29日 22時45分
葵がやっと眠ったらしく、彩の家にいくことになった。
「いってくる」
と、一人で行く気満々の立川を引き止め、二人で家をでる。
母は晩御飯の間結局一言も話さず、そのまま眠ってしまった。
立川は必死に話しかけていたようだが、撃沈したらしい。
「立派な家ですね」
「この辺じゃ特にな。東京にこんなのがあったらどんな金持ちだって話だが」
玄関で待っていた彩に手を上げて、中に入る。
おっちゃんは縁側から庭を眺め、俺を手招きしていた。
二人のことも気掛かりだが、おっちゃんのことも放って置けなかったので隣に座る。
彩と立川は居間で話すらしい。
「遅くなって悪かったな、健太。話してたら遅くなってしもた」
「いいよ。こっちこそ、今日は遠慮したらよかったのに」
おっちゃんは大きく息を吐いた。
「ありがとな、健太。彩から聞いた」
彩との話を聞いたと、つまりは、俺と彩の関係も伝わったということなのだろう。
「彩は初めから俺のところに言いにきたんだよ。頑張るってな、葵と。ただ言い辛かったんだろう。俺はもう子供じゃないからな、言われなくたってわかることくらいはある」
「そうか。またわしのはやとちりか」
「今度の大丈夫は信用していいと思うぞ。困ったら、じーじと健太に助けてもらうって言ってたから。一人で耐えることはもう止めたんだ。せいぜい助けてやれよ。妻には逃げられたんだからさ、娘くらいしっかり守ってやれば?」
「うるせぃ」
彩が結婚してから何かが切れたように出て行った彩の母親は、彩とはまだ会うらしいが、おっちゃんとは一切会っていないようである。
「実はな、健太。さっきわし怒ったんじゃ。あの時以来じゃった、あんなに怒ったのは。わしを頼ってくれって、一緒に生きさせてくれって、そんなこと怒るもんじゃないんじゃろうが」
「いいんじゃないか。そういうことがあったって。家族なんだろ」
「それでな、さっきカレンダーを見て彩が言ったんじゃ。覚えとるかって」
「何を?」
ぼんやりと空を見上げていた俺は、おっちゃんの言葉に何か妙な感覚を覚える。
「『前私を怒った日と同じ日だね』って、彩が言ったんじゃ」
「……」
神社にいただれかと、幼い頃の彩は遊んだらしい。
そのせいで帰りが遅くなり、彩はおっちゃんにこっぴどく怒られ、そして、おっちゃんは念のため神社に行った。
そこでだれかを保護して、地元に送り返したという話だったか。
「なあ、おっちゃん。変なこと聞くようだけど、保護した子の名前、『よしこ』じゃないだろうな」
「なんや、事件調べたんか――」
俺はおっちゃんの言葉を聞き終わるまでに走り出していた。
そんなはずはない。
きっとそれは偶然の話である。
闇雲に神社に向かう。
チカチカと今にも消えそうな街灯が、パチリと力をなくす。
霧のような雨が頬を濡らしていた。




