国…それは演説「憤怒」より XVI
「はっ…!!」
気がつくと、私はさっきのバルコニーのある部屋に立っていた。
戻ってきた、のか…?
でも、さっきまで私は戦場にいて、ニンゲンを、
殺そうとしていたんじゃ…
「戦争はするべきではない!新たな犠牲者を生むだけなのです!!…」
お兄さんは、ロトさんは再び演説を始めていた。ドアの手前にはハナエさんが立っていた。
きつく握られ、震える手。
何かを、怒っているようだった。
私は話しかけることができなかった。
ふと、私はある音をとらえた。今の国の状況では絶対聞こえるはずがない音…いや、声…!
バルコニーの外が騒がしい。私はゆっくりとロトさんの背後に近づく。両手は短剣が握られたままだった。
ロトさんの後ろまで来ると、その様子が一望できた。宮殿前を埋め尽くす人、ひと、ヒト…
そのヒト一人一人が大声をだして、誰が何を言っているのかわからなかった。だが、"暴言"というものだけは、ヤケに鮮明に聞こえた。
「私は今まで、人が争い、数多の尊い命がギセイとなり、大切な、かけがえのない人が失われてゆく様を何度となく見てきました…!!
もう見たくないんだ…!罪のない人が苦しみ、傷つき、絶望する姿を、私はもう、見たくないんです!!だからッ!!戦争という恐ろしいことなど今すぐにでも止めてほし__」
「うるせぇー!!だまれぇーーー!!」
「異国人がしゃしゃるなぁ!!」
「ふざけんなぁ!」
「調子乗ってんじゃねえぞ!!」
「お前が死ねばいいんだよ!!」
いくつもの罵詈雑言を浴びせられてもなお、ロトさんはその場を離れなかった。暴言を受けても、演説を続けているのだ。
「お願いですから聞いてください!!何度だって申し上げ__」
私は彼女の言ったことを思い出していた。
"だってさ、アレ完璧に、意味ないじゃん?"
"意味がない“
その言葉が私の中で反芻していく。
何をやっても、思った通りにならない。…だったら、やらなくてもいい。
そう思うのが正しいのではないだろうか。
彼女の発言は失礼だと注意したけれど、それはオモテの顔で、本当は自分でも彼女と同じことを思っているのではないのか…
自分がどれだけ頑張ったって、相手がそれに答えなきゃ、前に進めないじゃないか。だったら尚更だ。
今すぐやめた方がいい。
"無意味" だ。
パリンッ!
何かの割れる音とハナエさんが叫んだのは同時だった。
「兄さんッ!!」
ロトさんは尻もちをついて座り込んでいた。片手で額をおさえている。
聴衆内の野次の誰かがロトさんに瓶を投げつけたのだ。
衝撃を受けた私は、声すら出てこなかった。
「兄さん…血が…」
「なに、大丈夫だ。これくらいなんのなんの」
そう言いつつも、ロトさんは辛そうであった。しかし、再び立ち上がろうとしている。ハナエさんはそれを必死に止めた。
「もうやめよう…兄さん…!これ以上、兄さんが…」
「ハナエ、俺は母さんと約束したんだ。どうしてもその約束を守りたいんだ。
何年かかろうと…命に関わろうと…」
「そんな…」
私の頭の中では、さっきの家族の姿が思い浮かんだ。もしかして…あの時の少年少女…母親…
約束…?
あれは、この2人の記憶…
じゃあこの短剣は、ハナエさんが…!
突然、野太く、汚くて、下品な大爆笑が背後で起こった。
驚いて振り向くと、そこには数人のお金持ちそうな人がいた。
一際目立つ真ん中の玉座に座るおじいさんが笑ったのだ。取り巻く部下らしき人たちも、くすくすと馬鹿にしたように笑っている。
偉そうにどっかり座るおじいさんの様子に、私は一瞬変な気分を覚えた。
「あひゃひゃひゃひゃ!!無駄じゃよ、ムダ!!おぬしらのような無能な人間は無駄なんじゃよ!あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「ッ!…なんだとっ!!」
「ハナエ!!」
今にも飛びつきそうなハナエさんをロトさんは一生懸命おさえている。
礼儀のないおじいさんはさらに油をさす。
「おやおや〜、このワシにに向かって無礼な発言をしようとしておるなぁ〜?何様のつもりじゃ、貴様。次述べれば、
命はないぞい?あひゃひゃひゃひゃ!」
「ハナエ、落ち着け、落ち着くんだ…」
ハナエさんの手はきつく握られ、白くなっている。目はつり上がり、歯を食いしばる姿はまるで猛獣だった。
この2人には…味方が1人もいないということだろうか…
暴言を吐き続ける国民、偉そうな国王…
怒りを口にすることすら、身分によって許可されない世界…
なんなんだ…コレ…
「無駄なんじゃよ!無駄!あひゃひゃひゃ!」
なんだよ…コイツラ…
「バーカバーカ、くたばっちまえバーカ!」
なんなんだよ、コノクニハ…
"クソォッ!こいつら!…何で!!"
ナンナンダヨ…コノ世界ハ…
「ぜーーんぶ、むぅーーだぁー!!」
ニンゲンなんて!!!




