竹取物語8
「それで、えーっと・・・」
「何よ」
「あれだ、えっと。うん。オレは瀬戸川真司。見ての通りの高校生」
「・・・柊静音よ」
「柊さんはどうするの?」
「どうするもなにも・・・」
どうにも出来ないわよ、と小さく呟いた。
「あんたはそこそこ強いみたいだけど、ボスは一人増えた程度でどうこうなるものではないわよ。何発か当てたけどどれだけ効いてたのかわからなかったし。取り巻きも多くて全然集中できないもの。私が生き残れたのも結局警察とか自衛官とかが犠牲になってる間に逃げられただけの。・・・運が良かっただけよ」
「元々ボスと戦う時は、ソロの場合は自分のレベルより極端に低い相手のみだったからね。ワンランク低いレベルの敵と戦う時は2~4人パーティだし同レベル帯のボスが相手ならそれこそ8人パーティでも全滅覚悟で挑むのがセオリーだったから」
「勝てないのもしょうがない、とでも言うわけ?ふざけないでよ!目の前で人がどんどん死んでいくのよ!?私がどんな想いで戦っていると思ってるわけ!?あんな・・・あんな・・・」
気が付くと静音の瞳には涙が満ちていた。頬から流れ落ちていた。
「・・・私が死んで、サフィーに復活させられて・・・目を覚ました時にはお父さんとお母さんは・・・死んでたのよ」
その言葉に、真司は唾をのんだ。
「死にたくないって!戻れるなら戻りたいって!お父さんとお母さんにお別れしたくないって!本気でそう思って!戻ったら・・・戻ったら二人とも死んでいたのよ・・・なんで、なんで私だけ生き返っちゃったのよ!サフィーになんか会わなければ!こんなゲーム友達とやってなければ!・・・寂しいし悔しいのに・・・こんな気持ちになんかなりたくないのに」
目の前で女の子に泣かれて、それでも何をどうすればいいのかわからずに真司は困惑の表情を浮かべていた。手を差し伸べようとしたが、伸ばしきることができずに手をおろす。
「携帯が反応するのよ・・・どこ敵が出てくるのかが、クエストの内容が見れるのよ。行かなくてもいいのはわかってる。それでも私には力があって!中途半端に強くって!それでも全然弱くって・・・嫌になる」
ゆっくりとホルスターから銃を抜くと、それを見つめてため息をついた。
銃身に落ちる涙を親指で拭きとって、その親指に上からまた涙が落ちていく。
「誰もいない家も嫌い・・・でも外に出てもやることがないし・・・学校にも行く気になれない。お父さんとお母さんは気が付いたら事故死扱いになってて、何が何だかわからないし。もうどうすればいいのよ・・・」
怒って泣いて、悲しんで。静音は負の感情を撒き散らすと疲れて肩を落とした。
「いい機会だから、ボスと戦ってみるわ。死んだらそれまでよ」
自暴自棄になりながら、決意を口にするとウィンドウに指を伸ばした。
真司はその指を手ごと包んで、静音に問いかけることにした。
「聞いてもいい?」
「・・・何よ」
「杖と盾。あと布系の装備で余っているものないかな?」
「はあ?」
「オレの装備、全部制限受けてて装備出来ないんだよね。制限解除されるのいつになるかわからないし」
「私の話聞いてたわよね?死ににいくようなものなのよ?」
「うん。柊さん死ぬ気なんだよね」
「そうよ!悪い!?」
「悪いよ」
「はあ!?」
涼しい顔の真司の答えに静音の感情はまた激しく上昇しはじめた。
「なんで悪いのよ!私の勝手でしょ!?」
「そうだね。でもオレは悪いと思ったんだ」
真司の頭は冷え切っていた。生き返ってからというもの、妙に視界も思考もクリアになっている。
「ボスがなんであれ、柊さんが戦うっていうのならオレは手を貸すよ。助けてもらったからね」
「・・・別に、助けたわけじゃないもの。敵を倒しただけ」
そっぽ向いて冷たく答える。
「それに、あんた一人でなんとかなったんじゃないの?あんなに殴られてて死なないなんてずるいわよ」
「オレは高司祭なんだよ。・・・正確には違うけど。スキル制限のせいでこの子達にリザレクションがかけられないのが残念でならない」
不意に二人の視線が子供の亡骸に向かう。
「オレが敵の攻撃を受けて、ヒールを自分にかけていれば。仮にボスが火鼠か大仏なら絶対に死なない」
「そんなこと・・・」
「断言できるよ。オレは死なないし、敵を支える。柊さんが自分自身の周りに注意して攻撃されないようにボスから離れていてくれれば勝てる。装備はあればいいけど、正直無くても平気なくらいだ」
「・・・本当に?」
火鼠はまさに、前回静音が苦汁を舐めさせられた相手だ。
「大仏の方が楽だけどね。火鼠でも対して変わらないよ」
「そうなんだ」
言うが早い、アイテムウィンドウから木製の盾を取り出した。
「はい」
「ありがと。杖はなさそう?」
「ええ」
「こん棒は?」
「それなら・・・これ。でもさっき渡した剣の方が強いわよ?」
まだ地面に転がっていた剣に視線を向ける。
「これは装備出来ないんだ、聖職者は刃物が厳禁だからね」
「・・・面倒な設定ね。はいこれ」
実際は聖職者だろうが聖人だろうが人間は両手があればなんでも扱えるものだが、そこはゲームの設定に引っ張られるらしい。二度も剣を取りこぼした時に真司は直感的にそれを把握していた。
「残念だけど防具は盾だけね。私の防具も前回のボス戦で溶けちゃったから」
破壊された防具のオブジェクトをアイテム欄から取り出して、すぐにしまうとため息をつく。
「ポーション足りるかしら」
「これを使って、オレはいらないから。なるべくヒールを撃つけど、まずそうなら自分で判断して飲んじゃって」
先ほどまで静音が使っていたものよりも黄色に近い瓶をアイテム欄から大量に取り出して静音の前に置く。
「もしかして、結構このゲームやってた?」
静音の質問に対して、真司は頭を書きながら恥ずかしそうに答えた。
「寝不足の日々が毎日続いたよ」
静音が少し笑った。
真司が見た最初の彼女の笑顔の瞬間だった。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。