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砂漠の果て -i'M LoOkInG foR-  作者: Min
第1章 旅の話をしましょう
3/50

国…それは2つ結びと歓喜 II

「ごめんなさいね。久々のお客様だし、何より昔の友達にそっくりだったものだから 」


ひとしきり泣いたこの少女は、驚かせたお詫びにと家まで案内してくれ、お茶まで出してくれた。


  少女はお茶を入れながら話す。そしてお茶を置きながらわたしの目の前に座った。2つにくくった小さな2つ結びが楽しそうに揺れる。


  「いえ、こちらこそすみません。お友達さんにかなり似ていたようですね 」


  のどがカラカラだったので、お茶をいただくことにした。甘い香りが鼻中にたちこめた。一口すすると、りんごの甘酸っぱい風味が体じゅうに染み渡るようだった。目の前で少女も一口すする。


  「そうなのよ。でもあなたとは性格が真反対な気がする。背が高い割にはとってもネガティヴなのよ、ふふふっ」


  ふわっとした優しい笑顔をする人だと思った。

  しかしすぐ、寂しそうな目でわたしを見る。


  「でもね、あなたと優しそうな目の形がそっくりなの 」


  「…そうでしたか 」



  こう言われたのは、初めてではない気がした。


  「お嬢ちゃんっこの飲み物美味しいねぇ〜。

 おかわりっ!」


  彼女がはしゃいで、小さなコップをかかげる。


  「やめときな、失礼だよ 」


  「いいんですよ、この子もおもてなししたかったんですよ 」

 

  わたしが制すると、少女の肩に乗るぬいぐるみが口を開いた。茶色いクマのぬいぐるみで、礼儀正しい言葉遣いをしている。まるで、少女に仕える使いのようだ。


  「すみません、彼女におかわり、いただいてもいいですか 」


仕方なく、私は少女に彼女のお代わりを頼む。


  「いいのよ、遠慮しないで 」


  コポコポと心地よい音がする。少女は彼女にコップを渡した。


  「気に入ってもらえたようでうれしいわ 」


  「いや〜これねぇ〜気に入っちゃったんだよぉ〜、あんがとねぇ〜 」


  ダラダラと彼女はお礼を言った。


  「いえいえ 」


  お茶を再び一口飲んだ 少女はわたしに向き直ると自己紹介を始めた。


  「自己紹介がまだだったわね。私はトワ。この国の"イキノコリ"よ。この世界の事情はこの子から聞いているわ 」


  そう言って肩のクマのぬいぐるみの方を見た。そのぬいぐるみはトワさんの肩から机に降り立つ。

 

  「チカ、と申します。先ほどはトワが失礼いたしました。なにせ、本当に久々のお客様でしたので 」


 丁寧に礼をされ、思わずわたしも礼を返した。


  「いえ、お気になさらず。私こそ、ノコノコと勝手に国にお邪魔させてもらってすみません。

  わたしは…」

 

  「この変人は、サマヨイねっ。見ての通り、旅人さっ!」


  彼女はわたしが名乗ろうとすると、いつも代弁してくれる。だから、わたしは頷くだけでよかった。


  「まぁ!旅人さんらしいお名前ね!」


 トワさんがウンウンとうなずく。


  「そちらのうさぎさんは、名はなんと…?」


 チカさんが彼女の名前を聞いた。そしてこれもまた、当たり前のようにわたしが返事をした。


「すみません。彼女はいつ、どこの国へ行こうとも、あまり名を明かしたがらないんです。実をいうと、わたしも教えてもらっていません 」


「なるほど、それはそれはとんだご無礼を 」


「全然大丈夫ー。あ、トワさんや、ごちそうさま」


 あいかわらず、彼女は軽い。


  「あの、気にしないでください。…それにしても綺麗なお家ですね。ここの雰囲気、好きになってしまいました 」


  床には、砂の上だが絨毯がひかれ、石でできた、台所がある。小さな窓からは光はあまり入らず、部屋は少し薄暗いが、静かで涼しく、落ち着いた時間が流れているようだった。


  「私の家は代々宿屋を営んでいるの。旅人さんにそんなこと言ってもらえるなんて、毎日掃除していたかいがあるわ!」

 

  「なるほど、どおりで心が落ち着くわけですね 」


  「泊まりに来るお客さんなんてここ数年来やしないけど、毎日楽しくやってるわ 」


  「今は何を…」


  「みんながあの状態になってしまってからは、国中の動物たちのお世話をしているわ。さっきの馬たちも、他にもいくつか囲いや、舎があるから毎日巡回しているの 」


  ふと、さっき威嚇をしていたオオカミがトワさんに頬ずりした。


  「その子もですか…?」


  「ううん、この子は砂漠で行き倒れていたところを拾ったの。砂漠オオカミは比較的群れで行動することが多いのだけれど、仲間が倒れていても構わず先に行ってしまうの。別名、旅オオカミとも呼ばれているわ。この子はこう見えて、ちょっと臆病なところがあるから何かあったのかもしれないわね 」


トワさんは慣れた手つきでオオカミを撫でた。

 

「初めて知りました。かなり長い時を旅に使って来ましたが、まだ遭遇したことがありません 」


「そうなの? 今頃、どこを群れてかけているんでしょうね。…いつか会えたら、この子も連れて行かれるのかなぁ 」

 

  トワさんはソイと名付けられたオオカミを撫でる。やっぱりトワさんの側からは片時も離れることはなかった。まるでトワさんを守る騎士のようで頼もしく見えた。


「そうでもないかもよ。めっちゃ懐いてるし、絆もそれなりに深いみたいだし 」


  彼女は何気にいいことを言う。滅多にないことだが。


「頼もしい、相棒さんですね 」


「でしょぉ?」


  トワさんは目をキラキラさせてニッコリと笑いかけてくれた。


 





  わたしも、ちゃんと笑えているだろうか……

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