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ある日のこと

 

 軽トラックに揺られて――一人暮らしのおばあちゃんに泊めてもらって、大きなトラックに乗せてもらって、高速のサービスエリアで時間を潰して、またトラックに乗せてもらって――少女は旅を続けていた。

 一銭も使わないままに東京まで辿り着いたころには、少女はずいぶん成長していた。

 腰上まであった長い髪は、おばあちゃんに借りたハサミでバッサリ切ってしまい、女性に会った頃とはまるで別人である。


「……」


 ただ問題だったのは、彼女が空腹過ぎてもう動く気力がないことだった。

 東京まで戻ってきたからには、あとは歩いて なんとかなる距離ではあるのだが。

 少女は日の当たらない影で座り込み、トラックの運転手にもらったコーヒーをちびちび飲む。

 紛らわすにも限界があった。


「……」


 と、目の前を通り過ぎようとする少年と目が合う。

 コンビニのお弁当が入っているような袋と、なぜかおにぎりを一つ手に持って歩いていた。


「……」


 昼ごはんをコンビニで買って出てきたのだろう。

 少年は足を止め、じっと、少女の姿を見つめた。

 おにぎりとお弁当を見比べる。


「……」


 男性は泣きそうな顔でお弁当を離れた場所に置くと、おにぎりを持って歩き出す。


「いいの?」


 少年は手を振るかわりかおにぎりを振って、そのままどこかに向かっていった。

 袋にはオムライスが入っていて、コンビニでもらったのではないであろうマイスプーンが入っている。

 また返さなくてはならないものが増えたと、スプーンは鞄にしまって缶コーヒーのプルタブを取った。

 オムライスをそんなもので食べようとするのは彼女くらいだろうが――まだ暖かい卵を口にして、ぼんやりと空を見上げる。


 意味もなく飛び出しただけ。

 なんとなく自分を変えたくなって髪を染めて、それを否定されたのが嫌に心に刺さって、彼女は家を飛び出した。


 ただ電車に乗って、あとは人頼りに帰ってきただけだ。

 彼女自身がしたことは、道で手を振っていたことくらいである。

 知らない風景を見続け、知らない人に出会って、日記には結局手をつけなかったけれど、彼女自身の記憶にはしっかりと残っていた。


 家の前につくころには、彼女は次にやることを決めていた。

 髪を元に戻して、そして成長したらまたあの場所にもどろうと、そんなことを考える。

 オムライスをくれたあの人にもお礼をしなければならない。


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