26日 17時12分
結局はやく起きてしまい、もうパンの用意はできていた。
4時間も昼寝ができるはずもなく、2時間ほどで目が覚めたのである。
それでも十分寝た方だとは思うが。
パンを作るたびに思い出すのは、初めて作った時のことだ。
まだ小学生だったと思うが、母の隣で必死になって作ったのである。
レシピといえばその時のものをそのままのものばかりで、少しばかりアレンジを加えるというか、何かを挟む程度のもの。
「これだけじゃ物足りないよな」
並んだパンを眺めて、外に出る。
まだ畑をやっているかはわからないが、とりあえず足を運んでみた。
少し日が傾き始めたおかげが、少しばかり涼しくなったようにも思うが、まだまだ外に出るのが嫌になる暑さとなっている。
畑に着いてみれば、昔から変わらずの小石が転がった小規模なもの。
植えた人間が誰かすぐにわかる雑な緑の並びに、ため息をつきつつ――緑の中一際目立つ赤いものに近づく。
トマトかと思いきや、撮り損ねたピーマンのようだ。
まだ緑のものを数個回収して、隣にあった茄子もついでに。
監視の目がないおかげか、ここの野菜たちは個性が強い。
好き勝手曲がって、好きなように成長している。
昔からよく食べた組み合わせだ。
雑に切って、焼くだけでも十分である。
しばらくついでだからと草を抜いて時間を潰していると――。
「――」
「ん?」
何かが走る音がした。
高校生の自転車がよく通る道の側だが、見渡しても人影はない。
滴る汗に気がついて、家に戻ることにした。
水分もとらないから、幻聴も聞こえてしまうのかもしれない。
立ち上がって転がったピーマンを拾い上げ、畑を出る。
母が帰ってくるのは7時ごろ。
また昼寝をするわけにもいかないし。
ポケットに入れたままの携帯が震えている。
取り上げようとしてピーマンを落とし、地面が好きなようなのでそのまま放置する。
「なんだよ」
「どうですか? 久しぶりの家は」
案の定立川である。
「お前ヒマなのか?」
「心配してるんですよ。こっちは相変わらず暑いですけど、そっちはどうですか?」
「暑いよ。まあそっちと違って服脱いで歩いてても通報されない分、こっちのほうが楽なのかもな」
「裸ですか!?」
それはどこにいたって通報されるに決まってるだろ。
「いまは何してるんですか?」
「散歩」
「ポケモンですか?」
「俺のガラケーにポケモンは出てこない」
そうでしたねと馬鹿にするような言葉を吐く。
気にならないわけではない。
確かに昔は眠たくても目をこすりながら小さな画面を睨みつけていたわけだが。
ガラケーからスマートホンに乗り換えるというか、このパカパカを今更になって裏切るのは気が引けた。
「じゃあな」
「あ、ちょっ――」
乱暴に切って、また掛け直してこないということは大した用はないのだろう。
時計を見てみればいつの間にか6時を超えてしまっていた。
急いで戻って晩飯準備の続きだ。