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砂漠の果て -i'M LoOkInG foR-  作者: Min
第1章 旅の話をしましょう
30/50

国…それは演説 「憤怒」より XVIV

「おい、サマヨイ、サマヨイってば」


 私はゆっくりと自分の左肩を見る。


 ちゃんとそこにいた。彼女がちゃんといた。ちゃんと目があった。


 嬉しくなって、片手で彼女を撫で、顔をうずめる。


 柔らかい…ひんやりしてる…心地いい…


「よかった…」


 思わず漏れた声はかすれていて、とても小さいものとなった。


「ん」


 彼女は私の頭をポンポンと叩いた。


 心の底から、ホッとしていた。

 彼女がいなくなってしまったら、私は一体、どうなってしまうのか…

 考えるだけでも恐ろしかった。


「サマヨイさん」


 唐突に名を呼ばれた。ゆっくり振り向くと、ロトさんが立っていた。被っていたものを取っていたが、額に瓶をぶつけられた時の痕は無くなっていた。


 ロトさんは、優しい目で、私を真っ直ぐ見つめて言う。


「あなたのおかげで、多くの人が救われました。この国の民達も、私も…ハナエも…


 ありがとう」


 ありがとう


 不思議と自分の中で広がっていくのが分かる。

 嬉しいのかもしれない。


 でも、それを言葉にしてはいけないと、瞬時に思った。

 本当に多くの人を救ったかどうかなんて、定かではなかったし、実感がまるでなく、わからなかったから。


 ハナエさんは、コイさんを抱くような形でソファで眠っていた。

 穏やかで、どこか幼い寝顔。

 安心したような寝顔をしていたが、くっきりと濃い目の下のクマと、やつれたような頰は、この人が今まで過ごしてきた日々の過酷さを物語っている。


 肩の荷は、降りたのだろうか…


 私はハナエさんに、"イミ" を送ることができたのだろうか…


 自信がない気持ちのまま、思ったことを口に出す。


「私はただ、自分勝手に言葉を並べて、自分勝手に私の不満を叫んだだけです。

 ただの、自己中心的な行為を取っただけです。

 お礼を言われるような、そんな立派なことなんてしていません」


 私は深く俯く。


 恥ずかしかったから。


 この国とは何も関係ないクセして、なんの資格もないのに、大勢の人間の前で、ひたすらに彼らの文句を吐き出すだけ。


 バルコニーの方を見ると、外は青空で、光っていて、そしてとても静かだった。


 ロトさんを除いた人間の声は、誰一人として聞こえてこなかった。


 戻ってきた。改めてそう思った。


 私は彼女に小声で言う。


「行こうか」


「そだね」


 私は荷物を拾い上げる。そして、落ちていた短剣を拾い上げ、ロトさんに差し出す。


「すみません、乱暴な使い方をしてしまいました。ハナエさんに渡しておいていただけますか」


 ロトさんは短剣を見つめた。


 そして思い出すように話す。


「ハナエは昔、これを使って、あるヒトの大切なものを奪ってしまった。あるヒトの一生を、夢を、未来を…奪ってしまった」


 頭の中に蘇る、残酷な光景…少女の過去…


 ハナエさんの後悔…


 何も答えられなかった。命を奪う、そんなこと、誰にもできるはずないと、ずっと思っていた。


「だからこそ、ハナエにはわかるんだ。命を、大切なものを目の前で失う苦しみと、誰かにとっての大切なものを、命を、奪ってしまうという罪を。サマヨイさんにはハナエがヒトを殺した犯罪者に見えるかもしれないがね」


 私は強く首を横に降る。

 ハナエさんは犯罪者なんかじゃない。


「だがサマヨイさんは、そうやって最後までわたしの妹の味方でいてくれる。それだけでハナエもわたしも、救われるんだ」


「えっ」


 私は思わずロトさんを見る。今…救ったって…


「サマヨイさんは私たちの過去を知った上で、彼らに伝えてくれたんだ。2人分の思い、全てを…


 言葉は使い方次第で希望を与えることもでき、同時にヒトを殺すことだって容易である。


 サマヨイさんは言葉で、この国全体に光をもたらしてくれた。皆の心を動かしたんだ」


 わたしは再び恥ずかしくなった。いたたまれない。

 そんなに言ってくれるような事なんて何も……


「"ココロ,ココニアラズ"」


「ッ‼︎ 」


 目があった私にロトさんはいたずらっぽく笑う。


「その病を持つ者が、ニンゲンを消してしまったと、カシやコイから聞いたよ 」


 私は息を呑む。……じゃあ、最初から……?

 いや、そんなはずない。

 私はこの人を知らなかったのだから。


「サマヨイさんはこの世界に希望という光をもたらす力を持っている。

 必ず、君を必要としてくれる人はまだたくさんあるはずだ。


 君たちならきっと、この世界を元に戻してくれると、


 信じているよ 」



 一際大きな風が私を貫いていった気がした。


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