれていた。


 何か、喋らなければ…


 何か話そうと口を開きかけると、さっきのおばあさんがやってくる。その手には中くらいのお皿を2つ持っている。


「サマヨイさん、もう外が暗くなり始めてるし、そのうち大風が来るから今日は泊まっていってね。」


「すみません、お言葉に甘えさせていただきます。えっと…お名前を伺っても…?」


「マーサよ。で、この肩の子はネネ。若いのにしっかりしているのね」


 ニッと歯を見せて笑うマーサさんに私は恥ずかしくなった。


「いいえ、そんなことは…」


 返答も口先でもごもご言っただけである。目の前の机に2つのお皿が置かれた。1つは茶色いものがいくつも乗った皿。もう1つは芋が入っている。あたり一帯は砂漠なのに、どうしてこんなものが取れるのだろうか…。


「すぐ近くに、オアシスがある。そこでじいちゃんがとってくるんだ」


 急なコウさんからの返答に私は少し驚いた。


「それは…すごいですね…」


 少し、曖昧になりすぎた。…私はこっそり自分の中でコウさんに謝った。


「ノース、ちょっとここにいて」


「んえ?」


 コウさんはノースさんを机に降ろす。そして立ち上がって、隣の部屋へ行ってしまった。


「ばあちゃん、手伝う」


「いいのにぃ〜久々のお客様なんだからお話しすればいいのに…。」


「手伝いならするってば〜!」


 ノースさんも行ってしまった。奥で話す声が筒抜けだ。なんか…ごめんなさい…。


「だってあの人、姉ちゃんに似てるんだ。」


「ッ!!!」


 ドキッと心臓が跳ねた。


「やっぱりそうなのかい…?×××に…あの子が戻ってきたと言うの…?」


 まずい…どうしよう…バレてしまったのか…


 でも、私はあの人の姉ではない。ここの人たちは今まで一度も会ったことがない。


 今、大風は来なさそうだし…今のうちに…外へ行けば…。


 そのとき、ガララっと入り口の音がした。


「帰ったぞ」


「おかえりぃ」


「じいちゃん、お帰りなさい」


 さっきのコウさんが言っていた、おじいさんが帰ってきたのだ。なんでだろう…少し緊張する…。


「お客さん、いらしてるからね」


「そうか」


 私は正座をして背筋をピンと伸ばす。すると、奥の部屋からその人が入ってきた。思わず俯いてしまう。挨拶を…しなければ…。


「お客人はあんたか」


「はいっ」


 声が跳ねる。威厳のある重みのある声に圧倒している。


 だから、なぜ緊張しているの私は…!


 恐る恐る見ようとすると、おじいさんは向かいにどかっと座り込んだ。


 へっ変な汗が出てきた…。


「お客人、あんた、どこかで会ったことないか?」


「えっ」


 思わず顔を上げると、真剣な顔でこちらを見ている。


「ええっ…と、思い当たる節は…ない、です…

 すみません…」


 嘘をついているわけではないのに発言がたどたどしくなってしまう。


「お客さん、そんなに固くならんでくださいや」


 ふいに、初めて聞く、おっとりした声が聞こえた。声のする方を見ると、ぬいぐるみがゆっくり歩いている。メガネをかけた犬のぬいぐるみの…おじいさん…?ゆっくりとコウさんのおじいさんの方へと寄っていく。


「マオ、顔が怖いぞ。もう少し力を抜きなさい」


「そんなに怖い顔しとったか?」


「お客さんが怖がってますよ」


「いえっ!そんなことはっ!」


 思わず身を乗り出し、大きな声が出る。


「何だおまえさん、デケェ声でるじゃねえか」


 ケタケタと打って変わって笑顔で笑うおじいさん…。


「顔が怖かったのは悪かったな。わしはマオ。こやつは、アサ」


「以後、お見知り置きを」


 似てるな…2人の笑顔…。

 そんなにも、厳しい方ではないのかもしれない。


「はい、はい、お待ちどうさま〜」


 マーサさんとコウさんが大きなお盆を持ってやってくる。


「ご飯と、お味噌汁、そして取り皿。この大きなお皿から食べたい分だけ取って食べてね」


「うわぁー!美味しそうだぁ〜!」


 滅多に物を口にしない彼女ははしゃいだ。


「ありがとうございます」


 コウさんはガラスのコップを置いていく。


「お茶です」


「ありがとうございます…」


 茶色い透き通った色をしている。トワさんが作ってくれたものとは見た目がちょっと違うな。何て言うお茶なんだろう。


 マーサさんもコウさんも座り、丸い机を4人で囲む形となった。


「それじゃあ、召し上がれ」


 マーサさんの一言で全員が合掌する。


「「「「いただきます」」」」


 箸をつかみ、みんな一斉に真ん中の大皿から食べ物を取り始める。しかし圧倒されて、箸とお皿を持ったまま静止してしまう。


「好きなだけとってね。それとも、唐揚げは苦手かい?」


 心配して聞いてくださったマーサさん。


「いえ、そんなことはありません!」


 今日何度目かであろう台詞を口にする。

 私はその唐揚げと呼ばれた茶色く、電球の光でテカテカと光っている食べ物を自分のお皿に2つほどとる。食べたことのない…この国あるいはこの家の料理…。

 しばらく見つめた後、思い切って一口かじる。


「おいしぃ…」


 驚いていた。こんなにもジューシーで味が付いている美味しいものなんてあるのだろうか…?私は箸で掴んでいた残りを一口で頬張る。


「美味しいかい?」


「はいっ!とても!」


 心臓がドキドキしていた。久々に感じたこの興奮するような感覚。


 もう、これは、知っている感情。


「そりゃ、よかったよ。旅してるのにこんなやせ細っていてはダメよ」


「おまえさん、やっぱりデケェ声が出るじゃねぇか。そんで、いい顔してんぞぉ、今」


 いいカオ??どういうことだろう。思わずキョトンとしてしまう。


「いい笑顔をしているってことですよ、サマヨイさんっ」


 ノースさんが小声で教えてくれた。

 いいカオ…


 私は、ちゃんと笑えていたんだ!


 そう思うと、私は自然とマオさんに笑いかけることができた。マオさんは少し驚いた顔をしたが、すぐまた、ニッと笑ってくださった。


 色々な質問の受け答えをし、マオさんからオアシスの話を聞いたり、私から今までの旅の話をしたりした。


 笑って、笑って…笑い合って…身体は隅々まであたたまっていた。




 この家は、とてもあたたかい所だ。


 大風が吹き、家をガタガタと揺らしたが、私は全く気がつかなかった。



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