人魚姫4
「静音さま。あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう、早苗さん」
学校が終わり、下校時刻。帰ろうかと席を立った時に静音は声をかけられた。
「えっと、あの・・・ですね。この間の」
「この間の?」
歯切れの悪い問いかけに、静音は丁寧に応対をする。
「この間のご親戚の『真司様』は学園祭に来られるのでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと」
たっぷりな時間に思考を持って行かれたが、静音はなんとか再起動。
「ええと、どうでしょうか。チケットはお渡ししてないので来れないのではないかと」
「わたくしがチケットをお渡ししておきましたの。予定が合う様であればとのお返事だったのですが、もう1週間をきったので静音様の方でご確認をしていただければと・・・。でも、無理強いは出来ませんよ?ただ、わたくしが会いたいと思っているだけですので。ただの我侭ですから」
ポッと下に目線を向ける早苗に静音は再び硬直をする。
「えっと、連絡をすればいいのかしら?」
「申し訳ありません。ですがわたくしは、その。ご連絡先をいただけていなくて・・・ですので」
「柏木様?お知り合いの方を呼ばれるのですか?」
「ええ、静音様のご親類の方でして。とても頼りがいのある素敵な方ですの」
(頼りがいのある?!あいつあの後何したのよ)
「あの方のお言葉でわたくしは救われたのです。そしておそらく、静音様も・・・」
「まあまあ、お二人のお心に強く残られる男性ですのね?なんて素敵なんでしょう」
「や、あ・・・・真司さんは、その。普通の方ですよ?その・・・容姿も含めて」
(そよね!別に見た目は普通!)
頬をひきつらせながら、真司の話題を何とか逸らそうと考えているが更にクラスメートが参加してくる。
「学園祭、いらっしゃるのですか?」
「それは、その聞いてみないと・・・・」
「柏木さんが是非にっていう方なのですから、きっと紳士然とした方なんでしょうね」
「それは、どうでしょうか・・・」
「あんなに近くから見つめられて、抱きとめられて・・・とてもお心強いお言葉を頂きました。もう一度お礼をしっかりと・・・恥ずかしいですわ!」
頬を両手で押さえて首を振る早苗は、それはもう興奮していた。
『キャー!』
「最後には手まで握って頂きまして、あの感触はもう忘れられません・・・」
消え入りそうな声でうっとりとした表情の早苗。
(やめて!あの男はなんていうか・・・あれ?どうなんだろ?あんま知らないわね)
実際には電車の中で、距離的に近くならざるを得なかったのだが。
そういえば、ゲームのというか『白と黒』の話以外あまりしたことがない気がする。
どういう人間なんだろうか、と思い浮かべる。
『悪いよ』
『オレが悪いと思ったんだ』
最初に会った時に言われた言葉。
(偉そうな事言われたわね)
少しムっとする。
そして次は、いつぞやのモールで叱られて、諭された時の言葉。
そして最後に・・・。
『わかったよ。それも約束』
(あわわわわわわわわ・・・・)
結構なことを言われた。静音の顔も赤く染まる。これは他のクラスメート達に悟られたくない!
「これは是非呼んでいただけねばならないですね!」
「私もお話してみたいです!」
「柏木さんから男性のお話を聞けるとは思いませんでした!」
「柊さんのご親類?それはそれは・・・」
話が徐々に広がって行っている気がする。
「えっと、そうですね。ご招待を一度しているのであればお返事も頂けるのではないかと」
「聞いていただけるんですか!ありがとうございます!」
がしっと早苗に両手を掴まれて、たじろぐ。
「申し訳ありません。有難うございます!」
「はい。・・・・・えっと、今?」
「今聞いて頂けるのですか!そんな、心の準備が・・・」
墓穴を掘った。
「じゃあ、今夜辺りにでも・・・」
「いえ!お願いします!聞いて頂けるのであれば!夜までなんて、待っている間にわたくしの心が押しつぶされてしまいます」
『キャー!!!!』
早苗の言葉に沸く教室。静音にも期待の視線がいくつも突き刺さる。
入学して1年と少し、ここまで学校で危機的状況になったことは今まで一度もなかった。
「そ、そうですか。じゃあ、一応・・・」
(出るんじゃないわよ!)
静音は携帯電話を鞄から取り出すと、震えた指で通話ボタンを押した。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




