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第二十七話 ちょっとした日常、それぞれのタイプ

 一週間ぶりに訪れた弟の部屋には大層可愛らしいテディベアが置かれていた。


「何か用か?」

「借りていた本を返しに来たんだが……」


 返事はするが、クラウスの意識は完全にベッドの上に置かれた大きなテディベアの方へ向いている。


「何だアレは」

「ああ、買ってきたものだ」

「お前が?」


 異様なものを見るような目に、クライスは苦笑いを浮かべながら説明を始めた。


「このテディベアは遠方にある国からの輸入品で、何でも店主が一代で築き上げた手芸品の店らしい。かなりこだわりがあるらしく、全て手作りで触り心地からして他の品とは段違いによく、縫い目も分からないのはまさに職人技だな」

「誰がテディベアの説明をしろと言った」

「冗談だ。これはエルとアールがシスターに買ってきた物だ」

「あの女に? それが何でお前の部屋にあるんだ」


 クライスの話ではシスターは何とか文字を読むことは出来てきたが、書く方は怪力が邪魔になって難儀しているらしい。

 それを聞いたエルとアールがそれならばと練習用に買ってきたのがこの大きなテディベアだった。


 ぬいぐるみならば力加減を間違えても壊れる事はなく、へこみ具合で力の強さも分かるから練習にピッタリだと熱弁していた。


「最初はシスターの部屋に置いていたんだが、人が近くにいないとダメなことに気づいて俺の部屋に置くようにしたんだ。シスターも真面目でな、毎日真剣な顔をしてテディベアに恐る恐る触ろうと頑張っている」


 その時の様子を思い出しているのかクスクスと微笑ましいものを見たような顔で笑うクライスに、クラウスの疑問は増えていく。


「……まさか一緒のベッドで寝ているのか?」

「そりゃあな、風呂を知らなかった人間がベッドの使い方を知るはずがないだろう」


 当然と言いたげなクライスだが、いい歳した男女が一緒に風呂に入り同じベッドで寝るのはどうなのか。

 しかしよく考えれば最初に風呂に入れるよう言ったのは自分だったとクラウスは額を押さえ、バッとすぐに顔を上げた。


「危なくないのか? あいつの怪力は人ぐらい簡単に殺せる程だろう」

「寝ている時は問題ない、ちゃんとあのテディベアで実験済みだ。長年木の上で寝ていただけあって寝相はいいが、起こすと寝ぼけてすり寄ってくるんだ。寝ぼけている間も大丈夫なんだが、完全に起きると向こうはすぐに固まって動かなくなる。最初は俺も驚いたが、それ以上にシスターが驚いていてその時が結構面白くてな、何度見ても飽きない」

「へえ」


 全く興味が湧かず適当に相槌を打っているが、クライスの話は止まらない。


「そういえば、シスターはようやく体に肉がついてきたな。肌も綺麗になってきた」

「そうか」

「それでもまだ痩せすぎているから、もう少し太らせないといけないがな。そうそう、髪も最近艶が出てきたんだが気づいたか? 最初を思うと見事な黒髪になったと思うんだ」

「うんうん」


 ニコニコと話すクライスにクラウスはもしやと思ったが、ただ拾ってきた痩せこけていた猫が健康に太ってきたの見て喜んでいるようにも見える。


「ペット自慢はもう十分、そろそろ行っていいか?」

「ああ、俺もそろそろ準備しようと思っていたところだ。本は机の上にでも置いといてくれ」


 言われた通り机の上に本を置き部屋から出る直前、クラウスは足を止め振り返らずに声をかけた。


「あまり深入りしすぎるなよ」

「……下心はないに限る。純粋なのが一番いい」


 クライスの答えにクラウスは何も言わず部屋を出るとドアを閉めため息をついた。


 そこにモニカが通りかかり、頭を下げ丁寧に挨拶をするもクラウスは何も言わずジッと見つめたままでいるとモニカは戸惑いながら恐る恐る声をかけた。


「あの、クラウス様。何かありましたか?」

「……俺は、少しぐらいなら下心はあっても構わない」

「え?」

「下心よりも忠誠心が強いならそれでいい。絶対の忠誠を誓っているのが一番だな」

「クラウス様? どうかされましたか?」

「ただの大きな独り言だ。それよりお茶を頼む、今すぐだ」

「かしこまりました。お部屋に戻られると同時にお持ち致します」


 クラウスの命令にモニカは何も聞かず軽く礼をすると、すぐさまお茶の用意の為厨房へ向かった。


「やっぱり従順なのがいいよな」


 その後姿を眺めながらクラウスは満足気に頷いた。

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