人魚姫8
「『人魚姫』はこれでラスト?」
「うん、第一層に限ればだけど」
田んぼと畑と、少しの住宅地をフィールドに指定している今回の『人魚姫』
今までのクエストは特定のボスの撃破とフィールド内のモンスターの撃破。今回のクエストは特定の敵を撃破すると、ボスモンスター『ハンマーヘッドシャーク』が登場。それを撃破してクリアとなる。
住宅地近辺には花穂を中心とした公安のメンバー。
見晴らしのいい畑と田んぼが広がるこの地域は真司と静音と博美が受け持つことになっている。
現在神奈川に配備されているチームと合流している次郎丸は今回も未参加だ。
「ふむ、ここなら戦いやすそうだ」
などと畦道を高めのハイヒールで踏み荒らしながら、剥き身の刀をもった博美が足元を確認している。
「走りにくくないですか・・・」
「そうだがスーツにはヒールだ」
良くわからない持論をお持ちらしい。静音も呆れた顔をしている。
「降ってきたな」
轟音が高い位置から聞こえてくる。真司と静音もその音に反応して首を上に向ける。
「人魚姫は海のクエストってことで、フィールドが広めに設定されていましたから。ゲーム通りならこの辺見える範囲で敵が出てくると思います」
「わかった。君たちは私の後ろから支援してくれていればいい。今回は住宅も巻き込むから手早く片付けるよ」
『はい!』
真司と静音の返事に、博美が優しく頷く。
さっそく第一陣の登場だ。
この間山奥で戦った敵と同じモンスターがそこらじゅうに湧き出てくる。
「魚やタコが浮いているのは不思議な光景だな」
言いながら博美は地面を蹴って敵に肉薄していく。
「ゴスペル!」
真司は離れたところに出現した敵を呼び寄せるべく自身を囮にする術を発動。
その真司に向かってくる敵を、近づいてきている順に銃で静音が撃破していく。
「タコ!いやいやいやいやいやああああああああああ!」
先日のぬるぬるぬめぬめのトラウマ登場。真司は思った。
(あれはエロかった)
「ふっ!」
そんな真司の思考(煩悩)を断ち切るように、一瞬にして間合いを詰めた博美が一刀両断する。
「こいつがターゲットか?」
「そうです。ゲーム時代だとあと3匹なんですけど、MAPマーカーで確認すると20くらいいますね」
ちょっとだけ残念そうな顔をしながら、それでも数を見て嬉しそうに真司が答える。
静音の視線が少し痛い。
「まあ大した敵ではないな。この辺りの敵をある程度倒したら少し移動するか」
「お任せします。『ゴスペル』使っている間は動けないですけどね」
そんな会話をしつつも、博美は右に左に体を動かして敵を切り刻んでいく。
静音も両手に持った銃で敵を順当に撃破。先日よりも殲滅速度が気持ち上がってきているようだ。
視界の範囲内、かなり遠くの敵もこちらに誘導出来ている。
『キングオクトン』の姿もちらほら。ゲーム時代よりも広範囲に影響を与えるスキルのようだ。
「あまり敵を集めすぎるんじゃないよ!」
「わかっています。そろそろオレも攻勢に出ます」
真司は菩提樹の杖に魔力を集中させると、博美と静音の攻撃範囲から外れかけているモンスターを一匹一匹通常攻撃で狙い撃ちにしていく。
この程度の相手ならスキルを使うまでもない。
「なんか、余裕ね」
「油断するな。と言いたいところだが、これはまあなんといか、間違いも起きないな」
静音の一言に博美も同調する。
真司は未だにヒールを撃たずに、しみじみと杖を振って動かずに敵を倒している。
「あんた楽そうね」
「しょうがないでしょ?!こういう攻撃方法なんだもん」
「女性に汗水流させて、自分は動かずか。どこぞの百獣の王のようだな。わたし等は雌獅子か」
「言い方が悪い言い方が」
軽口を叩きながら移動を何度もして同じ行動を繰り返す。
「レベル、上がらないわね」
「分担して倒してるからね。九十九さんが倒した敵は経験値にならないから」
「仕方ないわね」
今回は住宅街も近い、レベリングよりも殲滅優先だ。
そして攻撃力と殲滅力は博美が一番だ。
移動しては敵を一撃で葬り去る、さながら舞いでも踊っているような軽やかさだ。
「遊びじゃないんだ、我慢してくれ」
以前、署内で話した時よりも砕けた口調。少しだけヅカな感じがするが、気にするのはやめよう。
しばらく戦っていると、真司のMAPに見慣れないマーカーが出現する。
「九十九さん!」
「ああ、気付いているよ」
この先から近づいてくるのはプレイヤーだ。
神奈川から戻ってきていない次郎丸を除くと、真司達の知っているプレイヤーは一人しかいない。
予想通りの男が、そこには待っていた。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




