忘れ物
少女を見送って、ブルーシートの上に寝転がる。
少し暗くなってしまったから、送ろうかとも思ったが、彼女は一人で帰れると言って聞かなかった。
少女と遊びつつ、彼が帰って来ないかと待っていたが、結局彼は来なかった。
怒ってしまったのか――だとしたら謝っておきたいし、このまま別れるなんていうことだけは避けたかった。
「君――」
そのまま空を見上げて待っていれば、彼は来てくれる気がした。
声に反応して立ち上がってみれば、そこにいたのは知らない人。
この人は敵だと、すぐにわかった。
飛び出していこうにも自転車はないし、走ったところで男の人には勝てない。
もうこの場で、私の旅は終わるのだと悟った。
「う――」
チカチカと当てられる光が眩しかった。
急に涙がこぼれた。
まだ彼に会っていない。
まだ私の旅は終われない。
終わるのなら、せめて彼にお別れを言ってからでなくては――。
「私は大丈夫だから! だから放っておいて!」
「そうはいかない」
「人を待ってるの。ここで待っていなくちゃいけないの! ここじゃないと、彼には会えないから――」
腕を掴まれて抵抗しようにも、その力はあまりにも強く、逃げ出すことはできなかった。
「離してよ! 私はまだ死にたくない!」
家に連れて行かれた。
どこかに連絡している間も腕は掴まれたまま、心配そうに見上げる少女を睨みつけ、自分の行く先を案じる。
何もない。
『嫌になったらまたここに来いよ』
知らない人に囲まれて、泣き崩れる母に抱きしめられながら、私はその言葉を思い出す。
死の道を進むしかない。
もう私には、その道しかないのだから。
夏も終わりが近づいたら、バナナとお酒となんかいろいろ持って、もう一度あの場所にいこう。
また彼に会ったら、散々文句を言って匂いも嫌いなバナナを塗りたくってやる。
自転車返せって、そしてまた旅に出よう。
今度は無理やり彼を連れて、たった数日でも――。




