人魚姫16
「ま、待ってください!」
花穂が先行していく真司に声をかける。
真司の足が速すぎて、花穂がついていけないのだ。
「ああ、くそ。掴まれ!」
「ひゃっ」
真司は頭をがりがり掻くと、花穂を抱きかかえて近くの家の屋根に一蹴りで上った。
静音と同様に屋根の上を移動して障害物を避ける算段だ。
ステータスの恩恵で、人ひとり抱える程度であれば今の真司には苦にもならない。
「あのエンブレム、人魚姫ではないですね?」
真司に抱きかかえられたまま、花穂は先に目を向ける。
賢であれば目視で確認できるだろうが、花穂はそれが行えない。
「オレにも良く見えないな、丸い物体に尻尾みたいなのが・・・」
花穂をしっかり抱きかかえると、真司は再び移動を開始。
花穂は顔を上に、真司の方に向けると間近に真司の顔。
お姫様だっこ状態なのに今更気づいて顔を赤くした。
(こ、こんな時に気にすることではないですね!)
真司の胸に顔をうずくめると、花穂の携帯が振動し始める。
「は、はい。こちら四条」
抱き上げられたまま、花穂は器用に携帯を取り出して連絡を受ける。
先行した別働隊からの連絡だ。
「わかりました、敵は伏鬼です」
「伏鬼?」
聞きなれない単語だ。
「はい、牛面に人体を持つ妖怪です」
牛面・・・・牛の顔の人間型・・・!
「それはミノタウロスだ!」
「え?ああ、そうです。西洋風に言うとミノタウロスです」
「くそっ告知がないわけだ!なんで今までこの可能性に気付かなかったんだ」
「はい?」
「あれはゲーセン専用コンテンツだ!クエスト名は『ラビリントス』とにかく敵が強くて多い!厄介なクエストだよ!」
「敵を倒すだけではないんですか?」
「条件はミノス王の討伐!ミノタウロスの親玉を出してそいつを倒すんだ!」
花穂は電話を別の相手に切り替えた。真司からの情報を自分の上司に伝えるつもりだ。
「ええ、はい。かわります」
情報を電話越しに伝えると、代わってくれとのことになる。
真司は両手が埋まっている為、花穂は真司の首元に腕を回し右手で携帯を耳に押し当てた。
『瀬戸川君。話はわかった、すまないが把握している範囲で敵の情報を教えてくれないか』
博美だ。
「ミノタウロスの弱点は水か氷です。動きは鈍重ですが、攻撃力は絶大。ゲームの頃のセオリーでは狭い通路にこもって範囲攻撃と遠距離攻撃で出現してくる敵を倒す形です」
『今回は駅前だ。そんな狭い路地なんて都合のいい戦いは出来ないだろうな』
「柊さんがそっちに先行して向かってしまいました。途中で保護出来ませんか?」
『なんだと?!わたし達もまだ到着していない!君はMAPには入るなよ』
「ここで花穂を落として行きますけど、いいですか?担いで移動中なんです」
腕の中で花穂の体が強張る。
落とさないですよね?とひきつった笑みで真司を見ている。
『・・・・・・ダメなものはダメだ。花穂を置いて早急に立ち去れ!』
「柊さん捕まえたら連絡下さい」
真司は首元を振ると、花穂は携帯を離した。
ずいぶん距離が詰まってきた。エンブレムの形もはっきりとわかる。
「ん・・・」
真司が違和感を覚えた瞬間に、携帯が宙に浮かび真司も装備がセットされる。
人だかりを見つけた、おそらく公安のメンバーだろう。
「テレポ」
花穂を抱きかかえたままそこに着地。
突然現れた男に公安のメンバーが身構える。
「待ってください!」
花穂の言葉と顔をみて公安のメンバーが警戒を解く。
真司はそんなやりとりを無視して装備を変更。
前回の盾と片手杖から両手杖に変更。純白の巨大な翼を生やした杖がその翼を広げる。
「なぜ来た!」
後続の車から博美が下りてきた。
「柊さんが中にいます。合流します」
「ダメだと言っている!」
「出し惜しみしてる場合じゃねえだろ!」
真司は博美の方も見ずにクエストMAPを確認。静音の位置を探す。
パーティ画面も開く、静音のHPが半分を切っていた。
(場所はどこだ・・・)
ウィンドウを操作しながら、焦る気持ちを抑えつつ静音を探す・・・・見つけた。
「せめてわたしも」
「テレポ」
真司は顔を上げて、腕を掴もうとしてくる博美の言葉を無視して近くのビルの屋上に一人で移動。
「・・・・・・神衣・・・・祈り・・・・・・・・・・・息吹」
自身を強化。
さらに先に目を向けて、テレポを発動。
真司は敵が集まりつつある地点から、少し離れた場所に着地。
「!」
静音がいるはずの場所に目を向ける。
まさにいま、静音の体がビルに打ち付けられている瞬間だった。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




