国…それは演説「憤怒」より XVIII
声が、叫びが、怒りが、完全に私を覆い尽くす。
何も見えない、目の前にあるモノは何なのか、もはや認識することすら放棄しているのかもしれない。
声にならない絶叫は遠くへと伝わっていった。
バクバクと心臓の音が耳の中で暴れている。
気付いた時にはもう始めていて…止めようもなかった。いや、止めたくなかったのかもしれない…
静まり返った空気に私の声が染み込んでいく。
「何で…話を聞かないんですか…?…
何で聞こうとしないの?!」
敬語を使うことも面倒になる。
酸素が足りなくてのどが奇妙な音を立てている。
でも私は叫ぶことしかできないから。
「バカバカバカバカ言うな!!バカなのは…あんたたちだ!
文句を言って何が楽しいの?!
人の話もロクに聞かずに何で文句言うの?!
何で言えるの?!!
弱虫…!文句しか言えないのは、弱虫の証拠だ!同情してくれる仲間を集めて、集団で特定のニンゲンを軽蔑して…くだらないと思わないのか!!バカらしいと思わないのか?!
無駄なことをしてるのはあんたたちだ!!
あんたらには分からないだろ!
与えられるはずのない苦しみを与えられ続け、傷つき、痛めつけられ、今までを死に物狂いで、くじけながらも、ここまで懸命に生きてきた!…いや、生きなければならなかった者の気持ちが!!
あんたたちには、絶対わかりっこない!!」
言葉は恐ろしいほど正直で、恐ろしいほどの数がある。知らず知らずのうちにひどい言葉は紡がれていく。
だからこそ、伝わってほしい…!こんなの間違ってるから…!
だが、そう簡単にコトバは
伝わらない
「うるせぇよ!異国人の分際で何訳のわかんねぇことほざいてんだよ!てめーらみたいにノコノコと平和ごっこしてる奴にはカンケーねぇんだよ!オマエこそわかんねえだろうが!戦のたびに死ぬ兵士の気持ちが!家族を失って、友人を失っていく俺たちの気持ちが!!
なぁ!!?分かるのか??
平和を手に入れるためにはこうするしかねぇことすら知らねぇのか!!」
そう言い返す男に、周りのニンゲンはそうだそうだと言わんばかりに盛り上がる。
ニンゲンはこうやって仲間を作るんだね。
改めて理解した。私も同じニンゲンだから、彼らの立場ならああやって一緒になって盛り上がるのだろうか…
絆も…信頼もない…くだらない…
私は何をしているんだろう。届くはずもない、聞き耳を立ててくれるはずもない大勢のニンゲンの前で、何恥ずかしい事してるんだろう…
私は何を言うためにここに立ってるの?
何が言いたかったの??
とてもとても腹が立っている。
とてもとても悔しい。
死ぬ兵士の気持ちが?
大切なものを失う彼らの気持ちが?
平和に暮らすために戦争をする?
意味がわからない!
知らない…知らない知らない知らない!!!!!
「そんな無駄話やめちまえ!!」
「うるさいッ!!うるさいうるさいうるさいッ!!うるさいッ!!!」
喚き散らす子供のように私は叫ぶ。
「分かってるよ…私だって分かりっこないさ…
たとえ分かりたくても、分かってあげられることはできない…苦しみを肩代わりすることなんて一生できない!!」
お願いだから…私はあなたたちを傷つけるために叫んでるんじゃない。
ココロはひたすらに叫んでいた。
伝われ、伝われ、ツタワレ!!、と。
「その人の傷は、心のキズは、一生つきまとうんだ!!死ぬまでずっとついてくるんだ!!
戦争をしたって、争いを続けたって、残るものは何もないんだよ!!
悲しみよりももっと大きな、残酷なものしか残してくれないんだよ!!」
みんなはとっくに分かっているはずだから。
「家族は大切…友人は大切…!たった一つしかない命は大切!生きることは大切!!
こんなこと、あたりまえのように、毎日のように言ってるでしょ??!
こんな争いが終わらない限り、誰かにとっての、自分にとってのかけがえのないものは失われ続ける!!」
カラッカラののどは、一本の亀裂が入ったようにヒリヒリして痛い。声はガラガラになっていく。
自分で何を言っているのか、後になったらもはや忘れているだろう。
「知らないはずないでしょ?!自分が大切にしなければならないものくらい!!
分かってるなら、探してよ!!だれも、何もキズつかない方法を!!
失うものがない方法を!!
伝えたいことが伝わらなくて、苦しみ続けている人たちを救う方法を!!
そんなこと考えられない?平和のために戦争をする?!ふざけるな!!
考えられないわけない!こんなにいるんだから!
一人一人が考えて、一人一人が聞いて、一つ一つ変えていけば、未来なんていくらでも変えられる!!
誰も失わず、苦しむ必要もない!!
作れるでしょ??考えられるでしょ?!
自分が本当はどうしたいかぐらい、みんなが本当はどうしたいかぐらいッ!!
だって…だって!!あなたたちは…あんたらは!
ニンゲンなんだからさぁッ!!!!!」
全ての言葉を吐き終えた気がした。息が切れて苦しい。急に疲れがやってくる。
何も気配を感じない…聞こえない…
そう思っていたら、ポムポムと柔らかいものが
私の頬を叩いた。
「サマヨイ」




