人魚姫10
「こんなものかしらね」
表情こそ未だに強張ったままの男だが、すでに疲労困憊の様子だ。
「ちくしょうが」
睨みつけている瞳にも力が今一つ乗っていない。
一方の博美は息ひとつ乱れていない。
男のレベルは、武器破壊が付与されていたとはいえ次郎丸を圧倒できるレベルのはずだ。
決して低くはないだろうと真司は見積もっていたが、博美の実力は遥かにその上を行っていた。
『時間超過に伴い、スキル制限と装備制限が一段階緩和されました』
そのアナウンスを聞いた瞬間に男の口元が割れる。
「ボルケーノブラスト!!!!!!!!!!!!」
男を中心に、巨大な炎があがり爆発する。
「くっ」
初めて博美に焦りの声が生まれた。爆炎に巻き込まれる!
「ヒール!」
ダメージが入りきる前に、真司の回復が博美の体をつつむ。
強烈な熱波に歯を食いしばりながらも、体の痛みが消えていく感覚に博美は戸惑いを覚えた。
「テレポ!」
真司は瞬間移動を行い静音の横に、その手を掴んで再度テレポを行い二人の戦闘から少し離れた地点に静音を置く(静音が何か言ってたが無視する)
「テレポ」
今度は男と博美の間に割って入る。
「瀬戸川君。これは・・・」
「クエストの終わりの時間が迫っているんです。少しあの男に時間を取られすぎましたね」
真司は男から視線を外さずに博美の質問に答える。
「神衣」
自身にダメージ減少の魔法と、博美にも同じ魔法をかける。
「息吹」
今度は博美にのみ魔法をかける。
「これは・・・」
「肉体強化の魔法です。ダメージ減少と攻撃力と身体速度の加速魔法をかけました。攻撃完全遮断の魔法はまだ使えませんが、無いよりはマシでしょう」
真司はいいながらも自身の装備を変更。
老菩提樹と戦った時と同じように折りたたまれた頭装備と神々しい法衣。左手に純白の丸い盾を装備し、右手には逆に禍々しい翼を頭に生やした骸骨の杖を装備。
「くはははは、いいじゃねえか。これで本気で戦えるんだぜ!」
男も炎に包まれながらも装備を変えていた。
漆黒色のとげとげしい鎧に、自身よりも巨大で分厚い斧。
ブーツも様変わりしていた。
「瀬戸川君、下がりなさい。あれは尋常じゃない」
「わかっています。ですがあの鎧は近接攻撃を一定確率で反射させる装備です。九十九さんでは相性が悪い」
「そういう問題ではない!下がりなさい!」
「ごちゃごちゃしゃべってんなよなあ?『フレアボトム!!!!!』」
男の前面の地面がせり上がり爆炎が放射状に広がっていく。
「テレポ!」
真司は博美の腕を掴んで、静音の横に飛ぶ。
呆然と見ていた静音の横に博美と一緒に瞬間移動。
更に静音の腕も掴んで飛ぶと、一気に距離を稼いだ
「こわっ」
真司は一言いうと、遠くからこっちに走りこんでくる男を見る。
「戦いますか?逃げますか?」
真司は男を睨みながら博美に問いかける。
「わたしは戦う。君たちは退避を」
その言葉に真司はため息をついた。
「ごめん、柊さん『リターン』」
掴んだままの静音に謝りながら、静音だけを逃がす。MAPに最初に入った地点に飛ばす『旅人』のスキルだ。そこになら、他の公安のメンバーも待機しているし、安全だろう。
「君も戻りなさい!」
「あいつには回復アイテムがまだあると思います。このままではジリ貧になりますよ」
「ぬああああああああああああああ!バンブークラッシュ!!!!!!!!!!!」
男が飛び上がって、真司達に目がけて巨大な斧を振り下ろす!
反射的に博美はその場から離脱。真司は、回避が間に合っていない!
盾を頭の上にあげて、防御態勢をとる。
「無理だ!」
ギイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!
真司の体が地面に押し込まれ大きなクレーターを作る、そのクレーターも瞬間的に隆起し地面から鋭い杭が真司の体に襲いかかった。
真司は武器に魔力を集中させる。真司の体の周りに頭から骨羽を生やした頭骸骨が1匹生まれた。
鋭い杭は、真司の体の法衣に防がれていた。その杭の先は悉く崩れ去っていく。
「ホーリーレイ」
真司の杖と、横を飛んでいた頭蓋骨から強力な光が一条づつ発射された。
「ぬがら!」
男はその直撃を受けると、後方に吹き飛ばされていく。
真司を後ろから抜き去りつつ視線を送りながらも、博美は男を追いかけて距離を詰める!
(軽い!)
一歩での移動距離が半端なく広い!自身の速度に驚きの表情を作る間もなく、博美は男に肉薄していた!
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
博美が刀を上段から振るう!
自身の速度に加えて、真司に強化された一撃は必殺になってしまう。
博美はあえて峰での攻撃を選択した。
「がああああああああ」
男の肩口を捕えた一撃。その口から苦悶の叫び声を生み出す結果となる。
「くっはっ」
しかし、博美の口からも吐血があった。
お腹を思いっきり殴られたような衝撃が走る。
男の鎧から伸びたトゲが博美の左わき腹に到達している。白い靄のようなもので阻まれている為、刺さってはいないがその突然の衝撃と苦痛で一瞬判断が遅くなる。
瞬間、目の前から男の姿が消えた。
「ヒール!」
すぐさまに回復が真司から飛んでくる。
思わず抑えようとしたお腹から手を離すと、振り下ろした刀をだらりとぶら下げてため息をついた。
「逃がしたか」
何かしらアイテムを使って、この場から離脱したのかもしれない。
後ろの少年がそれを知っていると思うが、博美は真司を一瞥すると腕時計で時間を確認する。
『制限時間内にクエストをクリア出来ませんでした』
真司の端末から無情のアナウンスが聞こえてきた。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




