29日 8時00分
耳元で聞こえる携帯の音に、仕方なく目を開く。
電話をかけてくるようなやつは一人しかいないが。
「おはよう立川」
「おはようございます、高木君」
あくびをごまかしつつ、立川の声を待つ。
なにやら話しにくそうにぼそぼそと言っているが。
「悪かったよ、言いたくないことだってあるだろうに」
「いいんですよ。あんまり思い出したくなかっただけで」
よくないことでもあったのだろう。
詳しく聞くような話ではなかった。
「なあ立川、ちょっと相談に乗って欲しいんだが」
「なんです?」
少し彩のことを話す。
「結婚するんですか!?」
「そう簡単にはいかんだろうが」
「ほ、ほほほ。あぶないあぶない」
「なにが」
「いえいえ、こっちの話ですよ、あはは」
ずいぶん焦っているようだが。
「あ、明日行きます!」
「どこに」
「高木君の実家です」
そういえば31日に行くとか言っていたのを思い出す。
なにをしに来るのか知らないが。
どうせ田舎に興味があるとかそのくらいの話なのだろう。
「まあ、気をつけろよ。近くはないし」
「ええ、待っててくださいね。1日はやくなりますけど」
母から名前を呼ぶ声がしたので、適当に挨拶して電話を切る。
当然のように会話ができるようになったのはいまでも信じられないが。
いまにして思えば、立川とは毎日言葉を交わしていたし、面倒だとは思っていてもそれが嫌ではなかった。
「健太ーはよー」
「いまいく」
騒いでいる母を探して勝手口まで行く。
どうやら靴を履いたまでは良かったが、中に携帯を忘れたらしい。
そのくらいのことすぐに済む話だろうに。
「いってくるね」
「きーつけてな」
手を振ってでていく母を見送って、なにをしようかと台所に立つ。
出しっぱなしだったドライイーストに目が止まった。
自転車の修理が終わったらパンでも作って、よしこのところに持っていくか。
昼飯はそれで決まりである。
「寝るか」
少しばかり二度寝して、10時ごろから修理を始めることにする。




