人魚姫12
「ようこそいらっしゃいました真司様、どうぞこちらにいらしてください」
「どうも」
真司は花穂と静音の学校の文化祭に来ていた。
文化祭と言っても、食べ物系の出店の類があるわけではない。
この学校の文化祭というものは、いわゆる発表会のようなものだ。
生徒個々人の授業や部活動などでの美術、芸術などを発表するのが主な目的。ピアノの演奏会や琴などの楽器の発表、絵画や花などを学校内外の人間に見てもらうための場である。
そういった発表会に参加しなかったり、参加自体はするものの時間の余っている人間などがクラスや部活動単位で催し物をするのが静音の学校の文化祭だ。
クラス単位の舞台や喫茶店、簡易の遊技場なんかがその一つだ。
「オレの想像していた文化祭とだいぶ違うんだね」
「そうですね、ずいぶんと華やかな。煌びやかな催し物ばかりです」
真司と花穂は学校の制服で来ていた為、スーツ姿や着物姿の生徒の保護者達が行き交う校内は独特の雰囲気に包まれている。さすがは『お嬢様学校』だ。一般入試も行っている為、そんな人間ばかりではないが、同年代の男性というだけで、しかも着ている制服のせいで真司と花穂はかなりの視線を浴びる羽目になっていた。
真司が花穂を連れてきたのは、日程的にそろそろ次の告知がありそうなタイミングだからではある。
賢でもよかったのだが、賢はやることがあるからと辞退。
興味はあったようだが公務を優先した結果。
花穂も空いている訳ではなかったし、前回のクエスト終わりでの一連の流れもあったため二人とは距離を取りたかったのだが仕方ない。
その後の静音の様子も気になってはいたし、突発的に真司の知恵を借りなければならない場合もあるため同行することにしていた。
「真司様、どうでしょうか?」
早苗はその場で、自分の衣装を真司に見て貰おうとクルリとターンを決める。
昭和の匂いが漂う給仕の姿だ。色は少し可愛らしくアレンジされているが。
「え?ああ、いいんじゃないかな」
周りの空気に少し萎縮していた真司が苦笑いで答える。
「もう、もっと褒めて下さってもいいんですよ?」
「ははは、すいません。慣れてないもので」
真司の薄い反応に不満を漏らしながらも、早苗は少しだけ嬉しそうに前を歩く。
ちなみに花穂はスルーだ。早苗の中で花穂は従者扱いになっていた。
「今日はわたくし、お花を出していますの」
「そうなんですか」
生け花が展示されているスペース、廊下に整然と並んだ作品の中に早苗の名前もある。
一際大きく、人目を集めているのがそれだ。
(全然良さがわかんない)
真司は汗を掻きながら花穂に助けを求める。
「お見事な手前ですね。基本に忠実に、それでいて大胆な配色とそれでいていやらしくないように配慮されていらっしゃっています」
「ありがとうございます。貴女もお花を?」
「ええ、母に聞きかじった程度ですのであまり偉そうなことは言えないですけれども」
助けを求めた花穂は意外と食いつきが良かった。
(これはもう任せよう)
花穂と早苗が二人で会話に花を咲かせているのをしり目に、真司は周りに目を向ける。
他の女子生徒と目線が合うと、逸らされる。
今日何度目かのやりとりも慣れてきた。そりゃあ注目されますよ。あんま男いないですもの。
「ちなみに、こちらは静音様の作品です」
コンパクトに収められた、色素の薄い花を中心に作られた作品だ。
早苗の作品の横に並んでいる為、まったく目立たない。
「こちらは、素晴らしいですね!まるで自然界の景色をそのままお写真に収めたような見事な配置です」
花穂は大絶賛。やはり真司には理解できない。
「ええ、静音様は芸術面で非凡なる才能をお持ちですから。こうして並べられてしまうと恥ずかしくて・・・」
「このような作品の横に並べられてしまうと、そうですね。確かに自信を無くしてしまうかもしれません・・・本当に見事です」
(だからわかんないって)
真司はもう乾いた笑いも出なかった。なんだこれ。枯れてるんじゃない?とか口に出そうになったが、真司の前に展示物を見ていた男性が同じような感想を口にして、その連れの女性に説教をくらっている。
(うん。大人しくしていよう)
真司は作り笑いで鉄壁にガードした表情で、二人の後ろをついて行った。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




