帰り道
廃墟での写真撮影を終え、みんな、なにかしらぎこちない中、空気を読まない腹の虫を鳴らす奴が一人。
「なー、恭介、バーガー食って帰らないか?」
「お前、空気読めよ」
「無理だろ、腹の虫は空気読まないの! てかみんな辛気臭い! なんだよ、ちょっとちびっこいの出てきて変なこと言われたからって、しんみりならなくてもいいだろ」
「ちみっこいってなんですか!」
「わわ!? 比奈ちゃんのこと言ったんじゃないから!」
小さいという言葉に仲原さんが反応すると、聡は慌てて弁明をする。
部長は額を押さえて、しかし笑い出した。
「っははは、そうだよね、気にしてもわからないものはわからない。さ、バーガーでも食べに行こう、今日はあたしのおごりだ」
「マジですか!?」
「有川はバーガー2つまでね」
「えー、俺マジで死にそうなんですよ? ほら俺、肉体労働してたから」
聡は服をめくって腹を見せ、どれだけへこんだのかを示そうとしていた。
僕はそんな彼の腹部をこぶしでたたく。
「レフ板持ってただけだろ」
「レフ板って重いんだからな!」
「はいはい、僕には持てません。腹、しまえ、みっともない」
「いやん! ほら恭介、写真撮って!」
腹を出しながらピースをする聡。僕はため息をつき、
「……どうなっても知らないからな」
「俺の肉体美が映るだけさ!」
言って聡はポーズをとる。そんな聡に部長が指をさす。
「そのポーズキモイ、有川、失格!」
「失格ってなんですか! なにに対してですか!」
と、そんな馬鹿なことをしているところを僕はカメラに収める。
変なモノは、映りこまなかった。
仲原さんが僕らのやり取りを見て笑いながら小さなジャンクフード屋を指さす。
「あ、あそこに入りませんか?」
夕方という時間帯もあってか、少しだけ賑わっているがなんとか席は確保できる。
大きな機材を置くと、聡と部長が先に買出しに行った。
「ふわー、やっと落ち着きましたねー」
「そうだね」
椅子に腰かけ、伸びをする仲原さん。そんな彼女を見て笑っていると、はっと真剣な顔をして、背筋を伸ばしだす。
「普通にしてていいよ。気を張る必要もないし」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて~。先輩、今日の写真っていつくらいにできるんですか?」
「現像するのは明日だから、一週間後くらいにはできてるんじゃないかな」
「じゃ、じゃあ、あの、一週間後、部室に行ったら見れますか?」
仲原さんは身を乗り出す勢いで聞いてくる。
僕は少し引きながら頷いた。
「うん、部室に来れば」
「絶対、絶対ですよ! 隠しちゃダメですからね!」
「あー」
「約束ですよ。今日撮った写真、見せてくれるって!」
僕は自分の写真があまり好きじゃない。
だから撮った写真を誰にも見せないというのが常なのだが、それを仲原さんは見せてほしいらしい。
今日は人も物も撮った。物はいいとしても人の写真にはやはり、変なモノが映りこんでいるのだろう。
「あまりいい出来じゃないと思うから」
そう言うと仲原さんは急に困り顔をした。
「私、きちんと笑えてませんでしたか? ぎこちなかったですか?」
「え、そうじゃないけど」
「頑張りますから! これからもっと、絶対、いいモデルになりますから! ……私、先輩の写真が見たいです! 今日はちょっとだけですけど、と、撮ってもらったし」
自分の写真が見たいということなのだろうか。
モデルなのだから自分がどう映っているのかチェックするのは当たり前。
仕方ないと僕は肩を落とした。
「わかったよ、変なモノが映りこんでても知らないからね。……ほら、現像したものは見せるから。少し離れようか」
「へ? う、わわ、あの、ごめんなさい、近寄りすぎました」
白熱するあまり仲原さんは僕のジャケットを握りしめるほど近くに迫っていたのだ。
そしてこういう時には決まって、
「みーちまった」
にやにやしている聡。
「みーちゃったわ」
少しわざとらしく視線をそらしている部長。
二人の肩が震えているのは笑いをこらえているからに違いない。
「聡に部長」
「あーも、比奈ちゃんってば積極的ー」
聡が気持ち悪い口調でしゃべったためか、僕の二の腕に鳥肌が立った。
「久住くん、そこは男として抱きしめてみせるべきよ」
「もう、先輩方、違います! そんなんじゃないんですー」
泣きそうな顔で弁明に必死な仲原さん。
バーガーとジュースを人数分乗せたトレーを持った聡と部長が僕らを見ていた。




