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第十五話 シスターと屋敷

 シスターが倒れてから三日後。

 シスターは倒れたその日に目を覚まし、今度はしっかりと治療を受けて何とか歩き回れる程には回復したが、大変なのはそこからだった。


 シスターはいわゆる孤児で完全な路上育ちの為文字の読み書き計算が全く出来ない上に、あの怪力は意識してやっているわけではないので普通にペンを持とうにも力の加減が分からず潰れてしまう。


「あれ、でもシスター木には登ってましたよね」

「木登りはこうなる前からやってたから。やったことないのは無理」

「つまり、お前はその怪力が身につく前にやらなかった事は加減が分からないから何も出来ないと。ドアを開けることすら」


 怒りに満ちたクラウスの声に双子は揃ってピシッと姿勢を正した。

 今現在、双子とシスターとクライスはボスの部屋で正座をさせられていた。

 目の前には仁王立ちのクラウス。ハーヴィーはクラウスの隣に立っているが、目をつぶり視線を逸らしたまま微動だにしない。


 シスターは目を覚ましたその日に空いている適当な部屋を与えられたのだが、ドアの開け方が分からず屋敷の外に出ることも出来ず、そしてそれを知る者がいなかったので結局廊下で就寝。

 朝になり偶然通りがかったハーヴィーに保護された。


 次の日はハーヴィーからの報告により双子が一緒にいたが『ドアの開け方が分からない』を言葉通り受け取り、開け方だけを教えそのまま終わってしまった。

 結果その日もシスターは廊下で就寝し、とうとうクラウスに見つかった。


 シスターの『ドアの開け方が分からない』を正しく理解したクラウスは、すぐさまシスター担ぎあげると風呂場まで運び言葉通り投げ入れた。


 ドアを一度も開けていないということは、つまり風呂にも入っていないということ。


 そのまま問答無用でシスターを洗い、着ていた服は廃棄しモニカと同じ黒のメイド服を着せるとすぐさまクライスと双子を部屋に呼び今に至る。


「俺は最初に言ったよな、俺の手を煩わせるなと。ちゃんと世話できないのなら気軽に連れてくるな」

「悪かった、この件に関してはこちらの認識不足だった。次からはないようにするから」


 素直にクライスが謝り双子も必死で頷き謝りまくったからか、それとも屋敷が壊されなかったからなのかクラウスの怒りはおさまり四人はすぐに部屋を出ることが出来た。シスターは特に怒られず、つられて正座させられただけだったが。


「ごめんなさい、シスター」


 部屋を出てすぐにアールがシスターに謝罪し、エルも頭を下げた。


「僕もごめんなさい。シスターともっとちゃんと話せば廊下で一晩、あ、違う二晩も! ごめんなさいシスター!」

「別に気にしてない。廊下暖かかったし」

「そうか、だが部下達が驚くから同じことはやめてくれ」

「外には出ちゃダメ?」

「ダメだ。ハーヴィーから聞いたがお前の栄養状態は最悪らしいな。せめて体調が安定するまではここにいろ」


 詳しく話を聞くと、屋敷に来てからまだ二日だがまともな食事と水分が取れずかなり厳しかったらしい。

 生ゴミがあるのは食堂だけで、そこには絶えず人がいたので近寄れず水も同じだったので、ハーヴィーに発見された時軽い脱水症状を起こしていた。


「……生ゴミ? 食事が生ゴミ? あれ、もしかして食事の時間呼んでも来なかったのは人がいたから?」

「シスター今まで生ゴミだけ食べてきたんですか? え、じゃあ食事の時間になると姿消していたのも人がいなくなる時を待っていたから?」

「お前もしかして街にいた時は噴水の水を飲んでいたのか?」


 ここでようやく三人はシスターの日常生活を知り唖然とした。


「シスター……何でそんな生活を……」

「生ゴミって……ゴミって……それだけをずっと……」

「…………」


 三人の驚愕っぷりに流石のシスターも気まずそうな顔をしている。


「ま、周りもそうしてたし、私だけじゃないし」

「ダメだ、理解できん。とりあえず普通の食事を取れ。ナイフとフォークは……予備を用意するからどれだけ壊しても構わん、握れるようになれ。俺が教えるから」

「僕も手伝います!」

「ぼ、僕だって! シスターの為なら頑張ります!」

「ええ……」


 シスターは嫌そうな顔をしているが、勢いづきやる気な三人の前にはなすすべもない。


 しかし意外なところから援護が入った。


 ハーヴィーが現れエルとアールに簡易栄養食を渡し、しばらくはシスターの姿を見たらこれと水以外の飲み物を与え、必ず目の前で食べるのを確認するようにとクラウスから命令があったと伝えた。


「やっぱりボスも何だかんだシスターの事心配しているんですね」

「うーん、何か違うような気がするけど……でもシスターの健康は守れるよね」

「そうか、まずは体調だったな。食事情を整えつつまずは文字の読み書きか」

「うわぁ……」


 あまりシスターの援護にはなっていなかったが、元々クラウスにそんな意図はない。


 ふと、今後の予定を考えていたクライスだったがある事に気づき、ハーヴィーと双子にこの場を任せるとクラウスの部屋へと駆け足で戻ってしまった。


「え、神父様急にどうしたんでしょうか」

「さあ……とにかく、お願いしますね。シスターさんに渡すだけですと食べずに隠す可能性もありますので必ず目の前で食べさせてください」

「「はい、分かりました!」」

「別にそこまではしないのに……」



 ******


「クラウス!」

「うわ、急にドアを開けるな。どうした」

「いや、お前、その、シスターを……洗ったと言っていただろう。それは、つまり……」


 勢いよく開けたわりに言葉はつまりまくっているが『風呂』の単語にクラウスは何となく察した。察したが大したことではないのでそこには触れず、クライスの話は流し丁度いいとばかりに用件を伝えた。


「丁度いい、次からはお前があの女を風呂に入れろ」

「っ、何故だ? そこは同じ女のモニカに任せるべきだろう」


 見た目は分からないが珍しく動揺し、僅かに頬が赤くなっている事に気づきクラウスは軽く引いた。


「今更その反応は何だ? あとモニカにこれ以上の負担をかけるな。それにあれは女だとかいう前に人の体じゃない。俺は二度と見たくない、無理、気持ち悪い」

「え?」

「お前も見れば分かる。だが責任持って毎日風呂に入れろよ? それが無理なら元の場所に戻してこい」

「ええ?」


 戸惑いながらもクライスはクラウスに言われた通りシスターを風呂に入れたが、次の日からやたら執拗にシスターを追いかけ回すクライスの姿が見られた。


「神父様急にどうしたんだろう」

「やたらシスターに食べさせようとしてるよね。何かあったのかな」


 巧みに逃げ回っていたシスターだが、体力差のせいでとうとう捕まっていた。


「しつこい。それさっきも食べたしもう入らない」

「無理でも食え。せめてジュースを飲め、少しでも早く栄養つけろ」

「ジュースって甘いからイヤ」

「知ってる。こっちは野菜だけの青汁だから甘くない」


 結構本気で嫌がっているシスターだが、聞こえてきた会話の内容とハーヴィーから教えてもらったシスターの状態を考え双子は何もせず見守る事に決めた。


「シスター早く体調戻るといいね」

「助けなかったからってシスターに嫌われないかな。でもシスターの為だし……ごめんなさいっ」

ボスの優しさの真相

クラウスとハーヴィー


「あいつの体はどうなっているんだ?」

「長年、恐らく幼少期から十分な栄養を取れなかったのでしょう」

「あの体で屋敷をうろついているのは生理的に耐えられんがいちいち食べさせるのも面倒だ、体重が増えるまで一日中点滴打たせとけ」

「申し訳ありませんが、シスターさんは体に伴い血管も細過ぎて針が入らないので点滴を打つことが出来ません」

「……つまり?」

「体重を増やすにはこまめに食べさせるしか……」

「ならお前の栄養食が効率いいが……クライスと双子にさせるか。元々あいつらが拾って来たからな、無理なら元の場所に捨てさせる。ハーヴィー」

「は、かしこまりました」

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