人魚姫6
「エンブレム確認しました。人魚姫です」
『こちらでも確認した、各自散開して敵を撃破だ』
『了解』
『了解』
『了解』
賢はビル群の上から双眼鏡を片手に戦況を確認していた。
隣に花穂はいない。
エンブレムの出現指定地点から2キロほど離れた雑居ビルの屋上で敵を観察している。
海洋生物系列のモンスター群が下に見える。
エンブレムの形は文字通りの人魚。青味掛かった透明な水晶のようなモニュメントの中に灰色というよりは、白に近い書物が封入されている。
(前回に引き続き、場所の特定が早くて助かった)
先日の瀬戸川真司からの情報。それとプレイヤーの協力者により場所と時間が分かったのが大きい。
今まではエンブレムがどこに落下するのかはわからず、公安0課お抱えの予知能力部隊達による警告が頼りだった。
予知能力者達も精度はそこまで高くない。漠然と危険が迫っていると警告するだけだ。
「次郎丸さん、左後方より敵集団接近」
『あいよ』
協力者でありプレイヤーの戸辺次郎丸に指示を出すと、一息つける。
はっきり言って敵は弱い。先日の珠玉龍のようなモンスターでもない限りこちらの優勢は揺るがないだろう。
珠玉龍であろうとも自分の上司の敗北はありえないが。
敵の出現位置もわかり、その敵の情報もある。
今まで賢が経験してきた戦闘と比べれば、難易度が低いにも程がある。
『エンブレム調査班、行動を開始します』
「了解。無理はしないで」
上を見上げると、大きな鳥とその背に乗る仲間。
『呪符は3種類、一枚ずつ確認。ミーティング通り使用したらすぐに離れること』
賢の調査により、エンブレムが特殊な魔力によって守られていることが判明している。
国内用の破魔の呪符と世界中で最も浸透している英国式用の呪符、それとアジアの影響力の高い中国式の物に対抗するための呪符である。
国外でも事件を起こしている以上、国内専用では心もとない。ついで普及している二か国の呪符を準備させた。
元々クエストのクリア時間を考えると、3枚が限界というのもあったが。
「届かない・・・か」
賢は目を凝らしてエンブレムを注視している。全身の魔力をその両の眼に集中させて全神経を用いて解析。
エンブレムの真横で空中で静止したその呪符は、黒い炎を上げて消えて行った。
「破魔の術式は・・・効いている・・・けど、反応がおかしい」
効いている、それは間違いない。
破魔の術により、削り取られている魔力。空中に放出される目的を失った魔力が徐々に薄くなっていくのがわかる。
だがそれでも、エンブレムから放出される魔力量は減る様子がない。
2枚目。英国式の破魔符だ。
「同じか」
先ほどにつづいて2枚目も同様の末路を。
3枚目も同じだ。
「まさかと思ったけど、『賢者の石』とはね」
あれだけの魔力を保有できる無機物は他に存在しない。
賢は携帯を取り出して上司に連絡をとった。
地上では戦闘がなおも繰り広げられている。
『人魚姫』第3部。
単純に魚型モンスターの駆除、敵を全滅させればクリアだ。
次郎丸や公安0課の人間はこの半径2キロメートルという範囲をそこかしこに走り回り、敵を殲滅していった。
次郎丸が最後のサメ型のモンスターを破壊に成功。エンブレムは静かに、ゆっくりと上昇して行って消えていく。
上空に待機していた魔導師達も認識出来なくなるほどの高度に消えて行ったそれは、音もなくすべての人間の視界から消えて行った。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




