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28日 ?時?分

 

 母を寝室に置いて神社までやってきていた。

 頼りない魚網と、3匹ほど入れればぎゅうぎゅうになってしまいそうな子供用の虫かご。

 一匹でも取れたのならそれで十分だが。


「遅いんだけど!」


 鳥居の下で踏ん反って待っているよしこは、えらくご立腹のようだった。


「起きてたのか」


「暇だったら見ろなんて言うから、見ちゃったじゃない!」


「あ、あー……」


 招かれざる虫は、やはりやってきていたか。

 先に説明しておいたほうがよかったかと反省しつつ、彼女の横をすり抜けていく。

 よほど恐ろしかったようで、ぴったりと後ろに張り付いたまま離れようとしない。


「カブトムシいたか?」


「知らない」


「じっくり見れないほど怖かったか」


 彼女の持っていたランタンを預かって、トラップを仕掛けた木を覗いてみる。


「うわお……」


 ゲテモノのカーニバルだ。

 このトラップの辛いところはこれである。

 必ずしもカブトムシとクワガタが集まるというわけではなく、人類の敵、黒の害虫も集まってくることがある。

 見るだけでもゾッとするが、とりあえずこの木にカブトムシがいたとしても、手を伸ばすことは嫌だった。


「他のところは?」


「見てない」


「よしこは怖かったんだねー」


「バカにしてる? 言わなかったよしおのせいだからね」


 よしことよしおとはなかなか妙なコンビだった。

 ランタンをかざして、ゆっくりと覗き込んでみる。


「おお」


「いた?」


「いるいる」


 見せてと肩越しに覗き込むよしこは、声にならない悲鳴をあげて頭を叩いた。

 年上に全く遠慮がない。


「よく見ろよ、ほら」


「嘘ついてない?」


 また恐る恐る覗き込み、どうやら誤解は解けたようであった。


「カブトムシじゃない」


「クワガタだな」


 平たいから、あの黒い害虫と見間違えたのだろう。

 ハサミがあること以外は、ほぼほぼ一緒なのだろうし。

 この妙な黒光りは、暗闇の中で余計に嫌に見えてしまう。

 他にはどうやら近寄ってきておらず、その一匹だけのようだった。


「捕まえてみるか?」


「え、う……やってみる」


 魚網を持ってじっと構えた。

 手で捕まえるのはさすがに恐ろしいらしく、ゆっくりゆっくりと近付けている。


「ほっ」


 飛び立つこともなく、網に捕まったことも気づいていないのか、クワガタはビクともしなかった。


「はやく」


 捕まえたは良かったが、動けないのはよしこも同じだった。


「ったく。ほら、貸せ」


 少し網を動かせばぽとりと網に入る。

 あとは虫かごに入れるだけだった。

 ほっと溜息をついて、よしこは虫かごを持ちあげる。


「やった」


 籠越しに小さなクワガタを見つめ、満足そうに笑った。

 と、やはりまだ子供なのかとそんなことを思う。

 彼女に一体何があってこんなところにいるのかまだわからないけれど。


「まだもうひとつあったよね」


 もうひとつのトラップの場所に駆けていく。

 結局捕まえられたのはこのクワガタ一匹と、カブトムシのメス一匹だけだった。

 俺は虫かごに入れたクワガタをそのまま渡し、ツノのないカブトムシを一匹、洗ったまま乾かしていた袋に入れて帰る。


「いいの?」


「お前が捕まえたんだ。それはよしこのものだよ」


 鳥居をくぐれば、時計は深夜3時を指していた。

 随分長い間いたらしい。

 ツノはないが、言われたものは捕まえたわけだし――依頼通りのツノムシではないのかもしれないが、これで我慢してもらおう。


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