国…それは演説「憤怒」より XIII
「にげ…ろぉ…」
男のヒトは私の手を掴む。驚くほど強く、痛かった。そして反対の手で木の棒を持ち、振り下ろされた鉄の塊を受け止める。
「で、でも…」
「行げぇ"!早く行げぇ"!!」
怒鳴り声に私は震え上がる。男のヒトは、私を強く押す。
"頼むから、行ってくれ…"
「!!」
私はフラフラしながら立ち上がり、走り出す。背中で恐ろしい音を聞きながら。
目をかたく瞑り、進行方向も、前に何があるのかもわからず、私はただひたすらに足を動かした。
どうしてこうなったの…?ハナエさんたちは?
どこ?!
もう嫌だ…見たくない…!聞きたくない!!
これは夢だ!絶対そうだ!!ただの悪い夢だ!!
走る足は止まらない。どうすればいいかなんて分かるはずがない。恐くてたまらなかった。
その時だった。
すぐそばで大きな爆音が聞こえたのは。
「ッ!!!」
ドーーーーーーーン!!!!!
私の意識は途切れてしまった。
気がつくと、私はうつ伏せに倒れ込んでいた。どうやら爆弾の爆風で吹っ飛ばされたらしかった。倒れていた建物は屋根が大破してかろうじて立っている状態だった。
私は両腕で体を支え、起き上がろうとする。爆風で吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられたようなものだが、たったの一つも怪我なく、無傷なのが不幸中の幸いだった。しかし、体が石のように重い。
なんとか起き上がった私は、建物内の角に壁を背もたれにして座った。
私は上を見上げた。
どんよりとした天気…空を覆う暗く重い雲…
空気が重く感じる。
急に恐怖が押し寄せ、ガタガタと震える体。思わず両腕で自分の肩抱く。その結果、私はもう一つの恐怖に気づいてしまう。
「……いないっ……」
彼女がいない。どこを見渡しても彼女の声も気配も、何もなかった。
まただ…また私は…!
「ここに入ろう!母さん!」
突然の声に驚くと、3人のヒトが建物内に入ってきた。思わず身構えたが、入ってきたのは少年1人、とその母親、そして母親に抱かれた幼い少女。
3人家族だろうか…
私は死角にいるのか、3人には気づかれていなかった。
「ここに隠れてなさい!いいわね??」
母親は隅に子供2人を座らせ、落ちている瓦礫を積み出す。そして2人の姿がある程度見えなくなると、母親は外に出ようとする。
「母さん待って!どこ行くの?!」
少年が立ち上がると、少女は少年にしがみつく。2人の目は涙でいっぱいだった。母親は引き返し、少年を抱く。
「ごめんなさい、こんなことになってしまって…でもね…あなたはまだ生きなければいけない。
いい?あなたはお兄ちゃんよ。父さんみたいな、強くて立派な人になって、たった1人の大切な妹を守り抜くの!……あなたなら、できるわよね…?」
少年は下唇を噛み、強く頷いた。
母親は次に少女を抱く。少女は抱かれた途端、溢れるように大声で泣き叫んだ。
「泣かない!泣いちゃダメよ!まだあなたは生きなきゃならない!…大丈夫、あなたが強い子だってことは母さんが1番知ってるんだから…ちゃんとお兄ちゃんの言うことを聞くんだよ?お約束できる?」
「うえぇぇぇぇーーん!!」
少女は泣き止まず、母親から離れようとしない。幼いながらも母親との別れを感じ取ったのだろう。
「お願い…お願いよ…離れて…母さんは行かなくちゃならないの…ねえ、わかって…!」
子供にとって母親の存在はとても大切なことなのだと…家族という繋がりのことがほんの少しだけわかったような気がした。
もし、私に母親がいたら…
思い出せない誰かのことを意味もなく、
考えられずにはいられなかった。




