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26日 ?時?分

 

 吸い寄せられるようにそこにきていた。

 村はずれにある小さな神社。

 3月になると村の小学生たちを集めて、太鼓の練習をする。

 もちろん俺も幼い頃その中にいた。

 4月の半ばに祭りがあって、村を太鼓を叩いて回るのだが、これは平日休日関係なしにあるのである。

 小学生の俺は、学校を堂々と休んで帰ることができる祭りが気に入っていた。

 他の村の子供達は勉強する中、やや小走りで帰って、豪華な昼ご飯を頂いてから村を太鼓ついでに歩くだけ。

 実にいい1日だった。

 休日にあるときは損した気分で、そのときは休みが1日潰されて嫌な気分だったが。


「いってみるか」


 大きな鳥居をくぐって中に入る。

 チカチカと点灯する明かりを見上げて、奥に進んでいく。

 木に囲まれたその場所は、外の世界と完全に断ち切られているようだった。

 虫の声が遠い。

 風が走ると葉が揺れる。

 擦れる音が夏を思い浮かばせた。


「ぐぅ」


「……」


 目を瞑っていると、どこかから声が聞こえた。

 声というよりは、イビキのようであるが。

 音を頼りに近寄ってみると


「ぐぅ」


 腹を出したまま眠っている。

 広げられたブルーシートには、隅っこに積まれた石、真ん中に鞄を枕にした女子高生が転がっていた。

 少し汚れが目立つ制服には、所々解れがみえているが、この時間にこんなところで呑気に昼寝とは――もうこの時間ではそうも言いがたいが、腹を出したままというのはいかがなものか。


「お前――い、いや待て。こんな時間に声でもかけてみろ」


 電車での痴漢騒ぎは何度も見たことがあったが、自分がもしそうなってしまったらと考えると恐ろしい。

 あれはどうやっても逃げられないものだ。


「とは言っても」


 このまま放置するのもどうかと思った。

 屋根の下とはいえ、今日は夜に雨が降るという話だったことを思うと、このままにはしておけない。


「そうか」


 ブルーシートの隅の石を二つどかし、半分に折る。

 彼女を雨風から守るにはこれが一番だ。

 ブルーシートサンドイッチになった彼女がまた風にさらされないように、石をまた上に置いてほっと息を吐く。

 これなら、たまたまブルーシートが風にあおられてこうなったと思うだろう。


「石は自分で歩いてこうなった、と。無理ないかそれ」


 まあ今時の女子高生なら、なにだって異次元的な答えを導いてくれそうである。


 帰り道、鳥居のそばに自転車を見つけた。

 ピンク色のママチャリだ。

 錆の入った年季もののような自転車は、夏風に晒されてカチカチと音を立てている。


「あの子のものか」


 このあたりの学校の制服が変わっていなければ、あの女子高生はこのあたりの学生ではないことになる。

 見たことのない制服だった。

 少し気になりながらも、俺は家に帰る。

 時計を見てみるといつの間にか23時を回っていて、放ったままの母を思い出し駆け足になる。

 念のため明日も見に来ることにしよう。

 もういなくなっていればそれまでの話だ。


 家に着いた俺は、なぜか号泣している母親を抱えて布団に転がし、シャワーを浴びて居間に転がる。

 布団をどこにしまったのか聞いていなかったのが悪かったか。

 探せばあるのだろうが、今日はもう面倒だった。

 座布団を半分で折り枕にすると、そのまま眠った。

 明日はきっとゆっくり起きることができるだろう。

 朝からインターホンを押すようなあいつはいないわけで。


『おやすみなさい』


「……」


 何か返そうかとしばらく画面を眺めて、ぱたんと携帯を閉じた。

 既読が云々という話を聞いたことがあるが、メールなら関係のない話である。


「……」


 何回か寝返りを打って、やはりなんだか気持ちが悪い。


『了解』


 少し気が軽くなって、いつものようにすっと眠りに落ちる。

 遠くに聞こえるカエルの鳴き声が、なんだか懐かしかった。


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