29日 16時15分
「迎えに来てもらえます?」
「は?」
急な電話に驚いて出てみれば、立川はそんなことを言う。
「お前今どこだよ」
「びっくりしました。改札がない駅なんてあるんですね」
「おい、明日って言ってただろ」
笑ってごまかす。
仕方なく傘を握って駅に向かうことにした。
雨は治ったと思えばまた降るというのを繰り返し、夜まで続くようなら、自転車の修理は明日の朝になりそうだが。
「久しぶりですね」
スマートホンを耳に当てたまま、立川は手を振る。
「なにか言うことは?」
「だって、台風がきちゃうし。明日だと来れないかもしれなかったので」
そういうことを言えといっているわけではないが。
母にはまだなにも言っていないのに、急に連れて行ってはなにを言われるかわかったものではない。
「で、なにしに来たんだ」
荷物を預かって歩く。
どうやらこの荷物、泊まりのものだ。
まあここまできて日帰りは難しいのだけれど。
「高木君に会いに来たんです」
「もう数日で帰るのにか? ていうかそもそもここに送り出したのはお前だろうよ」
「ここで会うことに意味があるんです」
意味がわからないが、立川は追い越して、家の前で立ち止まった。
おそらくだがこいつ、住所を知っているからどこにあるのかもわかっていたのだろう。
鞄を持って欲しかっただけなのではないだろうか。
「お母さんはいます?」
「いまは買い物に行ってるよ。買い忘れしたってな」
「そうですか。じゃあ中に入りましょう」
勝手にぐいぐいと入っていくのは流石というところだろうか。
荷物を置いてなにをするのかと思えば
「彩さんのところ行ってきます」
「は? なんで」
「相談にいくんですよ。別にいいですよね?」
「いまいるかは知らんぞ」
「聞いてみてくださいよ」
仕方なく携帯を開いて連絡してみる。
どうやら三人ででかけているらしく、晩御飯を食べてからじゃないと戻ってこないらしい。
どうするのかと、立川にきいてみる。
「特にやることないですからねー」
じゃあ、はやく帰れとは言わないでおく。
「そうだ、パンの作り方教えてくださいよ。なんとなく材料とかは知ってるんですけど、作ったことなくて。作ろうとは思うんですけどね」
「その言い方だとお前、オーブン持ってるのか?」
「それって普通じゃないんですか?」
レンジやトースターはあっても、オーブンはないという話はよく聞くが。
一人暮らしならなおさらである。
「やっぱりお前料理するんだな」
「これでも免許もってますからね」
調理師免許のことだろう。
これで運転免許証だったら張っ倒してやりたい。
「準備するから待ってろ」
「手伝います」
二人で並んで台所に立つ、1日のうちに二回もパンを作るのは初めてだった。
別に嫌だと思わないのは、やはりパンを作るのが好きだということか。
「そういえば立川。お前なんで俺がオムライス好きだって知ってたんだ?」
「そんなの、私以外も知ってる人いると思いますよ」
当たり前だと言わんばかりに立川は笑う。
「3日に一度はオムライス食べてるじゃないですか」
「……」
昼ごはんにこだわりがなかったせいで、知らぬ間にコンビニで選ぶものが偏っていたらしい。
「いつもつーんってしてるのに、オムライス食べてる時はにこにこしてますからね」
「子供かよ」
自分のその姿を見れば吐き出しそうだった。
「ただいまー」
パンを作り始めて少し、母が帰ってくる。
立川は慌てて手を洗い、中に入ってくるのを待っているようである。
「健太ーアイス買ってきた……よ?」
「初めましてお母様。立川沙織といいます」
「……どうも」
パンを作る俺と立川を見比べ、アイスを冷蔵庫にしまうと、ふらふらと歩いていると思えば居間でぱたりと倒れ込む。
座布団を枕にしてそのまま眠り始めた。
どうやら今日の晩御飯はいま作っているパンになりそうである。
「寝ちゃいました?」
「疲れてるんだろ。ほっとけ」
そっと居間を覗き込む立川。
どう反応するのかと思っていれば、想像とはあまりに違い驚いた。
不貞寝とはまた違うのだろうが、なかなかに可笑しな反応だった。




