27日 ?時?分
神社までやってきた。
祭りの練習は3月で、正月以外にはだれも近づかない場所。
鳥居だけは立派だが、中にあるものはちっぽけだ。
鳥居の側にあったピンクの自転車は無くなっていた。
ブルーシートサンドのままだったらどうしようかと心配にはなっていたのだが、その心配は無用だったらしい。
中に入っていくと、洗濯物が干してあった。
ピンクの自転車のハンドルやサドルに学生服がぶら下がっている。
「――」
鼻歌が聞こえた。
近くにいるのかと見渡してみるが、姿は見えない。
ブルーシートのことを思い出し、昨日の夜の場所に向かった。
建物の陰で見えなかったが、近づいてみるとブルーシートはどうやら広げられたままである。
「あ」
大口を開けた少女は、煮干しを鼻にぶつけて硬直していた。
昨日は暗くてわからなかったが、その髪型はなにか懐かしいさを覚える。
服装は制服ではなく、体操服だった。
下はどうやら履いていないらしく、下着の紐だけが見えてしまっている。
「……昨日雨降ったけど平気だったか?」
そのまま動けなくなるのは嫌だったので、話を切り出す。
彼女は口を開けたままゆっくりと頷いた。
「あ! あなたですか!」
「なにが」
「私を簀巻きにしたの!」
簀巻きにはしていないが近いことはした。
「どこから来たんだ。こんなところで寝て、親は何も言わないのかよ」
「親はいません」
ぽりぽりと煮干しを齧って、顔をそらす。
わかりやすい嘘をつくやつである。
「名前は?」
「……よしこ」
ぼそっと小声で言う。
これもたぶん嘘だが、そんなことはまあいいだろう。
「んで、よしこ。まあ、どこから来たとかそういうのはもういい。どうしてここにきた?」
「……屋根があるし。あまり管理されてない感じがしたから」
確かにここに人は来ないが。
だから彼女もあそこまで驚いていたのだろうし。
「人は来ないにしても、クマとかだって結構出るんだぞ」
「それならそれでいい」
煮干しをリュックに仕舞って、彼女は立ち上がった。
その姿でも恥じらいはないらしい。
「ん? それブルマか?」
「なに、おっさんこれ好きなの?」
「俺はまだおっさんじゃない。お兄さんだ」
意味のわからない返しをしつつ、しかし彼女の服装には驚いた。
そんな体操服を着ている学校はもうないと思っていたが、まだあったのか?
昔はそれが普通だったという話は知っているが、さすがにおかしな話か。
「言わないでよ」
「なにを」
「私がいるって」
本当なら、彼女はすぐにでも家に帰るべきだと思った。
しかし、彼女はいま生きている。
ここで、洗濯もするし、煮干しも食べるし、野宿して生きている。
夏休みの間くらい、こんなことをしていたっていいのではないだろうか。
「なにか困ったことがあったら言えよ。また明日来るから」
「……」
「あとその髪型古くないか?」
「うるさいな! 私は気に入ってるの! 帰るならさっさと帰ってよおっさん!」
だれの髪型だったかは思い出せないが、その髪型は特徴的だ。
そのうち思い出すだろう。
時計をふと見てみると時間は3時。
6時までにはトラップをしかけるとして、いまの明るいうちにどこに仕掛けるか見ておきたいところだが。
「そうか」
神社でしかければ、なんだか罰当たりなような気もするが、彼女の様子も見れるし、一石二鳥だ。
また夕方、ここにやってくることにしよう。




