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27日 21時00分

 

「どうですか?」


「お前いつもそれしか言わないな」


 9時ちょうどにかかってきた電話は、案の定立川である。


「何かいいことありました?」


「なんで」


「電話すぐに出ましたから、びっくりしたんですけど」


「……」


 たまたますぐ目の前に携帯があったからすぐに出ただけなのだが。

 そうか、メールだって基本返さないし、電話だってなかなか出なかったな。


「天気予報見ました? 台風ついに一周しますよ。なにか忘れ物でもあわてて取りに戻るみたいな綺麗なUターンですよね」


 俺も思ったけど、同意するのは癪だった。


「で、なにか用あるのか立川」


「立川?」


「なんだ? お前の名前じゃないのか?」


「あ、ああいえ、立川です。あはは、立川沙織ですよ。うふふ」


 気持ち悪いな。

 しかしその様子は、用事なんてなかったようである。


「ひとつ聞きたいんだが」


「なんです?」


 神社にいたよしこのことを思い浮かべる。


「家出ってしたことあるか?」


「……」


「立川?」


「したことありますよ」


 いつもの軽い声ではなかった。

 どこか、踏み入れてはならないところをついてしまったような気がする。


「今日は切りますね。おやすみなさい」


「あ、ああ。おやす――切れた」


 間違いなく、地雷を踏んだようだった。

 立川も家出をしたことがあるというのなら、よしこのこともなにかわかるかと思ったのだが、彼女自身の家出がすでにひとつの障害だったようで――それをまずは解決しなければうまく話もできないだろう。


「はあ」


 ここで言ってしまうと、立川には感謝していた。


 腹を出して転がる母の姿は、どうやら俺がいることで安心している様の表れらしく、今日は酒を飲むとべたべたとひっついてきた。

 一人で暮らすことが楽ではないことは、自分もそうだからわかっていたつもりだったけれど、母と俺の立場は違う。

 出て行かれた母と、出て行った俺では、何もかもが違うのだ。

 こうして帰ってきて寝顔を見ていると、帰らなかった自分は正しくなかったのだと痛感させられる。

 自分の何もなかった毎日が、ここにはなにかがあるような気がした。


「うーん」


「ほら、風邪ひくぞ」


 何度目かわからないバスタオルをかけなおし、テレビをつける。

 すぐにでも布団に運んでやるのがいいのだろうが。


「ぐぅ」


 頼りないいびきを聞くと、なんだか落ち着くのだった。


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