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 その男は、再び目覚めた。

 仮組みのサイボーグボディは外装を貼り付けておらず、人工臓器が丸出しになっていた。生命維持用の外部接続人工心肺から伸びる数本のチューブが金属の生首の根本に差され、人間の心拍数と同じタイミングで酸素と栄養を流し込んでいる。人間らしい形を成しているのは肋骨に酷似した胸部フレームと背骨に当たるシャフトぐらいなもので、両手足は接続すらされておらず、原形を止めていない。傍目に見れば、組み立て前のサイボーグだ。

 だが、その正体は、フジワラ製薬の社長である藤原忠の成れの果てである。ここまでバラす必要はあったのか、と武蔵野は若干訝りながらも、不格好な機械の体に閉じ込められた藤原忠を見下ろした。哀れな男の周囲では白い防護服に身を包んだスタッフが走り回っていて、藤原忠の抜け殻の肉体を切り刻み、次々に真空パックにしている。さながら、食肉用に加工されたかのようだ。藤原忠はアソウギで生体改造を行っていないが、アソウギに全く接触していない、というわけではない。本人が知らない間に、どこかしらを汚染されていた可能性もある。故に、新免工業は、レーザーガンで腹部を狙撃して藤原忠に致命傷を負わせ、回収し、サイボーグ化手術を施した。

「おい、こいつと会話は出来るか?」

 武蔵野がスタッフの一人に尋ねると、医療スタッフは答えた。

「いえ、今のところは各種センサーを接続していませんので、何も感じ取れませんが」

「それが仕上がるのはいつ頃だ?」

「本社の方針が決まってからになりますね。今、指示を仰いでいます」

「先に決めとけって言ったのになぁ。これだから参るぜ」

「ええ、全く。おかげで現場はばたばたしてますよ」 

 武蔵野の愚痴に医療スタッフは苦笑して、また仕事に戻っていった。防護服姿の者達は難解な医療用語だらけの会話を繰り返し、時に叱責にも似た語気で指示を飛ばしながら、藤原忠の残骸を加工していった。血の一滴すらも零さず、骨の一片すらも落とさずに、分厚いビニールの袋に詰め込んでクーラーボックスに押し込めている。それがどこに行くのかは、武蔵野は知っている。知っているが、あまり思い出したくない場所だ。

「武蔵野さん、お疲れ様ですー」

 語尾を上げながら声を掛けてきたのは、新免工業の社員である戦闘サイボーグ、鬼無克二(きなしかつじ)だった。

「ご苦労だったな、鬼無。あの社長をここまで引っ張ってくるのは骨が折れただろう」

 武蔵野が労うと、長身のサイボーグの青年は肩を竦めた。鈍色の細長い手足は金属製のムチのようにしなやかで、各関節だけでなく、微妙な筋肉の動きも再現して外装が細かく前後している。頭部はつるりとしたヘルメット状で表情は一切出ない構造になっており、人間らしさは皆無だった。胸部から胴体にかけてのラインは戦闘機のノーズコーンを思わせる流線型で、腹部の駆動部分が蛇腹に近い構造なので、細長い手足も相まって鋼の昆虫のような印象を受ける。申し訳程度に着ている迷彩柄の戦闘服が、人間であることを辛うじて知らしめていた。

「フジワラ製薬の怪人共が溶けて行動不能に陥っていたのと、コジロウが大破寸前だったおかげで、なんとか上手くいきましたよ。損害は出ましたけどねー、中性子砲の暴発でー」

「武藤の脳みそは焼け残ったのか? スナイパーだったんだろ?」

「ええ、これっぱかし。棺桶に入れられるのは外装だけでしたねー。いくら積層装甲のフルサイボーグって言っても、至近距離で中性子砲がズバーンじゃ助かるわけがないですよー」

 そう言って、鬼無は親指と人差し指を曲げて小さな空間を作った。一センチもなかった。

「そもそも無茶なんですよねー、ナユタの兵器運用って発想自体が。あれって見た目は綺麗ですけど、その正体は莫大なエネルギーの固まりっていうか、エネルギーに変換される一歩手前の中性子の結晶体、っつーかで。中性子なんてものは人間の手に余る物質ですし、それにショックを与えてエネルギーに変換するのはいいですけど、その後が問題なんですよねー。いつも決まって爆破オチですからー?」

「ダム湖の上でさえなかったら、伊織、いや、アソウギごと吹っ飛ばしていたか?」

「んー、それはどうでしょーね。アソウギをぶっ飛ばしたら、そのついでにつばめちゃんも木っ端微塵になっちゃうじゃないですか。そんなことになったら、誰がナユタを大人しくさせてくれるんですー?」

「お嬢の生体情報でイケるんじゃないのか」

「んなわけないじゃないですかー、武蔵野さん。そりゃ、りんねちゃんの生体情報でもそこそこは出来ますけど、そこそこはそこそこでしかないんですから。いくら美少女でも、本物には勝てませんってー」

「佐々木の小娘と、弁護士の女もいるじゃないか。あと、その、なんだ、桑原れんげか?」

「つばめちゃんは許容範囲ですけどー、俺のストライクゾーンからはちょっとずれてますねー。みのりんは丸っこくてムチムチな感じがそそりますけどー、なんかこう、来ないんですよー。生理的にダメ、みたいな? で、れんげちゃんは地味すぎて盗撮し甲斐がないっつーかでー」

 だから御嬢様の写真ないですか、と鬼無が真顔と思しき声色で尋ねてきたので、武蔵野は邪険にした。

「ないよ、そんなもん。散々見ているだろうが、ライフルのスコープ越しに」

「あれじゃダメですってー、満足出来ません。覗きしているみたいで燃えるっちゃ燃えるシチュエーションですけど、俺、どちらかってーと盗撮の方が好きですー」

「覗きとどこが違うんだよ。というか、お前の性癖は相変わらず倒錯しているな」

「性癖ってのは、皆、歪んでいるものですって。何度も言っているじゃないですかー、覗きと盗撮は違うって。覗きはリアルタイムですけど、盗撮ってのはあれです、宝箱を開ける感覚なんですよ。で、大抵アングルは下からじゃないですか。だから、相手の顔も解らないってのもまたいいんですよ。よくあるじゃないですか、後ろ姿とか足だけを見てムラムラッと来たから前に回ってみたら残念すぎる、ってのが。でも、盗撮はですね、最後の最後まで顔が解らないのがいいんですよ。レッツ脳内補完ですよー」

「お前、サイボーグ化する前に一度脳みそが潰れただろ?」

 武蔵野が苦笑いすると、鬼無はけらけらと笑う。

「よく言われますねー。でも、俺の場合は元からですからー。サイボーグになったおかげで色々と便利になって、今となっちゃ覗き放題盗撮し放題で、毎日がパラダイスですよ。監視カメラだらけの管理社会万歳!」

「あんまり調子に乗っていると、道子に見つかってお前の隠しフォルダの動画がばらまかれるぞ。特に、お嬢の動画なんて取っておいたら一発でアウトだ。ボディの電圧を変えられて脳みそを焼き切られるぞ」

「その辺は武蔵野さんがなんとかしてくださいよぉー、ほら、同僚のよしみでぇー?」

 鬼無は急に弱腰になったが、武蔵野は腰を上げた。

「自分の尻は自分で拭え」

 外見だけ見れば、鬼無は最新鋭のスレンダーなサイボーグだ。従来の戦闘サイボーグは、戦闘能力とパワーを同列に扱っていたがために重量級になっていたが、近頃ではその風潮が見直されてきている。確かにサイボーグは生身の人間の盾となり、矛となり、最前線に切り込んでいくのが仕事ではあるが、分厚い外装を備え持った人型の物体を遮蔽物として設置するだけならロボットでいい。力任せに暴れて敵を乱すだけだったら、生身の人間である必要がない。そこでサイボーグのスタンスが大幅に見直され、革新的な技術を数多に盛り込んで生み出されたのが、鬼無のような次世代の戦闘サイボーグである。

 これまで普及していた武骨な戦闘サイボーグとも、ハルノネットが販売している肉体の欠損を補うためのマネキン人形のようなサイボーグとも、根本から異なっている。一般家庭の電圧による充電を五時間行えば六十八時間稼働可能な超小型バッテリー、人間の関節を研究し尽くして開発したパワーゲインが限りなくゼロに近いギア、シャフト、関節、軍事用の精密な探査機器を元にして尚かつ改良を加えた各種センサー類、演算能力を引き上げた補助AI。高性能と呼べる素材を溢れんばかりに押し込めたが、その結果、常人ではボディを持て余してしまうことが判明した。長らく戦闘サイボーグとして戦っていた人間が特に嫌がったのは、ハルノネットのスーパーコンピューターに迫る勢いの演算能力を持つ補助AIだった。優秀すぎる補助AIは時として人間の意志を否定し、陵駕し、己の肉体であるかのようにサイボーグボディを操ってしまうのだ。故に、被験者は次々と音を上げ、新免工業から去っていった者達も少なくなかった。お蔵入りかと思われた時、主に海外の紛争地域で武器の売買を行っている部署から、負傷した戦闘サイボーグの青年がやってきた。開発スタッフが被験者にならないかと声を掛けてみると、青年はあっさり承諾してくれたばかりではなく、誰もが持て余した新世代のサイボーグボディを使いこなしてみせた。その青年の名こそが鬼無克二であり、武蔵野と同様、佐々木長光の遺産相続を巡る争いに荷担している部署の一員である。

「お?」

 鬼無が何かの通信電波を拾ったのか、鏡面加工が施されたマスクフェイスを上げた。

「武蔵野さん、本社から返事が来ました」

 作業服姿の社員が駆け寄ってきて、武蔵野にPDAを差し出した。

「で、どうしろってんだよ」

 武蔵野はPDAを受け取ると、そこから投影されているホログラフィーに指を滑らせてファイルを解凍させ、文書を展開した。鬼無もすかさず首を突っ込んできたので、武蔵野は鬼無を追いやってから文面に目を通した。

 新免工業の幹部社員の署名捺印が並ぶ重要書類には、フジワラ製薬の社長、藤原忠の処遇について事細かに書き記されていた。延命措置を施すこと。脳とサイボーグ化に不可欠な神経系以外の生体組織を全て保存し、本社を経由して研究部に送付すること。フジワラ製薬には死亡届を出してもらうように手を回すこと。藤原忠が意識を回復して自我が明瞭である場合、その意志を尊重すること。それによって利益が生じると見受けられた場合、本社に伝達して指示を待つこと。藤原忠が新免工業に反逆の意志を持っていた場合、本社に相談の上で処分を行うこと。などなど、項目だけでも五〇近くあった。だが、その全てを守り通せるとは思いがたかったので、武蔵野は現場主任を呼び付けて相談して守れるものと守れないものを選別させた。その後、藤原忠と意思の疎通が取れるように各種機材を接続させ、改めてフジワラ製薬の社長と対面した。

 機械の首に収まっている男は、填められたばかりのセラミック製の眼球を動かして辺りを窺ってきた。そこに写るのは、寂れた工場と、それに似合わない最新鋭の設備と、白い防護服を着た人々と、表情は出ないが喜色満面といった立ち振る舞いの昆虫じみた戦闘サイボーグと、自動小銃を下げた筋骨隆々の男だった。藤原は舐めるように視線を動かして外界を捉えていたが、武蔵野を見咎め、発声装置から生前のそれに似た合成音声を発した。

「君には見覚えがあるな、うむ。息子の同僚で、新免工業の」

「武蔵野だ。で、藤原さんよ、今の状況が理解出来るか?」

 武蔵野が自動小銃の銃身でぐるりと辺りを指し示すと、藤原は頷くかのようにセラミックの眼球を動かす。

「それなりにはな。だが、真っ当に殺されたとばかり思っていたものだから、復活時のセリフを考え忘れてしまったではないか。悪役といったらあれだろう、序盤で呆気なく倒された怪人が後半で再生怪人として復活するんだが、雑魚戦闘員と同程度の扱いしか受けないのだよ。で、その時に、あの時の恨み、とかなんとか余計な前口上を述べるのだがね、その無様さが好きなのだよ。解るかい?」

「聞いちゃいねぇよ、そんなこと」

 武蔵野も特撮は好きなので解らないでもないが、今は同意出来ない。業務中だからだ。

「うーむ、それは残念無念。で、ざっとでいいから、誰か事の次第を説明してくれないか? あれから何日経った? 誰が勝った? 誰が負けた? 私の息子と部下はどうなったのだね? どうせ解り切ってはいるのだが、確認しておかないことは落ち着かんのでな」

「奥只見ダムの戦闘から一週間が過ぎた。お前らは負けた。羽部はトンズラしたが、伊織の行方は解らん。怪人が溶けたアソウギは、佐々木の小娘が鉄の棺桶に入れて一切合切持っていった。ついでに言えば、あんたの会社は三木志摩子って女のものになっていやがる。あの女、秘書じゃなかったのか?」

「三木君らしいことではないか。彼女は昔から強かでねぇ、妻の真子と組んで会社の利権をほとんど手中に収めているのだよ、これが。おかげで今や、私の権限で扱える利権は怪人絡みの部署しかなくなってしまった。社員も大半は私ではなく三木君を社長として扱っていてね。おかげで好き勝手に悪の組織ごっこが出来たのだから、決して悪いことではなかったね。もっとも、それもこれも三木君が私を含めた怪人達を疎んでいたから、ではあるのだがね」

「悔しくないんですかー? 会社、乗っ取られちゃって」

 鬼無が不躾に尋ねたので、武蔵野は少し慌てた。が、藤原は笑うだけだった。

「悔しいも何も、会社の運営に私は情熱を抱いていないから、悔しがる理由がないのだよ。まあ、羽部君や怪人になることを進言してくれた者達と出会える切っ掛けになってくれたのだから、感謝はしているが。私の目的は今も昔も一つだけだ、素晴らしき悪役であれ! ただそれだけに過ぎん!」

「なんかよく解らないですねー、この人」

 変態ですねー、と鬼無が武蔵野に同意を求めてきたので、武蔵野はそれをあしらった。

「お前が言うな。で、なんでそんなに悪役になりたいんだ」

「ははははははは、そんなのは解り切ったことよ! って、言ってみたかったから言ってみたが、実のところは解り切ってもいないんだな、これが。人間ってのはそんなものだとも」

 段々と調子が戻ってきたのか、藤原は饒舌に喋った。元からお喋りなのだろう。

「私は物心付いた頃から、なんかこう、反社会的なことに憧れていたのだなぁ。中二病ってやつ? だが、私の親はそういうのを許さなくてなぁ、怪獣のソフビも怪人のソフビも買ってもらえなかったのだ。あっちの方が格好良いだろ、デザインも設定も。全身タイツを着てヘルメットを被ってお揃いの武器を使って綺麗事にどっぷり浸かっている連中に比べて、怪獣も怪人も出たとこ勝負だ。戦えば後がない、だが戦わなくても後がない、商品展開的に。一話限りの使い捨て怪人であろうとも、ストーリーの中盤で交代を余儀なくされる幹部怪人であろうとも、長いこと引っ張ったくせに倒される時はあっさりしているボス怪人も、まー、格好良いんだ! 特に散り際が潔くてな!」

 そう言いつつ、藤原はぐるりと首を稼働させる。生首に接続されているケーブルも動く。

「だから私もそういう人生を選んでみようと思ったのだが、親がな! いい歳こいてこんなこと言うのは寝小便をするよりも恥ずかしいったらないんだが、うちの親は私の意見を聞き入れようとしなかったのだ! 一切合切! だから、親の手のひらでゴロンゴロン転がされるように見せかけて堕落してみようと頑張った結果、思い付く限りアソウギを悪用してみたのだが、大した結果が出なかった! で、その後は君達も知っての通りだ!」

「だから、嫁さんに伊織を産ませたのか?」

「うむ。だが……伊織は、上手く出来すぎた」

 藤原は初めて言い淀み、目線を伏せた。

「正直言って、伊織がまともに産まれるとは思ってもみなかったのだ。真子が不妊であることを知った上で結婚したのは、アソウギによる実験を行ってみるためだったのだが、一度で受精したのだ。しかし、真子自身には遺産との互換性はない。アソウギや他の遺産と接触した過去もない。それなのに、伊織を孕んだのだ。産まれたら産まれたで、伊織は人間の血肉しか受け付けない体だった。おまけに凶暴だった。だから私は、伊織に喰われないようにするために伊織の全てを肯定してやったのだ。母を喰らおうが、他人を喰らおうが、何を喰らおうが、褒めてやった。故に伊織は私に対して敵意は抱かないようだったが、好意は抱いてくれなかった。まあ、そうだろうな。頭ごなしに否定するのも愛情ではないが、ピンからキリまで肯定するのも愛情ではない。安易な手段に過ぎん。よって私は、伊織の親として務めるべきことが出来なかった。だから、現実逃避してだな、趣味に突っ走っていたわけだが」

「おかげでこっちは良い迷惑だ。余計な損害を出しちまったよ」

 武蔵野は辛辣に吐き捨てたが、藤原はすぐに復調した。

「だが、我が息子が暴れたおかげで実証出来たデータも多かろう! 羽部君が調子に乗って道子さんに変なことをしてくれたおかげで、遺産同士の互換性も証明出来たわけだしな! アソウギとアマラ、二つの能力を合わせればそりゃあもう面白いことになるに決まっている! 合体ってのはテコ入れの基本だからな!」

「そりゃーまー、そうですけどー」

 鬼無がへらへらすると、藤原は片目のシャッターを開閉させた。ウィンクしたらしい。

「と、いうわけでだな、新免工業の諸君! 私が持つアソウギに関する情報とフジワラ製薬の裏金を譲渡するから、それを元手に私に思い切りテコ入れしてくれないだろうか!

 もうガッツンガッツンに!」

「……あ?」

 意味が解らない。武蔵野が半笑いになると、鬼無が両手を叩き合わせた。

「てぇことはあれですねー、戦闘サイボーグにしてくれーってことですね! わーお!」

「ははははははは、解っているじゃないか、そこの虫みたいなキモい青年!」

「鬼無ですよー、名乗り忘れてました。でも、もう一度そんなことを言ったら、脳みそ握り潰しますよー?」

「はははは、そりゃあいい。何が出てくるか見てみたいものだな」

 藤原と鬼無が本気とも冗談とも取れない会話を交わしていたが、武蔵野は横槍を入れた。

「正気か? 俺達もあんたらの敵対組織同士じゃないか、それなのに改造してくれって、どんなふうにいじくられるのか解ったもんじゃないぞ? こいつみたいにされるかもしれないんだぞ?」

 武蔵野が鬼無を指すと、鬼無はむっとした。

「武蔵野さんも脳みそ引き摺り出されたいんですね、解りますー」

「ははははははは、って何度笑っても噎せないのがいいな、機械の体は。私の本気具合を示すために、まずは裏金の在処から教えようではないか。えーと、文字入力するのはどの辺だ? 発声ソフトはここだから……」

 それからしばらく、藤原は黙り込んでいたが、文字入力ソフトと連動しているモニターを発見したのか歓喜した。

「おお、これだこれだ! メールを打つよりも簡単だな!」

 藤原のバイタルを表示しているモニターの一つが切り替わり、複雑なグラフが消えて単調なテキストが現れた。そこには数字がずらずらと羅列され、八桁の口座番号と四桁の暗証番号が三〇個近く並んだ。

「三木君に感付かれる前に引き出してきてくれたまえ。生体認証が必要だったら、私の指紋やら静脈やらを適当に使ってくれ。私の記憶が正しければ、合計額は三億に届くだろう。それだけあれば、大抵のことは出来るな?」

「で、俺達がその金であんたを改造したとして、あんたは何をするんだ?」

 武蔵野は電子光作と通信系を担っているスタッフに藤原の口座番号を示し、すぐに調べるように命じた。

「ははははははは、この世で最も悪いことさ。悪役の極み、邪悪の限り、悪鬼修羅の如く!」

「親殺しか?」

「いや、私の親はどちらも既に死んでいる。伊織が喰ってしまった。よって、私が殺すのは伊織だ。血縁関係は皆無ではあるが、戸籍の上では我が子。愛情を注いだつもりでいたが、それは届いていなかった。しかし、伊織は凶暴であるが故に純粋だ、哀れなほどにな。私のことを今でも信じているかもしれん、爪の先程度かもしれんが。それを裏切ってやれば、伊織はどんな思いをするだろう! 更に、伊織が特別な感情を抱いているであろう娘、吉岡りんねを目の前で殺してやれば、伊織はどんな顔をするのだろう!」

 藤原の人工眼球がぐるりと上向く。 

「生憎だが、お嬢と伊織はそこまで親密じゃないぜ」

 武蔵野が一笑に付すが、藤原は黙らない。

「伊織は暴力と食欲の固まりだ、常に飢えている! その伊織が、なぜ食欲を抑えていたと思うかね! 武蔵野君や他の面々を喰わずに長らえられていたのは、機動駐在コジロウに対する生物的な本能に由来する戦闘意欲だけではない、特定の個人に対する特別な感情だ! それがあるから、伊織は私を喰わなかった! そして、武蔵野君達が守ってきた麗しき御令嬢も喰わなかった! ああっ、なんといびつで美しいのだろうか、獣と人の狭間に揺らぐ哀れな息子よ! ふははははははははは!」 

 こりゃ本物だ、と武蔵野は顔を歪めそうになったが堪えた。パイプ椅子を蹴り飛ばしながら通信スタッフが慌てて駆け戻ってきて、声を上擦らせながら武蔵野に報告してきた。裏金が実在していた、それを一旦新免工業の口座に転送させた、と。わー凄いですねー、と鬼無は無邪気に喜んだ。藤原は得意げに高笑いを放った。

 にわかに工場内が騒がしくなった。本社への連絡を行う者、サイボーグ技術課に連絡を入れる者、藤原忠の裏金の隠し口座の存在を抹消するために電子工作を行い始める者。ただの戦闘員に過ぎない武蔵野と鬼無はそれらの仕事が出来るはずもなく、所在を持て余した結果、藤原の与太話の聞き役になった。鬼無は語気こそ柔らかいが辛辣な言葉であしらい、藤原もまた鬼無の柳のような態度に負けじと痛烈な語彙を使ってきた。武蔵野はサイボーグ同士の刺々しい会話に加わることはなく、どちらの話も聞き流しながら、伊織の顔を思い出していた。

 記憶に残っていたのは、不機嫌そうな表情だけだった。



 釈然としなかった。

 だが、この条件に同意したのは他でもない自分だ。羽部鏡一は必要物資が詰め込まれている段ボール箱を一つ一つ開封し、中身を確認しては並べていった。そうしないと落ち着かないからだ。羽部の趣味に合った衣服が二箱、フジワラ製薬の研究所でも使用していた実験器具と必要な薬品と機材が五箱、その実験に不可欠な高スペックなパソコンが三箱に別れて入っていた。残りの箱は、また後日開ければいいだろう。

「なんで、この僕がこうなっちゃっているわけ?」

 羽部は来客用の布団に寝そべり、吊り下げ型の蛍光灯が下がっている板張りの天井を仰いだ。今頃、藤原忠と藤原伊織はどうしているのだろうか。生きているのか死んでいるのかすら定かではないが、あの二人は羽部以上にしぶといから、そう簡単に死にはしないだろう。だが、会いたいとは思わなかった。羽部は藤原親子とフジワラ製薬を見限った、つまりは裏切ったということになるわけであり、今のところは弐天逸流の配下に収まっている。生きていくためだとはいえ、自分の信念の薄っぺらさが笑えてくる。だが、それが自分なのだろう、とも思う。

 枕元に置いてある古びた目覚まし時計を掴み、時刻を確かめる。午後八時半前。羽部に分け与えられた部屋は二階の角部屋で、それまではこの家の長男が使っていたものらしく、色褪せた学習机と擦り切れそうな地元中学校の通学カバンが隅に追いやられていた。少し毛羽立った畳と埃っぽさからして、本当に急な話だったのだろう。布団も心なしか湿っぽく、干している余裕すらなかったことが窺える。なんとなく気が引けるのは、羽部にも一抹の良心が残っていた証しだろう。もっとも、そんなものはすぐに消えるだろうが。

「えー、と。まずは状況を整理しようじゃないの、この僕が」

 羽部は起き上がると、胡座を掻いた。奥只見ダムで戦いを起こしたのは一週間前のことである。大方の予想通りの敗北を期し、アソウギは佐々木つばめの支配下に置かれた。その後、錯乱気味に遁走していた羽部は弐天逸流の信者達に回収された末、吉岡りんねの元クラスメイトであり、佐々木つばめとも面識を持つ娘、小倉美月の住む家に転がり込むことになった。当初は弐天逸流の手広さに感服したのだが、小倉美月の母親の実家である美作家に来ると、その理由がすぐに解った。美作家の仏壇には先祖の位牌は祀られておらず、その代わりに弐天逸流の御神体である異形の像、万寿様が収められていたからだ。信者同士の上下関係とネットワークを利用したのだ。

「で、その、この僕の仕事って何なんだよ」

 女子中学生同士の会話の盗聴、或いは監視をしろというのか。冗談じゃない、と言いかけて羽部は飲み込んだ。きちんとした契約書をやり取りしたわけではないが、弐天逸流とは条件を交わしあったからこそ、今の状況がある。あの時、弐天逸流の信者に見つけてもらえなかったら、今頃は羽部は飢えに負けて正真正銘の化け物になっていたかもしれない。筒状の妙な肉を口にしてからは、L型アミノ酸も少しずつ消化出来るようになり、美作家の家人が出してくれた夕食も吐き戻さずに消化出来た。味の方は解らず終いだったが。

 やらせたいことがあれば、指示が来るだろう。それに、未だに遺産の一つであるアマラとの接続は切れておらず、羽部の脳は常にどこかが働かされている状態だ。余計なことを考えると無駄なカロリーを消費するし、体力が回復するまでは頭脳労働も休んでいたい。

「あの」

 躊躇いがちにふすまが細く開き、声を掛けられた。件の少女、小倉美月である。

「なんだよ」

 羽部がぶっきらぼうに返すと、美月は怯えながらも言った。

「お風呂、空いたので、どうぞ」

「ああ、そう? でも、君が先の方がよくない? この僕はそう判断するんだけどね」

 羽部は面倒に思いながらも立ち上がり、ふすまを全開にした。廊下の明かりに照らされている美月は、機械油が染み付いた作業着のままで、髪も肌も汗でべとついていた。すると、美月は顔を伏せる。

「いいんです」

「よくないよ。君が先に入りな」

 人間体に戻っていても嗅覚が鋭敏な羽部にとっては、人間の皮脂と機械油の混じり合った臭気は強烈で、美月の傍に長居したくなかった。だから、早く追いやる口実を兼ねて、先に入れと言った。だが、美月は承諾しない。

「いえ、その、それは困るんです。だって、そうしないとお母さんが怒るし……」

「なんで? 意味解らないんだけど? たかが風呂の順番で?」

「だ、だって、その……羽部さんは本殿の人達が連れてきた人だから、一番偉いって」

 美月は羽部に凄まれたと思ったのか、身を縮める。羽部は心当たりがないので、更に粗野になる。

「知らないよ、そんなもん。この僕が全宇宙の支配者に相応しい知能を持ち合わせているのは周知の事実だけど、こんな狭い一般家庭で偉ぶるなんて馬鹿の極みなんだよ。大体なんだよ、その本殿って。ああ、あいつらのことか。でも、あいつらとこの僕は利害関係が一致しているというだけであって、君の母親みたいに触手だらけの変な神様を拝んでいるわけじゃないんだよ。ビジネスライクなんだ。そこんとこ、履き違えないでくれる?」

「えっ? でも、お母さんも本殿の人達も、羽部さんは」

「そりゃ、君の母親とこの家の人間を丸め込むための詭弁に決まっているよ。大体、いつどこでこの僕がこの僕以外の何かを信仰した? 信じるわけがないじゃないか、自分以外を」

「だったら、なんであの人達と一緒に来たんですか」

「死にたくなかったから。色々なことを説明すると面倒だから割愛するけど、まあ、そういうこと」

「そう、なんだ」

「で、君はどうなの? あの変な神様、信じているわけ?」

 羽部が問うと美月は口を開きかけたが、階段の下を窺って黙り込んだ。家人か母親に聞かれたら困るのだろう。それを察した羽部は、美月の腕を掴んで室内に引っ張り込んだ。ふすまを閉ざして窓もカーテンも閉めると、美月は羽部と二人きりになったことに戸惑うよりも前に、窓に駆け寄っていった。締めたばかりのカーテンを開けてガレージを見下ろした美月は、今にも泣きそうになった。そういえば、小倉美月の資料にレイガンドーというロボットに関するものがあった。今や吉岡りんねの配下である人型重機、岩龍と幾度となく競い合った情緒豊かなロボットだ。だが、そのレイガンドーは稼働していない。地下闘技場で岩龍と対戦した際、抜け殻も同然の状態で戦ったために人型重機のボディが大破してしまったためだ。と、弐天逸流が寄越してくれた書類に記載されていた。

「レイ、元気かな」

 美月は窓に貼り付き、額を押し当てる。

「私、あの神様を信じたくなんかない。お母さんは、お父さんがロボット賭博に夢中になっておかしくなったのは、あの神様を信じていなかったからだって言っているけど、私はそんなことはないと思うの。お父さんもおかしかったけど、お母さんはもっとおかしくなっちゃったから。だから、レイだけが頼りなの。レイは私の話を聞いてくれるし、ちゃんと受け答えてくれるから、レイさえいれば頑張れるって思っていたんだ。だけど、お母さんはレイを動かしちゃいけないって言って、でも、お母さんはレイの新しいボディを組み上げることを許してくれなくて、レイと話すことも変な神様の教えにないことだからって禁止しちゃって、だからずっとレイと話も出来ていなくて……」

 羽部は美月の肩越しにガレージの屋根を見下ろすと、美月は唇を噛み締めながら頷いた。

「で、君もそんな感じなのね。うん、言わなくても解る」

「う」

 羽部の言葉に、美月は目元に涙を溜めた。ああ鬱陶しいな、とは思ったが、ここで美月を無下にして逆上されでもしたら後始末が厄介なので、宥めてやることにした。口だけではあったが。

「んじゃ、この僕がなんとかしてやろうじゃないの。家庭内カーストの最上位がこの僕で、最下位が君とレイガンドーってことなら、この僕がどうにか出来ないわけがない。ついでに、君が先に風呂に入れるようにもしてやる。でないと、この僕の繊細な神経が参っちゃうからね。でも、タダでとは言わせない」

 美月が不意に青ざめたので、羽部は言い直した。

「ああ、そっちの意味じゃない。この僕はね、生身の女の子には毛の先程も興味がないの。だから、別に君を生きたまま取って喰おうだなんて思わないから安心してよ、とりあえずはね」

「でも、私はお金なんてないし、その……他にも何も」

 美月がまた泣きそうになったので、羽部は強めに言い放った。

「佐々木つばめと仲良くしてよ」

「えっ?」

 きょとんとした美月に、まあそうだろうな、と羽部は内心で笑った。自分でも変な要求だと思ったのだから。美月が美作家の中で最低の扱いを受け続けている限り、美月とつばめが仲良くなる機会は得られず、二人が友達になってくれなければ弐天逸流の求める情報も引き出せるわけもなく、その情報を横流し出来なければ羽部もお払い箱になる。美月もつばめも損をせず、羽部は弐天逸流に義理立て出来る。最良の判断だ。

「なんで佐々木さんのこと、知っているんですか?

 お母さんにも話していなかったのに」

「あー……まあ、色々とね。この僕は極めて優秀だから、知らないことなんてないんだ」

 羽部があらぬ方向を見上げていい加減な返事をすると、美月は徐々に笑顔になった。

「じゃ、羽部さんは佐々木さんのアドレスも知っているんですね! 聞きそびれちゃって!」

「うん?」

「じゃ、教えて下さい!」

 目を輝かせて迫ってきた美月に、羽部は及び腰になった。知っているようで知っていないようで、記憶のどこかに入っているような気もするが、そもそも目にしていたのかどうかすら怪しい。羽部がフジワラ製薬で目にした佐々木つばめの個人情報は遺伝子の塩基配列や心拍数や過去の通院歴といったものばかりで、船島集落での住所までは目を通していなかったような。かといって、インターネットで調べたところで吉岡グループと政府が手を回して隠蔽しているだろう。しかし、答えられなければ事態は困窮する。そこで、羽部は設楽道子の脳内に収まっているアマラを経由して、佐々木家に関する情報を得ようとした。

 すると、羽部の脳内に現れたのは、設楽道子の記憶している関係者のアドレス帳でもなければ吉岡りんねの住む別荘の映像でもなかった。佐々木家の映像だった。だが、羽部は船島集落の分校に行っただけであり、佐々木家には一歩も踏み入れていない。ならば、これは一体何なのか。合掌造りの民家、火の気のない囲炉裏、ハンガーに掛かった制服、元の機体を取り戻して稼働しているコジロウ、備前美野里、そして鏡に写った見知らぬ少女。ショートカットで両サイドの髪を銀のヘアピンで留めている、地味な顔立ちの。

「……桑原、れんげ?」

 とは、誰のことだ。羽部は口から出てきた名前に困惑すると、美月ははっとした。

「そうだ、れんげちゃん! れんげちゃんから教えてもらっていたんだった! なんで忘れていたんだろう!」

「ねえ、それって」

「ありがとう、羽部さん。おかげで思い出した!」

 そう言って、美月は身を翻した。羽部が引き留めるよりも早く、羽部の部屋から出ていった美月は、足音を立てて階段を駆け下りていった。案の定母親から叱責されたらしく、階下から金切り声が聞こえてきたが、美月は怯むことなく駆け戻ってきた。再び羽部の部屋に入ってきた美月の手には、携帯電話があった。

「ねえ、桑原れんげって、誰?」

 突如として思考に割り込んできた名前と少女の顔に戸惑い、羽部が問うと、美月はにんまりした。

「決まっているじゃないですか、れんげちゃんは私とつばめちゃんの一番の友達なんです!」

 そんな人間がいるとすれば、とっくの昔に気付いているはずだ。だが、今の今まで、桑原れんげという名前は羽部の記憶になかった。桑原れんげという名を持つ人間の顔も知らなかった。それなのに美月は、桑原れんげはつばめと自分の一番の友達だという。降って湧いたような話だ。怪しくないわけがない。

 しかし、美月はれんげの存在を疑うどころか、嬉々として電話を掛けている。最初に電話に出たのはれんげという正体不明の少女らしく、美月はしきりにその名を呼んでいた。愚にも付かない話題をやり取りした後、電話の相手がつばめに代わった。美月はやっと電話出来たと言い、感涙しそうなほど喜んでいた。電話口から聞こえてくるつばめの声もまた嬉しそうで、年相応にはしゃいでいる。それから二人は、今週末に待ち合わせて出かける約束をした。

「羽部さん、えと、これでいいんですよね?」

 興奮冷めやらぬ様子の美月は、先程とは別人のように覇気があり、目にも力が戻っていた。つばめと電話出来ただけなのに、こうも様変わりするとは、随分抑圧されていたのだろう。

「ああ、うん。じゃ、適当に話を付けてきてやるから」

 羽部が言うと、美月は礼を述べながら深々と頭を下げてきた。そこまでありがたがられることはしていないのに、と若干複雑な思いを抱きつつ、羽部は一階に下りた。仏間からは母親と家人達が読み上げる経文が聞こえていた。声色は真剣そのもので、彼らは心の底から弐天逸流を信じているのが伝わってくる。仏間の周囲には異様な空間が出来上がっていて、近付くだけで寒気がしてきたが、約束は守らなければならない。利益を得た分だけ労働するのは世の常だからだ。羽部がぞんざいにふすまを開くと、経文が止まった。

 美月の母親、直美は敵意すら込めて羽部を注視してきた。仏壇で灯っているロウソクの光を受けているからか、見開かれた目は奇妙にぎらついていた。羽部は少々臆しながらも、付け焼き刃の弐天逸流の用語を使って美月の行動は神託によるものだと、美月とレイガンドーを引き離すとよくないことが起きると言われたから羽部がこの家に派遣されたのだ、と言うと、直子は拍子抜けするほど呆気なく了承してくれた。

 二階の部屋に戻って美月にその旨を報告すると、美月はすぐさま駆け出してガレージに飛び込んだ。レイガンドーも再起動させたらしく、ガレージからは成人男性の機械合成音声と少女の弾んだやり取りが聞こえてきた。それを耳にしていたが、羽部はまたも釈然としない思いに駆られた。

「この僕がいいことしちゃってどうすんの、ええ?」

 それもこれも、弐天逸流の書いた筋書き通りなのだろうか。だとすれば、余計に面白くない。フジワラ製薬の馬鹿な計画は羽部自身も気に入っていたから最後まで付き合ってやったが、弐天逸流に対しては義理はあれども情はない。ギブアンドテイクの分を越えた役割をさせられそうになったら、その時はさっさと裏切って別の会社に鞍替えしてやろう。そうでもしなければ生き残れないからだ。

 それから小一時間後、レイガンドーと話し込んでいた美月は、名残惜しげではあったが母屋に戻ってきた。風呂に入って体中の汚れと心中の淀みを洗い流した美月は、羽部に何度も礼を述べてから、自室に戻っていった。美月の残り香である甘ったるいシャンプーの匂いに、羽部は腹の底がむず痒くなってきた。機械油の匂いさえなくなれば、美月も充分捕食対象になる。日焼けした首筋に噛み付いて神経毒をほんの一滴流し込んで血液を凝固させ、チアノーゼを起こして青紫になった唇を甘く噛み、筋肉の収縮によって迫り上がってきた嘔吐物を吸い取って吐き出してやり、その代わりにたっぷりと水を流し込んで洗い流してやる。腸の内容物が一通り出たら、そちらからも水を流し込んで洗ってやる。内臓を出来る限り綺麗にしておかないと、腐敗が早くなるからだ。室温を極力下げて、防臭剤と防腐剤を用意し、ビニールシートを敷いた布団の上に横たわらせる。死斑が出ないように時々体を動かしてやり、死後硬直が起きる前に関節を曲げて好きなポーズを取らせておく。瞼を開かせておく。そして、貪る。

 人間の美しさは、死した直後にこそ頂点に達する。孤独の恐怖に負けてフジワラ製薬を裏切らなければ、今も尚、死した女性に欲望を注げていただろう。だが、羽部は、社長秘書であり実質的に会社経営を掌握している三木志摩子を人間的に好きになれないし、あちらも羽部を蛇蠍の如く嫌っている。事実ヘビなのだが。だから、三木志摩子に始末されるよりも、怪しい新興宗教に恩を売って生き延びた方がマシだ。けれど、己の性癖を満たせないのはやるせない。冷たく弾力のない死体の手触りを思い起こし、羽部は嘆息した。

 とりあえず、風呂に入ってこよう。



 線香の匂い。金色の仏具。黒漆の仏壇。

 板張りの天井が、朧気ながら見えてくる。触角に触れる畳からは埃っぽい匂いが立ち上り、鈍った感覚を少しずつ刺激してくる。自分は死んだのだろうか。だとすれば、こんなにも嬉しいことはない。自分が死ねば捕食される人間は激減するし、無意味な死を迎える人間もいなくなるからだ。他人の葬式を見かけるたびに、いつも羨ましいと心の隅で思っていた。桐の棺に入れられて火葬されてしまえば、いかにアソウギに満たされた化け物であろうとも、一握の灰になれるからだ。そうすれば、伊織は生まれ変われるかもしれない。何の変哲もない人間に。

「起きたか?」

 足音が近付き、伊織の頭上に影が掛かった。反射的に飛び起きた伊織が身構えると、そこにはだらしなく法衣を着た禿頭でサングラスを掛けた男、寺坂善太郎がいた。伊織はぎちぎちとあぎとを軋ませながら、爪を広げる。

「てめぇ、なんで俺の傍にいやがる」

「なんで、ってそりゃ、俺の方が聞きてぇよ。奥只見から船島集落までは結構な距離があるってのに、わっざわざここに帰ってきやがったのはお前の方だろうが、いおりん。あれか、帰巣本能みたいなやつか?」

「り、りん?」

 なんだ、その渾名は。伊織が面食らうと、寺坂は包帯で戒めている右手を振ってみせる。

「感謝しろよ、いおりん。デロンデロンでスライムなんだか粘菌なんだか解らねぇ状態のお前に、俺の右腕の触手を一本喰わせてやったんだからな。もっとも、アソウギの機能は大分落ちていたみたいだから、怪人体に戻るだけが精一杯だったようだが、固体化しただけでも充分すぎるだろ」

「てめぇの触手ぅ!?」

 知らぬ間にそんなものを喰っていたなんて。伊織が声を裏返すと、寺坂は包帯を少し緩めて触手を数本出す。

「そうだよ。俺だってお前みたいな半端なクソガキに貴重な触手を喰わせるのは嫌だけどさ、お前には利用価値がまるでないわけじゃないから、仕方なーく喰わせてやったんだ」

「いらねぇよ、そんなもん。つか、余計な御世話だし」

 伊織は毒突くが、寺坂は動じることもなく包帯を締め直した。

「だが、俺は人喰い怪人をタダで居候させてやるほど優しくはねぇからな。そこんとこ、弁えておけよ」

「いらねぇし。つか、てめぇと一緒に住むなんてクソすぎだし」

「そりゃ俺もだよ。でも、放り出すわけにはいかねぇだろ。クマ以上の害獣をよ」

 そこにいろ、なんか持ってきてやるよ、と言い残して寺坂はいずこへと去った。この隙に逃げ出してしまおうか、と伊織は辺りを見回し、背後にあった障子戸を開けた。庭に面した板張りの廊下があったが、壁際にはずらりと壷が並んでいた。寺坂の手製と思しき不格好な棚が壁沿いに作られていて、白磁の壷が大量に置いてある。一つ一つに人名と日付が書かれた札が貼り付けてある。ということは、つまり。

「あ、それ、骨壺だよ」

 不意に話し掛けられ、伊織はぎくりとしながら振り返った。寺坂はスポーツドリンクのペットボトルを二つ持っていて、その片方を伊織に投げ渡してきた。寺坂はその場に胡座を掻くと、世間話をするかのように言った。

「お前らフジワラ製薬が利用した集落の住民を皆殺しにしたんだよ、一乗寺が。弐天逸流に虫を食わされている奴を見つけるためにな。んで、一人見つけたんだが、それ以外はなんでもなかった。普通の人間だった。だから、全員火葬して骨壺に収めてやったっつーわけ。なんだったら喰うか? 全部はダメだけどな」

「殺したのか? あの集落の連中を?」

 伊織が戸惑うと、寺坂は訝ってきた。

「なんだよ、殺人鬼のくせして人殺しにキョドるのか? らしくねぇなー、いおりん」

「喰わねぇんだったら殺すんじゃねぇよ! 無駄なことしてんじゃねーし!」

 伊織は声を荒げながら寺坂に詰め寄るが、寺坂は逃げる様子もなく、真っ向から伊織を見返してきた。

「そう思うのか」

「当たり前だろうが!」

 人を喰わなければ生きられない化け物としての、必要最低限の覚悟だ。伊織は激昂してあぎとを全開にしたが、寺坂は悠長にスポーツドリンクを開けて口を付けた。

「じゃ、お前はまだまともだな。少なくとも、一乗寺よりはクレイジーじゃねぇな」

「まあ……あいつは俺もドン引きしたっつーか、うん」

 笑いながら乱射してくる一乗寺を思い出した伊織は、触角を下げた。まあ座れって、と寺坂にやんわりと促され、伊織は腰を下ろした。空腹と疲労感が相まって、戦意が起きなかったからでもある。爪でキャップを挟んでスポーツドリンクを開けようとするも上手くいかず、苦労していると、見るに見かねたのか寺坂が開けてくれた。礼を言うべきか否かを一瞬迷ったが、柄でもないので、何も言わずに口腔から胃袋に流し込んだ。

「まず最初に説明しておく。ここは俺んち、っつーか寺だな。だから、ちょっと外に行けばそこら中に墓があるし、山を下りてしばらく歩けば船島集落にも辿り着くし、デレ要素皆無のツンツン御嬢様の別荘も遠くない」

 それを聞いた途端、伊織は無意識に触角が上がった。りんねにまた会えなくもないということか。

「だが、だからってほいほい外出するなよ。勢い余ってつばめを襲うんじゃねぇぞ。今のお前は弱り切っているから、今度やられたら、ろくに再生出来ない。そりゃ、ついこの前まではアソウギはいおりんの支配下に置かれていたようなもんだが、今はもうつばめのものなんだ。タイスウの中に入れたやつをあの子がべたべた触ったからな。だから、いおりんも不死身じゃねぇ。身体能力だって落ち着いたはずだ。無理をすれば、確実に死ぬぞ」

 寺坂はペットボトルの底で伊織を指してきたので、伊織は複眼を背ける。

「なんでそんなことを俺に教えやがんだよ、意味解んねぇし」

「アソウギにどれだけ融通が利くか、それを知りたいんだよ」

「は?」

「てなわけだから、いおりんは実験台みたいなもんだな。俺の触手がいかなる影響を及ぼすのかを観察して経過を見守るためにも、コロッと死んでもらっちゃ困るんだよ」

 実験台。聞き慣れた言葉だ。だから、そういう扱いをされることにも慣れているが、軽い嫌悪感を覚えるのも常だ。伊織を拾って生き延びさせてくれた寺坂に謝意を示すべきか、殺人鬼を長らえさせた罪の報いを思い知らせてやるべきか、思い悩むが、それすらも無駄なのだと即座に思い直す。実験台に意志は必要ないからだ。そもそも伊織は人間ではないのだから、悩むことからして無益なのだ。

 この男もやはり、人間なのだろう。甘酸っぱく味覚を刺激してくるスポーツドリンクの味に感じ入りつつも、伊織は内心で諦観した。右腕が人智を離れた物体に成り果てていても、それ以外は至って普通なのだから、感覚も人間のそれと同列に決まっている。これまで伊織を扱ってきた人間達は、皆が皆、伊織を恐れていた。拒んでいた。怯えていた。父親は伊織を愛してくれているようだったが、その根幹が畏怖だと知っている。羽部でさえも、自身が怪人化するまでは伊織を遠巻きにしていた。適度に餌を与えておけば従属してくれる、屍肉喰いだと思われていた。実際、そんなものだった。いいように利用されて使い古され、廃棄されるのだと。どこへ行こうともそんなものだ。

 だからこそ、伊織の価値を認めて買い取ったりんねには、微妙な感情を抱いている。りんねは伊織を単なる怪人ではなく、一個人として扱っている節がある。それがたまらなく嬉しかった。重要な仕事を任された時も、自分の能力を認められたのだと思えた。だが、りんねは人間だ。人喰いである伊織が好意を持つべき相手ではないし、りんねも伊織を部下の一人であるとしか見ていないだろう。だから、好意を敵意にすり替えて歪曲させていた。その方が、誰にとっても楽だと解っているからだ。だから、寺坂に対してもそうするべきだ。その方が楽だからだ。

「……ん?」

 伊織は何の気なしにスポーツドリンクのラベルを眺めて、気付いた。フジワラ製薬の製品ではあるが、今まで見たこともないデザインと柄のラベルが貼り付けてあった。新製品であるらしく、味が今までになくよく解る。つまり、D型アミノ酸を多く配合してあるのだろう。父親の仕業なのか。

「いおりん、一つ良いことを教えてやろう」

 早々にスポーツドリンクを飲み終わった寺坂は、空になったペットボトルを振った。

「L型アミノ酸をD型アミノ酸にするラミセ化っつー現象は、いおりんが人間を捕食した時に体内で発生するもんでもあるが、普通の肉を200℃から250℃の間で過熱しても出来なくもない。だから、それ、作ってやるよ。で、喰えるものかどうかを教えてくれ。味の善し悪しもな」

「あ?」

「だーから、実験台だよ、実験台。俺の料理を食え」

「何だよそれ、意味不明すぎだろ」

「意味は解るだろうが。俺の料理を食え、それが実験だよ」

「つか、坊主が肉なんか喰うなよ。罰当たりすぎだし」

「意外と賢いな、いおりんは。だが、生憎、俺は見ての通りの破戒僧なんでね」

 寺坂はにっと笑うと、台所に向かうために仏間を後にした。その場に取り残された伊織は、血糖値を上げてくれるスポーツドリンクを少しずつ飲みながら、拍子抜けしていた。自身の触手を喰わせた上で実験台にするのだから、余程えげつないことをされるものだと腹を括っていたのだが、まさか生臭坊主の手料理を食わされるのが実験だとは思ってもみなかった。たったそれだけのために、生き延びさせたというのだろうか。

 死を免れた寂しさと、りんねに再会出来るかもしれないという淡い期待が、外骨格に包まれた胸中にじわりとした熱をもたらす。父親と羽部鏡一は死んだとは思いがたいが、また会いたいとは思えなかった。二人に会えば、伊織はまた下らないごっこ遊びの延長である戦いに身を投じることになるだろう。たとえフジワラ製薬の後ろ盾を失ったとしても、あの父親が悪に対する情熱を失うとは考えられないし、羽部も拗くれた性癖を満たす機会を欲しているだろうから、伊織を口実に殺人を繰り返すだろう。しかし、どちらも受け入れがたい。伊織の理念に反するからだ。

 寺坂の元を逃げ出すのは容易だ。戦闘能力ならば、伊織は弱体化しても尚、寺坂を凌駕している。りんねの元に戻れば、両手を挙げて喜んでくれはしないだろうが、利用価値を見出してくれるだろう。

 だが、それでいいのかと腹の底がざわついた。このまま誰かの道具として消耗されるべきなのかと、奇妙に冷静な自分が問い掛けてくる。それまでの自分はそうだった。抜き身の刃として振る舞うべきなのだと盲信してすらいた。けれど、今はどうだろう。誰の手中からも滑り落ち、刃こぼれしている。拾い上げた寺坂は伊織を刃として使うことはせず、同居人のように扱おうとしてくる。それが疎ましく、腹立たしい反面、どうしようもなく安堵した。

「ウゼェ」

 安易に気を許すなと自分に言い聞かせる。だが、それもいつまで持つだろうか。

「ん」

 ぱらぱらと瓦屋根が叩かれる音が聞こえてきた。雨が降ってきたのだろうか。伊織は障子戸を開けて骨壺の並ぶ廊下に出ると、窓を閉ざしているカーテンを爪で抓み、引いてみた。外は既に真っ暗になっていたが、窓から漏れる明かりが岩や木々を薄く照らし出したので、庭があるのだと解った。手入れの悪い庭先では雑草が雨粒に叩かれて揺れ、干涸らびかけた池にいくつもの波紋が生まれては消えていく。細い銀色の糸が暗澹とした空から滴り、梅雨の訪れを感じさせた。湿気を含んだのか、外骨格に生えている短い毛に重みが加わったような感覚がある。

「ウッゼェ」

 伊織はカーテンを閉ざすと、身を翻した。昆虫と似た構造の体を持つ伊織にとっては、雨は厄介だからだ。空気が乾いている場所を探そうと歩き出したが、背を向けた際に足先が骨壺の一つに引っ掛かった。白磁の壷がごろりと転げてもう一方の足先に引っ掛かり、転びそうになったので、伊織は思わず飛び跳ねた。

「んだよ!」

 煩わしいことこの上ない。伊織はその骨壺を乱暴に掴み、握り潰さんばかりに力を込めた。だが、骨壺に貼られている名札を見た途端、伊織の爪から力が抜けて骨壺が滑り落ちた。一度バウンドした骨壺は円を描きながら仏間に入り、シワの寄った名札は蛍光灯に照らされた。

「……どういうことだ?」

 握り潰すつもりでいたのに、なぜ。伊織は訝りながら爪を動かすが、力は戻っていた。試しに軽く振るってみると、簡単に障子戸を切り裂けた。畳の上に木片と紙片を散らしながら、伊織は今一度骨壺を見下ろす。腰を捻って勢いを付けて振りかぶるも、爪が骨壺にめり込む寸前で制止した。まるで、他人が伊織の意志を阻んだかのように。

「何をドタバタやってんだよ、ってうおい!」

 台所から戻った寺坂は、切り裂かれた障子戸を見て仰け反った。

「なー、クソ坊主」

 伊織は骨壺を差して寺坂に問おうとするが、寺坂は額を押さえた。

「一乗寺の馬鹿もそこまでやらかさなかったがなぁ。ああもう、どうしてくれんだよ」

「んなもんどうでもいいし。つか、これ、何?」

「どうでもよくねぇっての! 修学旅行で旅館を滅茶苦茶にする中高生みたいなこと言ってんじゃねぇぞ、いおりん! 壊したものはきっちり弁償しろ、俺のピックアップトラックの塗装も凹みもな! 色々あって金が足りなかったから、直すに直せなかったんだよ! 良い機会だから弁償しやがれ、居候!」

「誰も居候するなんて言ってねーし」

「その割には、障子戸を台無しにするぐらい寛いでくれてるみたいだけど?」

「んなわけねーし。つか、質問に答えろ、クソ坊主」

「その前に俺に弁償すると言え、約束しろ、誓約書を書け」

「はあ?」

「それが筋ってもんだろ」

 噛み合っているようで噛み合っていない。伊織は寺坂の妙に強気な態度に辟易し、承諾した。

「解ったよ。つか、金払えばいいんだろ。俺の口座が凍結されてなきゃ、引き出せるはずだし」

「それで足りなかったら働いて返せよな」

「あー、おう」

「よおし言質は取った、後で誓約書を書かせちゃるからな! 覚悟しておけ!」

 寺坂は意味もなく胸を張るが、法衣にエプロンという奇天烈な服装なので格好は付いていなかった。この男と直に接するのはこれが初めてではあるが、伊織は早々に後悔した。こんなことなら、寺坂が席を空けている間にとっとと逃げ出すべきだった。寺坂に付き合わされるぐらいなら、雨に降られた方がマシだ。

「で」

「で、ってんだよ」

「俺に何を聞きたいんだ、いおりんは」

「だーから、これだよ。ぶっ壊せねーんだけど。訳解んねーし」

 無駄なやり取りを繰り返してから、伊織はなぜか破壊出来ない骨壺を指した。寺坂は骨壺を拾うと、サングラスを上げて目を凝らした。名札を確認し、骨壺を眺め回してから、寺坂は神妙な顔をした。

「桑原れんげのだよ。だったら、壊せるはずがねぇよ」

「は? つか、誰だよ?」

「誰って、そりゃ」

 寺坂は骨壺を抱えて立ち上がり、窓際の棚に戻しに行った。

「桑原れんげだよ」

 おっと焦げる、と寺坂は慌てて廊下を駆けていった。骨壺の主の名を言われただけで意味が解るとでも言いたいのだろうか。んなわけねーじゃん、と伊織は反論したくなり、桑原れんげの名と命日が書き込まれている名札を爪で挟んだ。それを千切ろうとした瞬間、複眼の端に人影が過ぎる。本能的に振り返り、伊織はそれと対峙した。薄暗く細長い廊下の奥、仏間を囲む廊下の角に、佇んでいた。

 桑原れんげ。教えられるまでもなく、名乗られるまでもなく、伊織は理解した。否、させられた。佐々木つばめと同じ分校の制服を着た少女は黒髪をショートカットにしていて、両サイドの髪を銀のヘアピンで留めている。顔の部品はどれもこぢんまりとしていて、丸顔であることも相まって地味極まりない。それが桑原れんげなのだ。伊織は痺れを伴った頭痛を感じてよろめくと、桑原れんげは目を上げた。

 一際、雨音が強まった。

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