国…それは演説 「憤怒」より IV
私はヒンヤリとした壁を伝い、ゆっくり歩いた。そこまで距離はなさそうに思えた。
ザッザッと歩く音と、風が吹き抜ける音だけが響く。風が吹くのは出口がある証拠だと、誰かから教えてもらったような気がする。
「ねえ、まだぁ〜?」
彼女が言う。
「まだ」
「ねえ、まだぁ〜?」
彼女は数秒でまた聞いてくる。
光の筋はちゃんと見え、扉の形が見えた。入口の扉と同じくらい小さい。
「あともうちょっとだよ」
そう言うと、1分も経たないうちに彼女はまた聞いた。
「ねえ、ま…」
しつこい。私は少し気が短くなる。
「おろすよ」
「やめて」
彼女はそれから何も言わなくなった。暗闇が嫌いなのだろうか。すこし、意外だった。
だが、扉が目の前に来ると、彼女ははしゃぎ出す。
「サマヨイ!光だ!ほっそいけど、陽の光があるよ!わわっ!」
夢中になり、危うく肩から落ちそうになっている。
私はしゃがみ、扉に触れる。やはり木だった。砂っぽくて、ザラザラしている。取っ手を探して扉を触りまくるが、取っ手が見つからない。
と言うより、ないのだ。
押さないと、開かなそうだ。
私は通常の力で扉を押す。ビクともしない。
蹴ってしまおうかと思ったが、壊してしまうと、元も子もなくなる。
少し力を込めて、拳をぶつけるが、ガコンガコンと揺れるだけだった。
さて、どうしたものか…。
もういっそ壊してしまおうかと思っていると、
「フッフッフッどうやら私の出番のようだね」
彼女は変な笑い方をする。気持ち悪いと思ったことは、黙っておこう。
「開けられそうなのかい?」
「そりゃーね!このあたくしのソフティ〜な手足なら扉を壊さず開けられると思うのね、ハイ」
「…よく分からないけど…うん、とりあえずやってみて」
「仕方ないわねぇ〜じゃあ今から見せてあげるわ〜」
彼女はさっきと打って変わって弾んだ調子で華麗に地面に降りると、足を肩幅より少し大きめに広げて立ち、構えを取り、怪しく腕をぐるぐると動かし始めた。
何が起こるのか…私はしばらく様子を静かに見守ることにした。
「ハ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ……ホワチャア!!!」
ガンッ!!
予想外の行動に思わず目を瞑る。なんか、壊れた音がしたような気が…。
恐る恐る目を開けると、扉はなんともなく、普通に開いていた。
なんだ、よかった。彼女のクッション性のある手足のおかげだろう。
その彼女はと言うと、何に目覚めたのか一足先に外に出て何やらキビキビ変な動きをしている。
飛んで跳ねてバク転して…こんなに体力あるなら自分で歩けばいいのにな…と思ったことは内緒にしよう。
「…何してるの?」
そう聞くと、彼女は振り向くと同時に片足を行進するときのように膝を曲げ、両腕を真上に伸ばし、手首を猫の手のように曲げて立った。
……説明の難しいポーズだ…。
「何のマネ……?」
「えっ!知らないの?!ちまたで有名なアレだよ、アレ」
どれだよ。
「ごめん。分からないよ」
「え〜遅れてるなぁサマヨイ〜」
何に遅れていると言うのか…何が有名かどこで有名なのかも知らないのだから、わかるはずがないだろう。
私は無意識にも表情を少し険しくしていたようだ。
「まあサマヨイさん、そう怒らず」
私はガクッとうなだれる。……少し疲れた。
彼女の元気にはたまについていけない時がある。
「サマヨイ、あれ」
そんな私をよそに、彼女は私の方に飛び乗りペシペシと頬を叩いてくる。
「どれ……」
「あーーれ」
彼女が指差すその先には、ぬいぐるみが落ちていた。
私は自然と、気を引き締めていた。
「ここもか」




