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機動駐在コジロウ  作者: あるてみす
 

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32/69

水泡にキス

 一昼夜が過ぎると、現実味が薄れてくる。

 あの出来事は悪い夢だったのではないのか。けれど、今もこうして海にいて、海上保安庁の巡視船に保護されているし、海面には大型客船の破片が未だに漂っている。大型タンカーや牽引船が引くフロートを使って、回収しては陸に運んではいるが、それでもまだまだ作業が追い付かない。大型客船の燃料である重油もたっぷりと漏れて虹色の光沢を持つ黒い帯が波間に伸びている。上空にはヘリコプターが飛び交い、哨戒機も通っていく。

 海上保安庁や海上自衛隊の人員は、皆、忙しそうにしているが、つばめは暇を持て余していた。それは他の面々も同じことだ。一昼夜を経ただけで頭蓋骨と胸を貫通するほどの大ケガが完治してしまった寺坂、どさくさに紛れて新免工業の所有する船内作業用の女性型アンドロイドを私物化した道子、カレーを食べるだけ食べると爆睡して起きる気配すら見せない一乗寺、と、三人は上陸許可が出ないのを良いことに余暇を謳歌している。新免工業の社員である戦闘部隊の人々は全員回収されて、傷を手当てされている。あれだけの大惨事であったにも関わらず、一人の死者も出なかったのは、ひとえにナユタの能力のおかげだ。

 件の結晶体はと言えば、つばめ達が乗船している巡視船の後部にあるヘリポートに固定されていた。ワイヤーで幾重にも縛り付けられていて、澄み切った青白い結晶体にはブルーシートが掛けられている。大型客船から回収してもらった私服を着たつばめは、トートバッグを下げてデッキを歩いた。海上保安官と擦れ違ったので挨拶してからナユタに近付くと、ナユタは淡く発光した。ナユタとヘリポートの間には十数センチの空間が空いていて、浮遊状態を保っている。潮風が通り抜けてブルーシートがふわりと丸く膨らみ、ナユタを警護するコジロウの影も揺れた。

「コジロウ!」

 つばめが手を振ると、コジロウは振り向いた。

「つばめ、所用か」

「上陸許可が出るまでは、まだまだ時間があるよね?」

「そうだ。事後処理を終えない限り、つばめと始めとした事件関係者は上陸出来ない」

「だから、その間に写生だけでも片付けようと思って。でも、変なところを描いたら機密とかに関わっちゃいそうだから、コジロウに聞いておこうと思ってさ。どの辺なら大丈夫かな?」

 つばめがスケッチブックを広げながらコジロウに尋ねると、全く別の人物が答えた。

「水平線でも描いておけ。下手に陸地を描けば地形と距離感で座標がバレるし、船もヘリも以ての外だからな」

「武蔵野さん、こんなところにいたの?」

 つばめは体を傾けて、ナユタの後ろ側に突っ立っている大柄な男、武蔵野に声を掛けた。おう、と渋みのある声で返事をした武蔵野は、体のそこかしこに包帯が巻き付けられていた。海上自衛隊からの借り物である水色の迷彩服を肩から引っ掛けていてジャングルブーツも履いているので、事情を知らなければ自衛官の一人にしか見えないだろう。義眼の填った右目の上には包帯を巻いていなかったが、額には幅広のヘアバンドのように包帯が何重にも巻かれていた。浅黒く引き締まった腕も同様で、肌色の濃さで包帯の白さが際立っていた。それを目にし、つばめは胸が痛んだ。いずれの傷も、つばめを守るために付いてしまったのだから。つばめの表情に目聡く気付いたのか、武蔵野は肩を竦めてみせた。

「気にするな。思春期の小娘じゃあるまいし、傷が付いたところで俺の人生に何の支障も来さない」

 むしろ箔が付く、と付け加えた武蔵野に、つばめは安堵した。

「そう、だったらよかった」

「お前の方こそ、ちゃんと眠れたか? 船酔いもしなかったか?」

「どっちも大丈夫。そりゃ、あの夜は目が冴えちゃって寝付くに寝付けなかったけど、もう平気だから。船酔いだってほとんどしなくなったし、御飯だっておいしいし。心配してくれてありがとう」

 つばめが笑みを返すと、武蔵野は顔を逸らし、わざとらしくサングラスを直した。

「まあ、なんだ。だったら、いいんだ」

「で、この際だからちゃんと聞いておくけど、武蔵野さんって本当に私のお父さんじゃないんだよね?」

「……そうだ」

 武蔵野はつばめの背後に佇むコジロウの威圧的な視線を気にしつつ、答えた。

「俺とひばりの間には何もなかったんだ。誓って言う、不用意に触ったこともない。状況が状況だったから、手を出すなんて以ての外だった。だから、俺とつばめには何の関係もないんだ。強いて言うなら、お前の母親の知り合いって程度だ。信じてくれ、と言ったところで信じてもらえるとは思わないがな」

「武蔵野さんの態度を見ていれば、信じられるってことぐらい解るって。だって、あんまりにも純情だから」

 つばめが茶化すと、武蔵野は短髪を掻きむしった。

「ああ、くそ、やりづらいな」

 壁のような体格と凶相と生傷だらけで筋肉に覆われた体とは裏腹に、武蔵野の内面は呆れるほど清らかだ。その落差を感じるたびに、つばめはなんともいえない感情が込み上がってきた。笑いたいような、そんな性格だったからつばめの母親とは何も起きなかったんだよ、となじってやりたいような。その調子で傭兵なんてよく務まっていたものだなぁ、と関心してしまうような。けれど、武蔵野が悪い人間ではないと知った嬉しさが一番大きかった。

「ねえ武蔵野さん」

「なんだよ」

「どうせなら、うちに来てよ。で、雇われてよ」

「道子にもそう言ったのか?」

「うん、まあね。あの時はちょっと脅し気味だったけど、武蔵野さんはストレートな方がいいかなって思ってさ。それに、お母さんの話だってもっと聞きたいから。武蔵野さんだって、私の近くにいた方が色々と便利でしょ? まだまだ手を引くつもりがないのなら、前線に近いところにいないとね」

「給料は?」

「その辺の細かいところは、うちに帰ってからお姉ちゃんと話し合って決めようよ。その方が確実だし。んで、契約はするの、しないの、どっちなの?」

 つばめが手を差し伸べると、武蔵野は口角を吊り上げた。

「望むところだ。お前の兵隊になってやるよ」

 武蔵野の手が振り下ろされ、つばめの手を弾いた。ぱぁんっ、と乾いた打撃音が響いて肩まで痛みが走ったが、すぐに痛みは治まった。これで一安心だなぁ、とつばめが振り返るとコジロウが武蔵野を凝視していた。武蔵野とのやり取りに嫉妬したのだろうか。いや、違うだろう。武蔵野がつばめの手を叩いたから、警戒していると考えるのが自然であり、彼の機能としては正しい。情緒的な判断をしないのがコジロウなのだから。

 おーい、と呼び掛けられ、つばめが音源に向くと寺坂と道子が甲板に出てきていた。寺坂は紺色のツナギを着ていたが両袖は捲り上げられていて、右腕の触手は白い布で縛ってある。つるりとした禿頭には傷一つなく、頭蓋骨に大穴が開いていたとは思いがたかった。道子はサイバーパンク風味のメイド服のままで、すっかり気に入っているらしく、意味もなく回転してはミニスカートを翻してみせた。

「今日の昼飯は玉子丼とマカロニサラダだとよ。まあ、それぐらいしか楽しみがねぇからな」

 寺坂の報告に、つばめは喜んだ。

「だよねー。でも、ここの御飯、おいしいから好き!」

「やっぱり御食事というのは、日頃の経験と手間が物を言うんですねぇ。私も頑張らなければいけませんね!」

 道子が意気込んだ途端、武蔵野が後退った。

「おい、それだけは止めろ。絶対に止めろ。何が何でも止めろ」

「むっさんが三回言うほど不味く進化しちまったのか、みっちゃんの料理は。暗黒面に真っ逆さまだなぁ」

 寺坂が大いに嘆くと、つばめも渋い顔をした。

「まあ……うん……。米の磨ぎ汁の紅茶の衝撃は未だに……」

「お前んちで道子に作らせちゃいないよな?」

 武蔵野が心底不安げに尋ねてきたので、つばめは全力で首を横に振った。

「ないないないない、絶対にない!」

 そう言った途端、武蔵野の表情が見るからに綻んだ。道子のとんでもない料理で、余程耐え難い苦痛を受けたのだろう。当の道子は、皆から貶されたので拗ねてはいたが本気で怒ってはいなかった。料理が恐ろしく下手なことは自覚しているので、まだマシなのだ。だが、道子はメイドとしてのやる気を持て余しているので、いついかなる場合にとんでもない料理を作るのかが予測出来ないという、タイマーが壊れた時限爆弾のような危うさがある。つばめ達に出来るがあるとするならば、その時限爆弾が湿気っていますように、と祈ることだけである。

「で、ですね」

 道子は妙にグラマラスなボディを見せつけるように胸を張り、腕を組んだ。

「ちょいちょいっと暗号回線の通信を傍受して上陸許可に必要な条件を探ったんですけど、ナユタの完全な沈静化が第一条件みたいですね。新免工業の社長さんが遺産関連の捜査に全面協力してくれることと、ナユタを放棄してつばめちゃんに譲渡することも重要視されていますけど、それはまあどうにかなるでしょうね。新免工業の社長さんはなかなかの曲者ですけど、フジワラ製薬の社長さんよりは話が解りますし、通じますからね。でも、問題なナユタです。この子はつばめちゃんの言うことを聞いてくれるようにはなりましたけど、上手く制御出来ないんですよー」

「あの時は凄く上手くいったよ? それなのに、また制御出来なくなったの?」

 つばめが道子に聞き返すと、道子は肩を竦める。その拍子に、シリコン製の豊満な乳房も上下する。

「ちょーっと違いますねー。パスワードが変わってログイン出来なくなった、って感じですねー」

「てぇことは、また暴走しちまうのか?」

 寺坂が眉根を顰めると、道子は首を横に振る。

「いえいえ、それはもう起きません。つばめちゃんの生体情報のおかげで分子構造が安定して、分子活動もかなり落ち着いたので。でも、ナユタの量子アルゴリズムとアマラの量子アルゴリズムが噛み合わないんです。遺産同士なので互換性はあるし、プログラム言語も酷似しているんですけど、どうやってもシステムが動かないんです。使用しているプログラム言語が違うみたいで。たぶん、制御装置の一環じゃないかと思うんですよね。全ての遺産が同じプログラム言語だと使い勝手は良いですけど、アマラを奪われて押さえられちゃったら、アマラの能力だけで他の遺産まで掌握出来ちゃいますからね。だから、そういう面倒臭い仕掛けにしたんじゃないかなーって。アマラから完全に独立した情報記録媒体に保存してある、って情報は見つけたんですけど、それは遺産とはちょっと違う代物なので見つけ出すのが難しいんですよー。参っちゃう」

「だったら、アマラの演算能力でナユタのプログラム言語を算出すればよくないか?」

 武蔵野の提案に、道子は頬に手を添えた。

「それはやりましたよ、何度も何度も。でも、どうもアマラとナユタは別次元の宇宙から引っ張ってきた代物らしくて、何をどうやったって噛み合わないんですよー。いや、ちょっと違うかな? 厳密に言えば、同じ宇宙だけど別の時系列を辿った宇宙から、って言った方が正しいですかね。噛み合わないけど、基本理念は同じなので」

「ふーん」

 そう言われても、当のナユタが大人しくしているので危機感がない。つばめの気のない返事に、道子は意味もなく二の腕を寄せ、コルセット状のメイド服の胸元に谷間を作った。遊んでいるのだ。

「ですが、ナユタを制御出来なければ、現状は打破出来ません。このままでは一生上陸許可が下りませんし、海上ではネット通販が使えません。妨害電波やその他諸々をかいくぐってネットに接続することは出来ますけど、環境が悪いので動画はガクガクでブロックノイズだらけです。SNSだってレスポンスが悪いので、話題のあのアニメの実況に参加出来ません。特撮だって見逃してしまいます。一応、つばめちゃんちのデジタルレコーダーは遠隔操作出来るのでやるだけやっておきましたけど、そのデータをこっちに引っ張ってくるのは手間ですから。とにかく、私は上陸したいのです。だって、そうじゃないと、この前発注したバニーガールの衣装が受け取れないんですよ?」

「それが本音か」

 武蔵野の辛辣な言葉に、道子はにっこりした。

「見せる相手もいませんけどね! 自己満足万歳です!」

「俺もそろそろ酒が欲しいしなぁ。俺のかわいこちゃん達も、乗っかっていじくって良い声で鳴かせてやらねぇと調子が悪くなっちまう。で、みっちゃん、どうすればナユタを落ち着かせられるのか、解ってんだろ?」

 寺坂はタバコを吸えないのが手持ち無沙汰なのか、布の下で触手をうねらせた。

「当たり前です。私は電脳体であってコンピューターのプログラムの一種ですから、結論のないことは言いません。結論ありきで行動しますから。それで、色々な角度から検証して仮想実験を行った結果、遺産の制御に最も確実で強力な手段が一つだけ判明したんです。それはですね、つばめちゃんのキスです」

「……うぇ?」

 素っ頓狂すぎて、つばめは声を裏返した。皆の視線が集まり、つばめは赤面して俯いた。まさか、まさか、まさか、道子はあのことを知っているのではないだろうか。コジロウの記憶を覗いたのではあるまいか。コジロウが身動いだのか、変な駆動音が聞こえた。手付かずのスケッチブックを抱えて背を丸めたつばめに、道子は意味深に笑う。

「更に言いますと、ナユタはつばめちゃんが作らせたエネルギーの泡に包まれている状態なんです。あれのおかげでナユタは安定していますが、逆に言いますと、通常空間と閉鎖空間の隔たりが広がってしまっているのでナユタの制御が難しくなっている一因なんですよ。そこで、通常空間に露出したナユタを通じてナユタ本体を遠隔操作すればいいと判断しましたので、そのナユタの分子構造を変換して手足にコジロウ君をつばめちゃんが制御すれば私の方もアマラを通じてナユタに働きかけられるなー、って。で、その、コジロウ君のエンジンであるムリョウの出力をナユタを制御出来るほど上げられる方法は、つばめちゃんのキスだけだと」

「それってどういう理屈なんだよ。おとぎ話でもあるまいし」

 寺坂が半笑いになったので、道子は説明した。

「細かく説明するとですね、遺産はつばめちゃんのゲノム配列を読み取って管理者を認識しているんですが、脳波も合わせて読み取ると効果が増すんです。ゲノム配列だけだとパスワードを入力しただけですけど、脳波がセットだと網膜認証や指紋認証を行ったのと等しくなる、という具合ですね。ですので、色んな意味で不安定なナユタを完全にコントロールするためには、脳を近付ける必要があるんです。おでこをこつん、とするだけでもイケるとは思うんですけど、キスの方が素敵じゃないですか。色んな意味で!」

「で、でっ、でも、だからってぇ」

 つばめが羞恥のあまりに声を詰まらせるが、道子の笑顔は変わらなかった。

「大丈夫ですって。周りには見えないようにしますし、私達だって見ませんから」

「で、だ、だからって、そういう問題じゃ……」

 行為が問題なのだ。つばめがコジロウを横目に窺うと、コジロウはマスクフェイスを傾けた。

「本官には理解出来ない」

「んだよ、つばめはキスの一つもしたことねぇの? んじゃ、手本でも見せてやるかぁ」

 妙にやる気になった寺坂は、にゅるりと触手を伸ばして武蔵野を掴まえた。

「お、おおうっ!?」

 逃げる間もなく引き摺られた武蔵野は、寺坂の目の前に立たされた。猛烈に嫌な予感がする。寺坂の無茶苦茶さにつばめが戸惑っていると、道子はむくれていた。自分が練習台ではないのが悔しいのだろうか。

「まずはこう、な」

 触手を引き締めて右腕を形作った寺坂は、その右腕を武蔵野を腰に回し、自身の腰に寄せた。

「おい、止めろ。俺にその気は全くない、断じてない、あるわけがないっ!」

 武蔵野は必死に抵抗して寺坂を押し退けようとするが、顔を押さえ付けられて仰け反った寺坂はおもむろに触手を一本伸ばし、武蔵野のズボンに滑り込ませた。直後、武蔵野が呻いて背を丸めた。急所を攻撃したらしい。

「後で殺す、絶対に殺してやる……」

 顔を歪ませながら恨み言を絞り出した武蔵野を横目に、寺坂はキスの講習を続行する。

「相手の腰と自分の腰を寄せる。でも、この時にあんまりやりすぎないことだな。触れるか触れないかが丁度良い。その方が相手も意識してくれるし、こっちも盛り上がるからな。んで、その次はこうやって、だな」

 寺坂は左手で武蔵野の顎を引かせると、武蔵野のサングラスを外し、自分のサングラスも外した。

「しばらく相手と目を合わせる。タイミングを計るっつー意味もあるが、あんまりがっつくのはガキ臭ぇし、どうせヤるんだったらじっくり味わいたいからな。ただの棒と穴で終わるんじゃ、どっちも楽しめねぇし」

「いい加減にしろ、生臭坊主!」

 余裕を取り戻した武蔵野が寺坂を殴ろうと拳を固めるも、寺坂は数本の触手を出して武蔵野の拳を封じた。

「本当はもうちょっとじゃれ合ってから始めるのが好きなんだが、まあ、仕方ねぇ。んで、こうする」

 そう言って、寺坂は武蔵野の首に左腕を巻き付けて引き寄せ、躊躇いもなくその唇を塞いだ。しかも、相手の唇を甘く噛んでは吸う、本格的なディープキスだった。あまりの展開につばめが硬直していると、道子に至ってはその場にへたり込んだ。コジロウだけがノーリアクションだったが、その思考回路が平穏であったかは定かではない。

 ひとしきり武蔵野を弄んでから、寺坂は触手と腕を緩めて武蔵野を解放した。武蔵野はすぐさま後退って寺坂との距離を開けると、これ以上ないほどの凶相を作って口元を乱暴に拭った。寺坂は口元を舐め、海面に唾を吐く。

「むっさん、見た目の割にヤニ臭くねぇなぁ。おかげでやりやすかったけど」

「……この野郎」

 武蔵野が憤怒を漲らせながら吐き捨てると、寺坂はにやりとした。

「後の処理は勝手にしろよ。俺は男じゃ抜けねぇし、抜いてやる義理もねぇし?」

「あ、あのぉ……」

 生身であれば涙目であろう声色の道子に、寺坂はその前で片膝を付いた。

「悪いな。やっぱり俺、どうしてもみっちゃんには手ぇ出せない。ごめんな」

「いいんです。それで、いいんです」

 道子は首を横に振ったが、その語気には強がりしか含まれていなかった。寺坂と道子を結び付けている関係は、暖かみがあるからこそ隔たりが深いのだろう。それを肌で感じ取ったつばめは、ちょっと切なくなった。美野里もまたその関係の一端なのだろうか。だとすると、美野里は二人の関係をどう思っているのだろう。美野里は寺坂の好意をはねつけてはいるが、完全に拒絶している様子はない。きっと、寺坂と美野里の間にも、一言では言い表せない事情があるのだろう。大人って大変だなぁ、とつばめは他人事のように思った。

「んで、どうする?」

 コジロウとやっちゃうの、と寺坂に問われ、つばめは我に返った。コジロウと目を合わせると、コジロウはつばめを真っ直ぐ見下ろしてきた。赤いゴーグルには、その赤さを上回るほど赤面したつばめが映り込んでいる。滑らかな白のマスクを見つめていると、無意識に自分の唇を押さえてしまった。

 出来ることならもう一度、キスしたいと思っていた。だが、それはちゃんとコジロウに好きだと言ってからにしたいと思っていた。そうしないと筋が通らないし、好意と言えども闇雲にぶつけてはコジロウに悪いからだ。もう少し色気のある場所と経緯であれば良かったのに、と躊躇する一方、上陸許可を出してもらわなければ夏休みの続きを満喫出来ない、とも考えていた。軽く頭痛を覚えるほど悩み抜いた末、つばめは腹を括った。

 もう一度、してやる。



 だが、しかし。

 決心したからと言って、そう簡単に実行に移せるようなものでもない。つばめは日陰に座り込み、膝を抱えていた。コジロウはと言えば、ナユタの警護に戻っている。常に視界につばめの姿が入る位置に立っているので、時折目を向けると必ず彼と目が合った。それが一層気恥ずかしさを煽り、焦燥感すら湧いてきた。

 暑さと船の揺れと羞恥とその他諸々の感情で、つばめは脳が煮えてしまいそうだった。心なしか、ナユタと甲板の間にある空間が広がっていて、頑丈なワイヤーがぎしりと鈍い音を立てた。頭上を行き交うヘリコプターをなんとなく目で追っていると、隣に人影がやってきた。武蔵野だった。

「飲んでおけ」

 また倒れるぞ、と言いながら武蔵野が差し出してきたのは、良く冷えたミネラルウォーターだった。つばめは喉の渇きを思い出したので、それをありがたく頂いた。一口ずつ飲んでいると、武蔵野はつばめの隣に腰掛けた。

「これは俺の持論なんだが」

 武蔵野はサングラスの下で瞼を狭めるが、その右目が義眼であるとは思えないほど自然な動作だった。

「キスというか、性行為とそれに準じた行為ってのは相手に無防備な姿を晒すことなんだ。口なんてのは弱点だらけだし、舌を噛み千切られれば致命傷だ。首も差し出す格好になるし、抱き付かれた時に刃物でも使われたら、一発で心臓を抉り取られる。防弾、防刃ジャケットにしたって、至近距離で何度もやられたら効き目が弱まる。セックスにしたって、急所を丸出しにするわけだし、文字通り丸腰になる行為だから、ある程度は信頼関係がなければ出来るものじゃねぇ。もっとも、世の中には性欲が警戒心を上回る奴が山ほどいるようだがな」

「何が言いたいの?」

 つばめが小声で聞き返すと、武蔵野はつばめを見下ろしてきた。

「道子の言っていたことは極論ではあるが、間違っちゃいないってことだ。俺の感じた限りでは、ナユタはつばめの精神状態と連動している。つばめが本気で心を許さなければ、遺産もつばめに気を許してくれない、ってことだ」

「でも、道子さんはそんなこと言っていなかったよ?」

 ナユタとつばめに繋がりがあるなんて初耳だ。つばめが驚くと、武蔵野はナユタを示す。

「そりゃ、道子はあいつを解析し切れていないからな、解るものも解らんさ。俺だって遺産のことを充分理解しているわけじゃないが、外側から見ているからこそ解ることもあるってことだ。つばめ、うんと小さい頃にケガか病気をしたことがあるか?」

「あ……うん。生後半年だったかの時に、足を切っちゃったことがあるの。でも、それがどうしたの?」

「前回、ナユタが暴走したのも同時期だ」

「え? だけど、私はそんなの、全然」

「俺だって理屈は解らん。聞かれても答えられん。だが、そういうことなんだってのはなんとなく解ったんだ。だから、つばめはあいつらを信用してやれ。そうすれば、ナユタもお前のモノになる」

 お前は他人を信用しないからな、と武蔵野は若干自虐を込めた口振りで言った。思い当たる節が多すぎるので、つばめは言い返す気も起きなかった。心の底から信用している人間なんて、つばめにはいないだろう。自分の境遇と背後関係が複雑になればなるほど、気を許せる相手は限られてくるからだ。無条件の好意を向けてくれる人間はまずいないし、吉岡一味から分離して雇った面々は信用してはいるが、無防備になったわけではない。金銭による主従関係を築く時点で、相手の好意を信用していない証拠だからだ。

 その点、コジロウはどうだろう。コジロウは感情を持たないロボットであり、つばめには頑なな忠誠心を抱いているから、感情的になってつばめを見限ることもないし、見捨てることもないし、手のひらを返すこともない。だから、彼に特別な感情を抱いてしまうのだ。どれだけ好きになっても、コジロウはつばめの好意を受入はしないが無下にしないと解っているからだ。なんて打算的で自分勝手な恋だろう。

「無理強いはしない。俺だって、お前のことを全面的に信用しているわけじゃないしな」

 武蔵野はつばめから視線を外し、大型客船の残骸の回収作業を続ける巡視船を見つめた。

「うん……。それについては否定しないよ」

 つばめは武蔵野と同じ方向を見、少し悩んだ末に、思い当たった結論を話した。

「この際だから言うけど、遺産争いの原因ってお爺ちゃんなんじゃないかって思うの。だって、遺産がお爺ちゃんの手元にあって管理されていれば、何も起きなかったはずなんだから。何らかの理由でとんでもない額の大金が必要だったから遺産を売り払ったんだろうけど、遺産とお金の価値を天秤に掛けてみると遺産の方が比重が重いのは誰だって解るよ。それなのに、遺産よりも集落とお金を選んだ理由が解らないんだ。お父さんとお母さんが離れ離れになった理由も、そこにあるのかなぁって……。そう思っちゃうと、余計に気を張っていないと不安になるんだ。誰が敵で誰が味方なのかも、解り切っていないから」

「それもまた、これから調べていこう。お前の父親の居所は見当が付いているからな」

「じゃあ、お父さんにはすぐに会える? お母さんの話も聞ける?」

「それは……俺からはなんとも言えんな。下手に近付くと、事態が混迷するかもしれんし」

「うん、そうだよね、そうだもんね。今、会うとお父さんを困らせちゃうだろうしね」

 つばめは期待に膨れ上がりそうだった心を抑え、俯いた。

「気が済むまで考えておけ。行動に出るのは、それからでいい」

 それが管理職ってもんだ、と言い残し、武蔵野は船内に戻っていった。つばめは生温くなったミネラルウォーターを口に含んでから、武蔵野とのやり取りを反芻した。つばめがナユタと連動している。だとすれば、ナユタがこれまでは誰の管理も受け付けなかったのも、どんな攻撃を受けてもほとんど壊れなかったのも、納得が行く。だが、つばめ自身の精神が作用しているのだとしたら、ナユタをどう扱えばいいのかが余計に解らなくなってしまった。自分の心ほど手に余るものはないし、ややこしいものもないからだ。

 ナユタの前に佇むコジロウは、つばめを見守り続けている。つばめは日陰から直射日光の下に出ると、太陽から降り注ぐ強烈な日差しに視界が白んだ。海の照り返しが激しく、目が眩みそうになる。つばめが近付くと、コジロウはつばめと向き直った。ナユタの分子構造を変換して造った両手足は、見た目だけではそれまでとなんら変わりないように思える。だが、コジロウがひとたびその気になれば、この巡視船は消し飛んでしまうのだ。

「ナユタが手足になったままで大丈夫?」

 つばめがコジロウの手に触れようとすると、コジロウは動作を躊躇った。破壊力を自覚しているからだ。

「ナユタのエネルギー活性を制御し、押さえているため、胴体に対する負担は最大限に軽減している」

「どれくらい保つ?」

「ナユタが安定を保っている限りは、本官の分子構造もまた保たれる」

「じゃあ、早くなんとかしないとね。で、早く上陸して、コジロウもちゃんと修理してもらわないと」

 つばめがナユタに近付いてブルーシートの下に入ると、コジロウも連れ立ってきた。色は青々としていていかにも涼しげだが、甲板の照り返しが入って空気が籠もっているので、直射日光の下よりも暑く感じる。薄暗くなると、彼の赤いゴーグルから零れる光を捉えられるようになる。青と赤が入り混じり、夕焼け空のような淡い紫色がつばめを照らしてきた。つばめは彼の胸に触れ、白い胸部装甲に貼った片翼のステッカーを慈しむ。

「つばめ」

 その手を、コジロウが掴んできた。思わぬことにつばめは身動ぎ、照れた。

「な、何?」

「ナユタはその高度かつ強力な機能故にセキュリティが堅牢であり、管理者権限所有者に対しても同様だ。先日の戦闘に値する緊急事態を除き、安易に中性子エネルギーを発することが出来ないように設定されている。よって、ナユタがつばめに管理を委ねていないというわけではない」

「ああ、さっき武蔵野さんが言っていたこと?」

「そうだ。よって、武蔵野戦闘員の発言には大いに誤りがある」

「また妬いたの?」

「本官には、その語彙に相当する主観はない」

「はいはい、解っていますって。心配性なんだから」

 つばめがからかうと、コジロウは否定を繰り返した。

「つばめの言葉に準ずる言動を行った記憶はない」

 だから、彼が好きだ。つばめを裏切らないし、変な期待を持たせるようなことも言わないし、どんなことが起きても必ず守ってくれる。ナユタで出来ている銀色の手を取り、握り締めると、冷たい手触りが返ってきた。そのまま彼に寄り掛かると、コジロウはもう一方の手でつばめの背を支えてくれた。体格差が違いすぎるので、つばめはコジロウの腹部装甲に額を寄せる形になった。以前ほど駆動音が大きくないのは、ナユタの影響だろうか。

「コジロウ、あのね」

 好きだよ、大好きだよ。そう言えたら、どんなにいいか。言ってしまったら、この心地良い主従関係が歪んでしまうような気がするからだ。傍にいることはイコールで愛情というわけではないし、守ってくれることがイコールで好意であるわけでもない。自分が大事に思っているからといって、相手もそうだとは限らない。増して、相手はロボットなのだから尚更だ。感情は打てば響くものだと武蔵野は言っていたが、ロボットはどうなのだろう。どれだけ打っても全く響いてこないのだから、打てば打つだけ無駄ではないのか。そんな理性が、つばめの気持ちに制動を掛ける。

 と、つばめが感傷に浸っていると、前触れもなく腰に手を回された。手の主は当然コジロウで、つばめは予想外のことに心底驚いた。コジロウらしくもない、いやに色気付いた行動だ。

「う、え、あっ」

 つばめがたじろぐと、コジロウは空いた右手でつばめの顎を掴み、目線を合わせてくる。

「あ、あうっ」

 これはまさか、さっきのアレではなかろうか。つばめは背を曲げて身を屈めてきたコジロウと真っ向から向き合いながらも、目を合わせられなくなった。このままではああなってこうなってそうなっちゃうんじゃ、との妄想が頭の隅々まで駆け巡っていったからだ。つま先立ちになったつばめは、期待と不安で震えそうになる体を縮めた。

「本官の管理システムを経由してナユタの管理システムにアクセスし、各種設定を行う。本官のプログラム言語にてつばめの管理者権限情報を変換し、ナユタに転送すれば、より確実にナユタを制御出来ると判断した」

「そっ、そのためぇ!?」

 だからって、何もこうしなくても。つばめが声を上げると、コジロウはつばめの汗の浮いた頬に指を添えた。

「つばめが望まないのであれば、中断するが」

「どこでそんなの覚えたの」

 気障ったらしいったらありゃしない。だけど、悪くない。つばめが少し笑うと、コジロウは更に腰を曲げる。

「本官のマスターは、つばめだ。他の遺産も同様だ」

「だからって、これはないでしょ……」

 こうなったら、コジロウのしたいようにさせてやるだけだ。ようやく開き直ったつばめは、コジロウの首に腕を回してかかとを上げた。すると、コジロウはつばめの右手を取って胸部装甲の中心に触れさせてきた。

「本官の中枢であるムリョウは、ギアボックスの真下に位置している。緊急停止装置もそこに位置している」

「ああ、そっちの意味ね」

 つばめはコジロウの心臓部を確かめながら、彼の行動の意味を悟った。つまり、コジロウは武蔵野の発言と寺坂の行動を複合的に考えて判断したらしい。キスをするのは相手に無防備になることだから、わざわざつばめに弱点を知らせてくれたのだ。それが嬉しくもあり、なんだかくすぐったくもある。

「今後、本官が領分を越えた行動を取った場合、機能停止を要請する。外装を開き、ムリョウに触れて制御出来るのはつばめだけだからだ」

「大丈夫だって。だって、コジロウだもん。何が起きても、守ってくれるのがコジロウなんだから」

 ね、とつばめはコジロウの首に回した腕に力を込め、抱き締めた。コジロウもまたつばめを抱き締め返した。それが反射的な行動に過ぎなくとも、胸の奥が暖かくなる。ほのかに光を感じたので瞼を上げると、ナユタが二人を包み込むように青白い光を強めていた。だが、あの夜のように攻撃的な閃光ではなく、緩やかなエネルギー波が微風を生み出してブルーシートを波打たせていた。前髪を舞い上げられたつばめは、コジロウの肩越しに身を乗り出してナユタの六角柱に額を当てた。そして、顔を少し傾けて唇を添えた。

 もう怖がらなくていい、強がらなくていい、意固地にならなくていい。コジロウが傍にいるのだから。つばめが遺産に内心で語り掛けると、光が収まっていった。それに応じてナユタ自身の体積も収縮していき、青白い光が小さな点と化した頃にはナユタは全長五センチ程度の結晶体に変わっていた。つばめが手を差し伸べると、矮小な結晶体はつばめの手中に収まってくれた。それを握り締めて胸に押し当ててやると、光は完全に消えた。

「ん!」

 つばめは身を下げると、勢いに任せてコジロウのマスクに唇を重ねた。すると、コジロウの両手足からも青白い光が漏れ出し、溶けていった。それはつばめの手中にある結晶体に吸い込まれて、質量を失った。ナユタがつばめの管理下に置かれたため、分子構造の変化も失われたからだ。胴体と首だけとなったコジロウがコンクリートの上に転がると、ナユタのエネルギー波を受けて舞い上がっていたブルーシートも落ち着き、二人の上に被さった。

 その重みと息苦しさを感じながらも、つばめはコジロウの傍に寄り添った。コジロウは手足がないので、つばめを覆うブルーシートを剥がせないのが歯痒いのか、しきりに身を捩った。つばめは彼のいじらしさに笑みを零しつつ、思う存分コジロウに体を寄せた。空気が薄く、蒸し暑かったが、心地良いものがつばめを満たしていた。

 心身を覆っていた、薄い泡が爆ぜたような気分だった。



 それから、数時間後。

 手のひらサイズになったナユタを握って、つばめは近付きつつある地平線を望んでいた。道子の言っていた通り、ナユタが沈静化したので上陸許可が出たからである。再び手足を失ったコジロウは巡視船の格納庫に搬入されてしまったので、しばしのお別れだ。日が暮れる一歩手前の空は茜色に染まり、千切れた雲が流れている。

 スクリューが巻き起こす白い泡と裂けた波をぼんやりと眺めていると、いつのまにか皆が揃っていた。見るからにほっとしている顔の寺坂に、にこにこしている道子に、覚悟を決めた面差しの武蔵野だった。

「先生、まだ起きてこないの?」

 つばめが一乗寺の姿を探すと、寺坂が首を捻った。

「そういえばそうだなぁ。メシは毎回届けた分を平らげていたから、たまに起きてはいるみたいなんだが」

「そんなことを言うと湧いて出てくるぞ、ああいう輩は」

 武蔵野が渋面を作ると、やたらと勢い良く船室のドアが開放された。ほら言った通りだ、と武蔵野が指し示すと、寝起きで髪がぼさぼさの一乗寺が現れた。だが、何かが違っていた。日常的に見慣れているはずだが、違和感を覚えたつばめは目を凝らした。鮮やかな西日を浴びたシルエットが、どことなく丸いような気がしたからだ。

「やっほー! あーよく寝たぁ、傷もすっかり治っちゃったー!」

 そう言うや否や、一乗寺は甲板を駆けてきた。彼も借り物の服を着ていて、シンプルな紺色のTシャツにだぼっとしたズボンにスニーカーを履いている。一乗寺はつばめに飛び付くと、力一杯抱き付いてきた。

「ねえねえつばめちゃん、コジロウとは何をどこまでしちゃったのー? 先生に教えてよぉーう!」

「ちょっ……ん?」

 つばめは一乗寺を押し返そうとしたが、妙な弾力を感じた。顔に押し当てられているのは、痩せ形ではあるが筋肉が付いた胸板ではなかった。二つの丸い膨らみが付いている。これは、まさか。つばめは怪訝に思い、一乗寺の胸に触れてみた。途端に一乗寺は高い声を出し、いやんえっちぃ、と身を捩った。

 確かに、アレである。つばめは一乗寺から離れると、声も出せないほど驚いた。この数日間の出来事であらゆる感情が大いに掻き混ぜられたが、最も驚いたのはこの瞬間だった。いつも通りの幼い笑顔を浮かべている一乗寺はこれ見よがしに胸を張ってみせると、二つの大きな膨らみが暴力的に躍動した。ノーブラだからである。

「いえーい! 今日から俺は女の子だーい!」

 最初に絶叫したのは誰だったのか。少なくとも、つばめが叫ぶ前に誰かが叫んでいたのは確かである。あまりの驚きように何事かと自衛官達が飛び出してきたほどで、彼らもまた一乗寺の変貌を見て驚いた。何人かに説明を求められたが、そんなことが解るはずもない。当の一乗寺はなんだか楽しそうで、柔らかなラインの体を見せつけては感想を求めてきた。だが、つばめは何も言えなかった。

 開いた口の塞ぎ方を忘れてしまったからだ。

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