第二話 冒険者じゃなかった
「……そう、事情は分かった。じゃあもう行っていい?」
「待って、本当に待ってください。ちょっとお願いしたいことがあるんです」
しっかり事情を説明すると女性は特に責める事もなく納得してくれたが、そのまま別れようとしたのを双子はそれぞれ片腕を掴み引き止めた。
それはもう必死に止めた。
「何、まだあるの。私に出来ることなんてないから離して、離れて、先に行かせて」
そう言いながらも女性は振り払おうとはせず、その場から歩き出そうとすらしない。
「あ、やっぱり力ないんだ。て、そうじゃなくて。先に行くって言ってますけど、この先行ったって小さくて何もない村しかありませんよ。冒険者が興味そそられるようなものは一切ありませんから」
アールがそう言うと女性は歩くのを止め、双子の方を向いた。
「村? この先ってサルダンの街じゃないの?」
「サルダンはカーニースの南です」
「……そのカーニースから来たんだけど」
「……あれ、ここってカーニースから北……」
「……」
「……」
沈黙が三人を包む。
「あの、サルダンまで案内しますので一緒に行きませんか?」
「別にいい。サルダンに用があるわけじゃないし……私に構わず家に帰ったら?」
「え、いやっそれは」
「家には帰りません。僕達を売り飛ばした母の元へ戻る気もありません」
どもったアールの言葉を被せるようにエルが言った。
「あっ、そうだ。じゃあ折角ですしカーニースまで行きませんか! 家に帰るつもりはないんで僕達このまま冒険者になろうかと考えているんです。何もない村よりカーニースの方が断然良いです!だから一緒に行きましょう!」
「ええ……」
そのまま返事を聞かずにアールは再び女性の背中をカーニースの方へと押して先へと押し出し、女性の方も諦めたのか渋々といった感じで歩き出した。
「ご、強引だけどやった!」
エルとアールとしては冒険者として生きていくかはともかく、とりあえず今後生きていく術や基本をこの女性に教えてもらおうと考えていた。
しかし……。
「え、冒険者じゃないの?」
道中に双子は色々質問したが「知らない」や「さあ」で済まされ、結局カーニースに着くまでに聞けたのは女性は冒険者ではないということだけだった。
「僕達は普通の女性を盾にしちゃったのか……」