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忘れ物

 

 懐かしさに涙を流す。

 神社の真ん中に置かれたピンクの自転車は、紛れもなく私のものだった。

 そんなこと、あるはずがない。

 何十年も前に無くなったものだ。

 この村で探し続けて、どうして今になって出てくるのだろう。


「卑怯よ」


 一年に一度しかここにはやってこない。

 実は毎年、彼も時期がずれていただけでここにきていたのなら、どうしてあの木に気がつかないのだろう。

 どうして私は、夏休みの間だけでも毎日ここに来なかったのだろう。

 籠に乗せられた袋に気がつく。

 パンが入っていた。

 すぐに、彼のパンだと気がつく。

 ひとつ咥えて、自転車に跨った。


「――」


 自転車は小さい。

 足もべたっと地面についてしまい、このまま漕げばなかなか滑稽な姿を披露できるだろう。

 蝉の声は一時期に比べれば落ち着いたもので、トンボが群れをなして飛んでいた。

 もう秋がやってくる――そんなことを考えてベルを鳴らす。


「恵子さん、どうしたんですかこんなところで」


「たまにはいいなって思ってたんよ。この神社、まるでだれもこないみたいや」


 三宅彩は自転車にまたがる私を見て腹を抱えて笑う。


「なに、彩ちゃん。似合わん?」


「いえ、おもしろいなって思って。そっか――」


「なんか馬鹿にされてるみたいやね」


 そんなことはないと笑いながら首を振る彼女を見つつ、またパンを咥える。

 チリンとベルを鳴らすと、また大きな声をあげて彩は笑った。

 自転車は持って帰らないことにした。

 いつか本当に鉢合わせになるまで、待つことにしよう。


「帰りましょ」


 いつになるかはわからない。

 ただその日は、すぐにやってくるような気がした。  


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