竹取物語5
「これ、使って」
宙のスマフォを操作して無骨な剣を1本地面に落とした。
「・・・ごめんね」
少女は振り向かずに前に走りこんだ。前方の敵はスケルトンが15体。彼の言うように一人でならダメージは受けるがなんとかなる量だ。
銃弾をばらまきながら時に避け、時に攻撃を受けつつも突破を試みる。
「くっそ!このやろ!」
後ろから声が聞こえてくる、この声がいずれ悲鳴に変わるのかと思うと怖くて振り返れない。
振り返るのも悪いと思った。少なくとも自分の安全が確保出来るまでは彼の命を無駄に出来ない。
全部を倒すのではなく、自分の通り道を開けさせるように攻撃を誘導させて回り込む。
道路沿いの民家の垣根が高く道幅も狭い。
「コンセントレーション」
少女はいまだかつてないほどの集中力を見せた。まさに今、自分の命の危機が目の前にある。
だが銃弾は無限にある。回復用のドリンクもまだある。戦いながらダメージをくらっても回復しつつ避けれれば問題はない。
(彼の職業もわからないし、レベルは私より高ければ・・・でも1発で1体倒せないようじゃ)
少女が戦い抜ける理由は、単純に1体1発で仕留められているからだ。
敵が多くても、攻撃を仕掛けてくるものから順番に片付けていけば自分に攻撃はなかなか届かない。銃でなら離れてても倒せるし、よほど離れていない限り即死させられる。
(何よりまだ準備が出来ていない。装備を出す時間もなかったし教えることも出来なかった)
彼がどれだけの力を持っていても、使い方がわからなければ意味がない。それにすでにその彼はスケルトンの群れの中だ。
(群れの・・・中!?)
なんとか敵を突破した少女は慌てて振り向いた。
自身の回復も忘れて、真っ白い集団の中から顔を出す少年に視線を向ける。
彼はまだ生きていた。
(恰好つけたものの・・・あれだな)
スケルトンの攻撃を大きく躱しながらsinは思った。
(これは、無理だろ。普通に考えて)
さっき借りた剣を両手で持ちながら、引けた腰を戻すことも出来ずに震えながら構えようとした。
・・・剣を落としてしまった。
(剣道とかやったことないもんなあ)
振り下ろされる斧を避けながらスケルトンの顔面に拳を叩き込む。1発では倒せないが、2発目を入れようにも次の攻撃が来ている。
「っと」
それを交わして蹴りを叩き込む。
(・・・遅いな)
思ったほど攻撃速度は早くない、むしろ遅いくらいに感じられる。妙な感覚だった。
(喧嘩なんかほとんどしたことないんだけどな)
目の前を斧が通過する。
(死を覚悟して体がギリギリまで反応してくれているだけかもしれない。単純に慣れてきているだけかもしれない。恐怖心からか、大きく避けることができているのが幸いだ)
そう解釈することにした。
それでも敵の数は絶望的な量だ。
2,3発殴れれば倒せる、そうは言ったものの未だにスケルトンは倒せていない。
(さっき殴ったやつどいつだっけ?)
いよいよ反撃に転じようと考えを改める。背後ではまだ銃声が聞こえてくるから さっきの少女は離れきってはいないようだ。
(もうちょっと我慢・・・安全圏まで彼女が離れたら)
その時が反撃の時だ。
気が付くと恐怖心はどこかに消えて、冷静に状況を把握できるようになっていた。
「敵は目の前に3、左右に1と2・・・」
ぶつぶつと呟きながら攻撃を回避!回避!回避!
まるで先ほどとは状況が違う。
自分自身の体の速さに眼鏡がずり落ちてきた。
「邪魔だな」
捨てると、視界がクリアになった。
前面のスケルトンの群れが鮮明に、それぞれの顔がsinの瞳に映りこんでくる。
その瞬間、回避に失敗して胸に剣を受けた。
一瞬動きが止まってしまった。
(まずっ)
前面から左右から剣が、斧が、こん棒がsinの体を打ち付けてきた!
思わず目を閉じてしまう。しゃがみこんでしまう!
sinの学生服が豪快に破け始めた。
・・・それなのに、一向に自分が死ぬ瞬間が訪れない。
そっと目を開くと、スケルトンは自分に何度も武器を打ち付けてきていた。
後ろにも回り込まれている。
攻撃は何度も自分に届いている。
剣が肩に当たり。
斧が頭の上に落ちてきて。
鈍器で頬を殴られ。
短剣か何かで体を刺されそうになったりもしたが、服が破れただけだ。
「なんだこれ?」
あまりにも痛みがなく、血しぶきもあがらず。
まるで危機感がない。ついでに言うと現実感もない。
しっかりと立ち上がると、避けることもせずに先ほど落とした剣を拾い上げて再度振り下ろした。
剣は手からすっぽ抜けてスケルトンの群れの中に落ちて行った。
「うそん・・・」
「何してんのよ!無事なら早くこっちに!」
さっきの少女の悲鳴のような声が聞こえてきた。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。