渦巻く世界たち
青色の渦だ。渦が宙に浮いている。その下に街が形成されている。俺はその街の住人だ。それ以外でも未満でもない。 人混みのある高台に登り、俺は渦に両手を突っ込む。 他の奴らも同じことをしている。 背伸びして渦に手を突っ込んでいる。手に何かがあたり、それを掴んで引っ張る。今日の収穫はアンティークな椅子と玉ねぎのようだ。 一回に二つが決まりなので、これが今日の収穫となった。 上々。実に運がいい。俺はすぐさに椅子を売り払い金を手にすると、ごみごみした商店地区に行く。人波をスルリと抜けて、行きつけの店を回っていく。買ったのは鶏もも肉にクリームチーズ、牛乳だ。 値段も見ずに放り込む。釣り金がそれなりに帰ってきて驚き、今日の獲物の偉大さを知る。そして倒壊しそうなアパートの家に帰り夕食の支度をする。 流れてきた玉ねぎを使うのは少々気が引けたが、そのことを忘れるように料理に没頭する。 鶏肉を切り塩コショウをまぶせて、玉ねぎをくし形切りにしていく。フライパンに油をひき、鶏肉の皮面を下にして焼き付ける。こんがりしてきたら上下を返してさっと焼く。そこに玉ねぎを加え、全体に油がまわるまで炒める。トマト缶を加えて煮詰める。最後にクリームチーズと牛乳を加え、溶けてきたら完成である。作ったのはチキントマトクリームチーズ煮だ。実に無駄のない名前だ。赤い海にチーズの付いたでかい肉が浮いてる。 今日の獲物に感謝し完食する。腹ごなしを軽く済ませると次第に眠気が訪れる。 固いベッドに潜り込み、眠りに身を任せた。
俺が渦からこの街に落ちてきてニ年が経過した。俺は元の世界では銀行員をやっていた。そこそこの成績を収め、そこそこの評価をされ、そこそこの住宅地に身をおいていた。今俺が住んでいるこのアパートも、元々はどこからか落ちてきたものらしい。この国(自治体というべきかもしれない。)は渦から拾ったもの、落ちてきたものを最大限に利用する方針だったが、人間にはあまり興味を持たないのは幸いだった。食い扶持も住居も面倒は見てくれなかったが、人々が渦から得たもので日銭を稼いでいることに気づくにはさほど時間はかからなかった。一応この国にもルールはあり、渦から物を得ていいのは一日三回。一度に二つまで。それが暗黙の了解となっていた。前に二つ以上取ろうとした子供が殴られていたのを見たことがある。さりとて、朝だ。今日も今日とて渦に向かう。颯爽と玄関から出る。家はアパートの三階だ(元々あった下の階が潰れているため、本来の階数では無いはずだが、便宜上そう呼ばれている。)。階段を下ると、いつも険しい、修行僧のような顔のご婦人が花壇に水をあげている。軽く会釈だけする。ご婦人は何かを悟ったような表情で重々しくゆっくりと首を縦にふる。俺は歩みを止めずに彼女の会釈を見届け、それから前を向いて歩く。商店地区は今の時間から混み出すので、散歩も兼ねて遠回りする。奇妙な植物の生える土手を歩いている途中、ぼーとしていた。何故海も川も無いこの街に土手があるのだろうか?まあどうでもいいが。 そんなくだらない意味のないことを考えていた。
高台までやってくると、すでにそれなりの人だかりが出来ていた。俺も当たりが来ることを願い、渦に両手を突っ込む。右手に固いものが触れる。左手にも柔らかい物が触れる。両手を引き出そうとするが、左手に掴んだものが抵抗する。しめた。生物なら色々な部位が高く売れる。右手から引き出したのは鉛筆だった。かなりの外れだ。だがもう片方はかなりの重さがある。もし肉食獣でも、この高台を陣取っている狩人がすぐさに撃ち殺すだろう。その場合報酬は八割取られるが、このチャンスを逃す手はない。思いっきり引っ張る。それは最後の抵抗を止めてこの世界に落ちて来た。そして俺はその事を後悔する。
それは言葉を発した。
「え!なに!?ここどこ!?」
俺は少女の足を離して片手を顔に当てる。
この街で人間ほど価値がないものはないのだ。
この後、家に戻りたい少女と共に様々な世界を旅します。
お恥ずかしながら文章の仕事を目指しています。先はまだまだまだ遠いですが、一生懸命1歩ずつ頑張りたいと思います。アドバイス等をどしどし下さると助かります。
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毎日1話以上の投稿を目指していて、今日で9日目の投稿です。