国…それは演説「憤怒」より XVII
私は握っていた短剣の鞘を抜いた。
「おい…オマエ何して…?!」
ハナエさんの声を無視して私はそれを国王めがけて投げる。かつての、ハナエさんのように。
短剣は国王の頭のすぐ横の椅子の背に刺さった。
「ヒィィィィ!!」
「おい、ただもんじゃないぞ、あやつ…」
「にっにげろぉっ!」
恐れをなした部下たちは国王に目もくれず逃げて行った。
「お、オマエたち!どこへ行く?!わしを1人にするでない!」
「…」
自分であって自分ではないよう、とはこういう時のことを言うのかもしれない。
ここまでとてつもなく大きく、激しい『怒り』を私は抱いたことがなかった。
目は無意識にも国王を睨みつけ、決して離さなかった。
国王は哀れにも、1人では何もできないらしい。
弱虫…
さっきまであんなに、大声で笑ってたのに…
あんなにも頑張る2人をバカにしていたくせに…
私は静かに、一歩一歩着実に国王に近づく。
そして、味方に見過ごされた国王の目の前に立つ。
すると国王は自分で自分の顔を覆い、指の間から視線を向けた。まるで、こいつには殺されまいと、舐めたような視線。
「ヒィッ!おたすけおぉぉ」
その一言は、私の『怒り』をまた動かした。
そのとてつもないものを抑えつつ、言葉を紡ぐ。
「あなたは、王という地位を降りた方が賢明だと思いますよ。」
案の定、このおじいさんは言い返してきた。
「なっなんじゃとっ!…そんなこと、ッヒイ!」
私は椅子に刺さった短剣を抜き、おじいさんに突きつけた。
「あのお2人は、戦いの悲劇を二度と繰り返さぬよう、伝えてくれているのです。
決して、見世物ではないんです。もし、再び2人を笑ったり、バカにするような発言をするようでしたら…」
私はもう一度、椅子に短剣をさす。
「あなた、死にますからね」
「ヒィィィィィィ」
目を見開き、体に力が入らなくなっているニンゲンをよそに、私は後ろを振り向く。
ハナエさんとロトさんは、驚いているようだった。私は驚く2人に、なるべく優しく笑いかけれるよう、努めた。
しかし、卑劣なのは国王だけではないらしく、私は笑顔を一瞬で消した。
外に注意を向けると、いくつもの暴言が一気に流れ込んできた。
「もう一度言ってみろ、腰抜けガァー!!」
「弱者め!!」
「恥を知れーー!!」
「誰かアイツ殺してしまえ!!」
「死ねよ」
「クソがぁー!!」
「無責任なヤツめ!」
「オマエのことなんかどーでもいいんだよ!!」
「死ぬのが怖いだけだろ、このヘタレ!!」
「オマエに味方はいないんだよ!」
「テメエの演説なんざ、誰も聞いてねーよ!」
「おじさーん、耳遠いんですかぁ〜〜?」
「アイツ今日も面白かったなぁ!早くもっかいやってよ!」
「顔出せよ、弱虫が!」
「これで何回めだよ!早く王様を出しやがれ!」
「デタラメだぁーー!!!」
「気持ちわるっ」
「くたばれー!」
「消えろっ!」
「この脳ナシがぁ!」
「うぜえんだよ!」
「王様万歳!!」
「バーカバーカ!!」
「殺せ〜!!」
「ふざけんなよ!」
「かわいそう…」
「自分が1番偉いと思ってんじゃねぇのか?!」
「アイツ、狂ってやがんだ」
「自分勝手が!」
「戦争をなめんじゃねぇぞ!!」
「頭イカレてんだよ、誰か助けてやれよ」
ひどい…
なんで…
追い討ちをかけるように、国王がまた言い出す。
「フッフハハッ。どうだ。おぬしらを肯定するものなどたったの1人もおらぬ。国の民ら全員が無駄であると思っておる。
そこで騒がしく喋ったことも、うるさいおぬしらそのものもじゃ!ヒッヒッヒ、ハッハッハッ!
無駄なんじゃよ!!」
ムダ
私は一瞬周りから音がなくなり、目の前が真っ白になった気がした。
聞いたことのある、言われ続けたことがあるような気がする。こんなにも苦しくなるのはなぜだろうか。
いつしか白かった視界は、赤くなっていくようだった。
みんな言ってる。ムダなんだ。あの人達のやっていることは、ムダなんだ。
そして、そのやっている人たちの存在さえも、ムダになるんだ。
でも、無駄ってなんだろう。国民達は知っているのだろうか。知っていて、言っているのだろうか。
私には、あの2人がやっていることは、大切なことだと思えるのに…
なぜ…?なぜなの?? ナゼ…
"俺のやっていることは、ちゃんと意味のあることなんだ!頼むから!伝わってくれないか…!?
諦めたく、ないんだ…!!"
急に聞こえてきたロトさんのココロの声。
それは力強くも弱々しい、そんな声だった。
この人の声は、ちゃんと届いているはずなのに…届かないはずがないと、そう思えた。
その時、ハナエさんの声が叫んだ。
"何がバカだ!何がかわいそうだ!!何が無駄だ!!!なんにも…なんにも知らないくせに!
アイツらなんかに、私たちの何がわかるっていうんだ!!文句しか言えねーくせに!
兄さんをバカにするな!
兄さんの言葉を汚すな!!
…どうして…どうして私は何もできないんだ…
役立たずだからか…?兄さんに頼りっぱなしだからか…??
…無駄なヤツだから…生きる資格もないのか…"
そんなことはないのに!!
そう叫びたかった。この人たちは、ハナエさんとロトさんは決して無駄なヤツなんかじゃないんだ!絶対にここにいるべき、いないといけないニンゲンのはずなんだ!!
外にいる全員に言いたかった。全員にわからせたい!!
早く、早く言わないと、この人たちが…!!
でも私には…あの無数のニンゲンの前で、部外者の分際で、言いたいことを言う資格なんて持ってない。
そんな、勇気…持ってない…
再びハナエさんのココロの声が叫ぶ。
"なんで、なんで私はアイツらに言えないんだよ!こんなに…こんなに悔しいのに…!こんなに…
私は!!"
私は手を握りしめていた。
ハナエさんの怒りが伝わってくる。
身体が熱を持つのがわかった。
''悔しい!悔しい!!弱虫弱虫弱虫!!"
私が…私がなんとかしなきゃ…
"動け、動け、うごけ、ウゴケェ!!"
「×××は存在自体が、無駄なんだよ」
うるさいッ!!
私の中でナニカが音を立てて切れた。
私はバルコニーに向かってまっすぐ走る。外に出た途端、全ての光が降り注いでくるように、ジリジリと照りつける。
私はバルコニーの手すりに手をつき、全身を使って、身体の隅々まで酸素が行き渡るくらいに大きく息を吸う。
そして、ただ、叫ぶ
「ゔわあああああああーーーーーーーーーー
!!!!!!!!!!」




