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砂漠の果て -i'M LoOkInG foR-  作者: Min
第1章 旅の話をしましょう
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#1 国…それは2つ結びと歓喜 I

「この丘を登れば、国が見えてくるよ 」


 彼女がそう告げると、必ず国は現れる。間違えたことは一度もなかった。


「そっか、じゃあそこで水を分けてもらうとしようか 」

 

「枯れてなきゃいいけどね〜 」


 私はいつからか、旅している。といっても、砂漠をずっと歩いて、国が見つかれば入るというだけなのだが…。


  旅をしている理由は、何もない、というより、わからない。砂漠には何もないし、何も得るものはない。 ただ、砂がそこに、一面にあるのみ。


 そんな所を、私は彼女と旅をしている。


『彼女』とは、私と共に長い間旅をしてきた相棒というか、お供というか…旅仲間である。

 彼女の姿は人間ではなく、


『うさぎのぬいぐるみ』


 であり、いつも肩に乗り、何かとよく喋る。

 もう慣れているからいいものの、その饒舌さは半端無いと思う。


 長い間一緒に旅をしているといっても、彼女のことならなんでも知っているわけではない。


 

私は、彼女の『名前』を知らなかった。

 




「水筒はもう空なわけ?」


「うん、さっき飲み干したからね 」 



 人間であるからには喉が乾くので、国が訪れるたびに、水をもらってここまで過ごしてきた。喉が乾くことは滅多にないが…

 

「ところで、なんで国のある場所がわかるのかい。いつも気になっていたんだけれど。」

 

「さぁ〜〜ね。んーどうしてだろ。サマヨイは、なんでだと思う?」


  私に聞かれてもわかるはずがない。

 

「分からないからいつも聞いてるのに。この前と答えが全く同じじゃないか 」

 

  「あ、ほんとにぃ?ていうか、覚えてくれてたんだぁ〜嬉しいねぇ〜キャッ」


 うさぎのぬいぐるみは肩の上で体をクネクネさせた。骨は本当にないらしかった。


  そんなことを考えていると、丘の頂点についた。そこからは、彼女の言った通り、大きな国が静かに存在していた。

 予想通り、ニンゲンの姿は見受けられない。


 いつも通りだ。


「下りようか 」


  私たちは国へと向かう。


 ☆


「ここもか 」

 

「やっぱりねぇ、思った通り♪」


  門をくぐってもそこに人はたったの1人も見当たらない。

  ただ、地面には無数のぬいぐるみが道の先まで転がっているだけ。


「そろそろ見飽きたんじゃないの?」

 

 彼女は皮肉げにいう。

 

「いや、何度見ても悲しくなるよ。慣れやしないさ。」


「それホント?」


 いや、ウソだった。本当は何も感じていない。何も感じられない。かといって、面白いこともなかった。自分のことではないからなのか…



 彼女に返事をできないまま、私はぬいぐるみを踏まぬよう、足場を選びながら歩いた。

 

  地面に転がっているぬいぐるみは、様々だった。彼女と似たようなうさぎ、クマなどの動物、道化師や、女の子…幾度となく見てきた風景だ。


 だが、この国は1つの道にいくつものぬいぐるみが転がっている。よく見ると、砂に埋もれて色のついた四角形の小さな紙も散らばっていた。祝い事でもあったのだろうか。

 

 建物は砂色で、四角い形をしたものが多く、窓はほとんどガラスというものがなかった。民家らしき建物の比較的大きい縦穴は、出入り口だろう。出入り口によっては、カーテンが張ってあるものもあった。

 

 静かな国の大きな一本道を歩いていると、何かの鳴き声がした。声の方向に向かうと、小さな厩舎が見えてきた。馬が2頭いた。こちらに気づいた2頭は、私たちを物珍しそうに見た後、ゆっくりと寄ってきた。そして挨拶をするように柔らかい鼻づらで頬ずりをしてくれた。

 

「うわ、マジか!やめろぉ〜」


 肩に乗る彼女は片方の馬に顔を舐められていた。あえて放っておこう。


「君たちには主人はいるのかい。それとも二頭で生きているのかい 」


 二頭の馬を撫でていると、厩舎の中に餌台が見える。よく見ると、赤く新鮮そうなリンゴが切って入れられ、水は澄んでいるように見える。


 間違いない、この国には、まだ人間がいる。動いてる人間が…

 

「サマヨイ、そろそろお出ましだよ 」


 彼女が耳打ちした。確かに、激しく駆ける4本足と、働き者な靴の音が聞こえた。


  「そうみたいだね 」


 ふと、2頭の馬が耳をそばだてた。すると、砂を蹴り、激しくうなる声がすぐ後ろに来た。威嚇をしている。馬たちは驚いたように奥に行ってしまった。それと同時に高い声が響いた。


「待って、ソイ!!…はっ!」


 私は後ろを振り向いた。そこには1人の少女がいた。そして目の前でソイと呼ばれていた一匹の砂漠オオカミがこちらをにらんでいる。


 少女は朱色の色あせた膝下まで伸びた服を着て、その上に泥や干し草のついたエプロンを着ていた。小さく2つに結ばれた髪が、緊張したように揺れている。背は私よりも低いが、大人びた雰囲気であった。


 そして肩にはくまのぬいぐるみが乗っていた。


 ふと、少女が突然涙を流した。


  「生きていたの……?」

 

  そう言われても私はこの少女を知らない。すると、急に走り出した少女は私に抱きついてきた。

 

「えっえーーーーーー!!」

 

  彼女が叫ぶ。多分わざと。


「どっどうされました……?」


 私は少し動揺してしまう。

 

「ずっと…ずっと探してたんだから…どこ行ってたのよぉ!!」


 そう叫ぶと大きな声で鳴き出してしまった。。私はどうしたらいいかわからず、この人の背中を撫でるしかなかった。



  日は西に傾いていた。

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