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第二十五話 母に売られた弟は

 僕の名前はアール。

 アール・ポーレント。


 一卵性の双子で兄のエルとは瓜二つで屋敷の誰にも、母さん以外に見分ける人はいない。


 そう思っていたけど、いつからだったか母さんには疑問を抱くようになっていた。


 最初に気づいたのは位置。

 母さんは最初にエルを呼ぶと、必ず右側へ移動させる。

 食事の場所も並んで歩く時も、全て右側。


 一度エルが呼ばれた時にさり気なく先に右側へ移動したら母さんは何も気づかなくて、後から来たエルと場所を変えても何も言わなかった事から確信に変わった。


 毎朝エルを抱きしめる時によく観察してみたら、小さなヘアピンをつけているのも確認した。

 銀色の小さなピンは髪をとめる役割を果たしていないけれど、僕達を後ろから見分ける役割はしっかりと果たしている。


 母さんは僕達を見分けていない。


 だから名前も適当で簡単。

 Lightで右にいるからエル、Reftで左にいるからアール。


 エルは何も気づかず純粋に母さんを慕っていて、期待に応えようと勉強も頑張っている。

 その姿を見たら、母さんの事はとてもじゃないけど教える事が出来なかった。


 勉強をすると母さんが喜ぶと思うとあまり手につけられず、書庫で適当な本を読んだりして過ごしていた。


 ある日の晩、夜中に目が覚めてどうにも眠れないから部屋を出てトイレに向かう途中、部屋の一つから明かりが漏れているのに気づいた。


 誰も近づかない忘れ去られた物置部屋。


 何だか気になって好奇心からそっと近づいて覗いてみたら中には母さんが知らない人、というか父さんの弟を抱きしめていた。


 驚いて慌ててその場を走り去ってしまったけど、多分バレている。


 その証拠に次の日から母親の態度はあからさまに変わった。

 元々僕は放置気味だったけど、そこに敵意みたいな憎しみがこもった目で睨まれるようになった。


 確実に、バレている。


 エルへの態度を変えていないのは安心だけど、僕はこのまま放置してくれそうになさそうな気がする。

 父さんに言おうにも僕が見ただけじゃ何の証拠にもならないし、エルが落ち込んで傷ついてしまう。


 絶対に避けるべきことだ。


 避けるべきだったけど、日に日にエルはやつれて部屋に籠もりがちになっていった。


 原因は母親。


 エルは勉強が出来るからと母親がどんどん難しい事をさせていって、出来ないと厳しく責め立てている。


 心配になって様子を見に行ったら、エルは追い詰められて壊れそうになっていた。


 これ以上はダメだと思ってエルに母親の事を話して入れ替わりの提案をしてみたらエルは限界だったみたいで『アール』の危険性を話しても、構わないから弟になりたいとずっとしがみついて泣いていた。


 今日から僕はエルで兄になる。弟のアールを守らないと。


 見分けてくれていることが母親の愛情と信じていたアールだけど、母親が本当は僕達を見分けていなかった事、エルとアールの名前の事を知っても思ったよりショックを受けていなかった。


 それどころか僕の、エルの事を心配してくれている。


 ありがとう、大丈夫だよ。

 勉強には関係ない本を読んでいたおかげで、家庭教師には金貨や小さな宝石を渡せばいいって知っているから。


 それより母親がアールに何かしないか心配だったけど、こっちも大丈夫みたいだった。


 何でかなと不思議だったけどすぐに分かった。


 浮気がバレてそれどころじゃなかったんだね。

 しかも、父さんの弟に裏切られて国外追放。


 何で僕達もって思ったら、父さんの子供かどうかも分からないから。


 うん、僕もそう思う。


 アールは何で追い出されるのか分かっていないみたいだったからまあいいかな。


 着いたのは海を越えた先にある国の小さな寒い村。


 ここでの生活は大変だった。

 何もかもを自分でやらないといけない。


 でも、大変なのに楽しかった。


 本にはないことを知るのも、本を読んで知っていても実際やってみると全然違って「生活の勉強だね」って笑ったらアールも「こんな勉強なら毎日やりたい」って楽しそうに笑っていた。


 笑っていないのは母親。


 毎日ぶつぶつ言っているけど、聞こえているよ。


 追い出されたのは自業自得なのに、何でアールのせいにしているの? 浮気を見たのは『アール』だけど今のアールじゃないから。

 アールには聞こえていないからいいけど。


 その日の晩、眠ろうとしているアールに僕は話しかけた。


「ねえアール。僕ね、アールなら一人でも生きていけると思うんだ」


 次の日の早朝。


 僕はアールに戻って母親と一緒に村のすぐ外へ向かった。


 母親は厄介者の『アール』を売り払いお金を手に入れ、言う事を聞く『エル』だけを手元に置こうとしている。


 少なくともこの村にいれば奴隷みたいな酷い扱いは受けないから、僕が身代わりになるよ。

 あれ? 違う、元々アールは僕だからこれが正しいのか。


 馬車に乗っているのは僕だけ。

 護衛には数人の冒険者、馬を操っているのは奴隷商本人。


 僕ね、たくさん本を読んだんだ。


 特に毒について。

 あとは隠し武器とか。


 僕は右腕を真っ直ぐに伸ばして奴隷商人に向けた。


 母さん、初めて貴女に感謝します。

 着る服を選ばせてくれてありがとうございます、おかげで袖の中に武器を隠すことが出来ました。


 小さい矢を一発しか撃てないけど集められるだけ集めた毒を混ぜて作って塗ったから、かするだけで効果は十分だと思う。


 奴隷商人さん、ごめんなさい。


 貴方には何の恨みもありませんが、僕は貴方の生活の為に自分を犠牲にする気はありません。


 心の中で謝罪してから、僕は奴隷商人に向けて矢を発射した。

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