7章のような挨拶の仕方
ピンポーン!
誰か遊びにでも来たのかな?そう思って、インターホンも確認せずに出たのが新世界への扉を開いた原因だと思う。
だから忠告したいと思う。たとえ寮に住んでたとしてもインターホンは確認しなさいと。
俺が全裸で玄関先に仁王立ちをしてインターホンを押すと、軽い足音が聞こえドアノブに手をかける音が聞こえた。いっそのことインターホンのカメラを見て、悲鳴を上げて警察を呼んでくれりゃいいものを…そう思いながら堂々と立つ、正直快感さえ覚えてきた。
畜生…どんどん常人離れしていくな…しみじみと哀しさを覚える。
ガチャ…
ぞれぞれの新世界の扉と玄関を開く扉の音が廊下に響いた。
「………………。」「………………」
出てきた少女をまじまじと見る。なるほど、THE普通といった感じだが、逆にそれが愛嬌ある。目立った美人というわけではないが、密かに人気はあるだろう。知る人ぞ知る可愛さといったやつだ。おそらく地毛であろう弱く茶色が混じり、少し毛先が跳ねた髪が目に留まる。
一応言っておこう、俺は髪フェチじゃないぞ?
さて…、そんな少女に俺は何を言えばいいのだろうか?
ドアを開けたらそこは変態だった。どこかで聞いたことのあるようなフレーズを脳内に浮かんだ。いやまあやっぱり慌てて、気が動転して、混乱してる。普通ならすぐにドアを閉めて、スマホを手に取りお約束の110を押し、自分の住所を伝えて鍵を掛けるべきだ。今後同じような目にあった人がいたら強く推奨する。
まぁ、混乱しすぎてできなかったけどね…。てか変態なら変態なりになんか言って欲しいと思う。リアクションもとれなくてかなり気まずい。
「…………………………」
「…………………あ、あのぉ」
やっと目の前の全裸男が口を開いた。正直、好みなわけではないが、なんか憎めない顔をしているし、癖っ毛な辺りも親近感がわく。出会い方さえ間違えなければ仲良くなれてたんだろうなぁ…しみじみと哀しさを覚える。
「あー…隣の部屋の方から呼ばれてましたよ?」
「「………………………………………………………………………………………………………」」
((どんな立ち位置だよ!?!?))
こっちが思っている以上に、多分向こう側もそう思っている、向かい合った男女はそう確信した。
私はとりあえず次の目的であろうモノを調べる。宮環にある博物館、おそらくそこに展示されているとある絵画が、最後の目的だと思われる。
どうにかしてそれを取られる前に対策しなければ…。暗い中、私はできうる限りの対策を練る。
私は調べたことから考えうるものを報告した後、食堂へ向かう。普段なら面倒なのでカロリーブロックやゼリーで済ましているが、たまには食堂で食べるのもいいだろう。疲れた頭を休めるためにもしっかりとした食事が必要だと判断する。
「オムライス定食とブラックコーヒーを頼む。」
そう注文した後、料理を受け取り席に着く。子供っぽいと馬鹿にされるが私はオムライスを気に入っている。早速オムライスを口に運びながら、今回の事件についての先程の報告を思い返す。
未だ予想の域は出ないが、今回の事件の要因となった魔導書の『原本』はおそらく『グラーキの黙示録』が一番疑われる。他にも疑わしいものはある上に、判断した材料が儀式に必要な品だけではあるから、確信をもって言えるわけでない。
『新しく一から形成された魔導書』という別のモノの可能性もない訳ではないが、新しくできたものにしては儀式が形式的過ぎるからあながち外れではないはずだが。
ただ警戒しておいて損は無いという話だ。もしも『グラーキの黙示録』による『派生した魔導書』ならば、次に目的とされる品は宮環の博物館にあるあの絵だ。
数日中にあそこで何かが起こるだろう。
ふと気づくと結構時間は立っていたらしい、日が越えていた。報告してから食堂に来た時から既に23時にさしかかろうかという時間だったから、一時間は呆けていたことになる。コーヒーは冷めていた。
それを飲み干そうとコップに口をつけた時、食堂に見覚えのある男が入ってきた。不自然な白髪頭、平均よりも少し高めの身長、ひょろっとした痩躯、相変わらず見ようによっては怪しい詐欺師のような印象を受ける男だ。なんで全身濡れているのかわからないが、何かあったことは確かだろう。
エメラルドは熱い煎茶を手に持つと、私の向かいの席に座ってきた。ひとまず何があったか聞いてみるとしよう。
「あのー、えーと、その貴方は隣の子とどういった関係の人で…?」
いぶかしげな目を見ながら少女はそう問いかけてくる。…うんまあそうなるわな。むしろ話聞いてくれるだけで優しすぎるわ、いよっ女神さま。
「ふざけてないで話してください」
「あ、はい」
といってもなんて言えばいいんだ?。玄関先で全裸を強要された挙句、この階の部屋全部訪問して来いって言われたって言えばいいのか?。あの大人しそうな子が?。絶対俺の方が疑われるだろ。
「はぁ!?あの娘がそんなこと言うわけないし、するわけないじゃないですか!!!」
ほらね?
「ちょっと確認してきます!!だからあの娘の悪評を広めないでくださいね!!」
あれ?話を聞かずに疑うわけじゃなくて、聞いたうえで確認してから行動してくれるのか。マジでいい娘だな。リングさんと同レベルで好感度高いわ。
そんなことを思いながら俺が来た部屋のチャイムを押し、部屋に入っていく彼女を見ながら俺は次の隣の部屋のチャイムを鳴らした。時間は有限だしな。
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こうして一応すべての部屋を訪ね終えて、俺は元の部屋のドアの前にいる。
全く大変だった。途中までは身ぐるみを剥がされたふりをして、助けを求めに来るも、廊下の端に犯人を見て、恐怖し逃げ出すという寸劇を行っていたのだが、4人目くらいからめんどくさくなって残りの3人は「ハッピーバースデイ!!!」と言って走り去るという変質者さながらのドッキリを仕掛けて終えた。
…やべえな…もう元の社会の生活に戻れないんじゃないか俺?この歳で社会復帰不可能とか泣けるぜ。そんな碌でもない人間にかかわりたくないよな全く。
いくら現実逃避しようとしてもこれは俺のことなのが泣ける。半ば自棄な気持ちでただいまと元の部屋のドアを開ける。
そこには俺が女神とまで呼んだ少女が下着姿で四つん這いになり、その上に女王様と呼んでも差し支えない黒髪の少女が鎮座していた。
俺ってまだましなのかもな…。
未だコメディ色が強めですいません…。純粋にローファンタジーを楽しみたい人には申し訳ないです。
読んでくれてありがとうございます。きっと次の事件では多少シリアスになってくれる…はず。