国…それは演説「憤怒」より XII
「こら、ハナエ、投げちゃダメよ」
「私は悪かないさ」
「ん〜…」
コイさんは難しそうな顔をして唸る。
こいさん…私たち気が合いそうな気がします…
「ねえ、なんでこれをサマヨイに渡したのさ」
短剣は装飾の立派なもので、使い込まれているのか、時間が経ったのか、少し錆びている。
でも、どうしてこれをわざわざ取りに行ったのか…
「まさかさ、これを使ってサマヨイに"私を殺して"、なんて言わないよね?」
「えっ…」
私はハナエさんを見る。恐ろしくて短剣を落としてしまった。カランカランと高い音が響く。
いや、まさか…きっと彼女の冗談に決まってる。でも、もし本当だったら…
「安心しろ、そんなこと言わないから」
「は…はぁぁぁぁ…」
思わず大きく息を吐いて胸をなでおろす。よかった…ニンゲンを殺すなんてマネ、できるはずがない。
ハナエさんは私の落とした剣を拾い、再び私の手に置く。どうすることもできず、私はただそれを握る。
ハナエさんは私の横を通り過ぎ、ドアを開けてバルコニーに出る。そして、突然顔を覆っていた黒い布を外し、長い髪を高い位置で一つに束ねた。
さっきよりは弱まった風が部屋に入ってくる。
私は見惚れて、呆然とハナエさんを見つめる。
この人は…この人も…何かを、抱えている、それが少なからず感じ取れた。
ハナエさんは静かに、一つ一つも思い出すように話し始める。
「私たちはもともと、この国の国民じゃなかった。」
後ろ姿のまま、声だけが聞こえる。
「私が7つ、兄さんが13の時だった。もともと暮らしていた国は、隣国と何度も戦争をしていた。15歳以上の男は兵として駆り出される。父親は、その戦争で死んだんだ」
「「……」」
コイさんは、ハナエさんの首を抱くように優しく寄り添う。
やっぱり私は何もいうことができない。
「父親は死んだが、国に攻めてくることがなかったから私たちは比較的安全に暮らせていたんだ。
だが…味方の結界が破られたときに、国自体が堕とされる事態に陥った」
戦争…争い…それはニンゲンしか行わない残忍な行為…
無意識にも私は短剣を見つめていた。ふいに、中身を見たくなってしまった。
ハナエさんの話が止まったままなので、私は鞘から短剣を抜こうと引っ張る。
チキッと音がして横にスライドできるようになる。
「ッ!!ダメッ!!!!」
「えっ…」
ハナエさんが血相を変えて私の左手首をつかんだ。しかし、すでに遅く、抜ききってしまっていた。私の視線はハナエさんではなく、その刃に吸いつけられていた。
「ぁぁ………ッ」
ハナエさんの握る手が強まる。だがそんなことを気にしてる場合じゃなかった。
刃こぼれがなく、鋭く尖った刃
おぞましい赤黒い色
鼻をつく鉄の匂い
ち…血……血!!
周りが見えなくなる。目の前が真っ白になる。
なぜ…なぜ…
「危ない!!」
その声で我に帰る。腕を引っ張られた私はその勢いで地面に転がる。何が起きたか、分からなかった。
「ウラァッ!!」
私を庇ったヒトは鎧を庇った兵士を鉄棒で殴り飛ばしてしまった。
何が…起こったの…?!
突然、私の耳は思い出したように音を拾い始める。
激しくぶつかる金属音
高いところから物の落ちる音
絶えず発砲する何種類もの銃声
何かが崩れる破壊音
そして
「いやぁーーーーー!!!!!!」
「ヤメロォーーーー!!!!」
「ゔわぁ!!」
何人ものニンゲンの逃げ惑い、助けを求める声
悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴ヒメイヒメイ…
紛れも無い、それは戦争であった。
なんで、なんで私は…嫌だ…見たくない…!聞きたくない…!!やめて!!
怖かった。戦争が、戦争をするニンゲンが、恐ろしく怖かった。
これは夢だ…覚めてさめて…お願いっ…
「グワァ!!」
目の前でヒトが倒れる。私を庇ってくれた男のヒトだった。苦しそうに咳き込むこのヒトから、地面に赤いものが吐かれた。
「ぁぁ…っ」
力が抜けて、足が動かない。助けなきゃ…お腹に穴が…はやく、はやく助けなきゃ…
止血しなきゃ…死んでしまう!
ふと、私たちの前に影がさす。ハッとして顔を上げると、大柄な鎧が立ちはだかっていた。赤く汚れた剣を上にあげようとする。
コロ…サレル…!




