竹取物語33
「このお!バーストショット!」
『おめでとうございます。レベルが上がりました』
龍を守るべく駆け出した静音の端末がアナウンスを言い出す。
初回の一発目、最初の範囲攻撃で道を開くはずの一撃が間抜けなアナウンスに邪魔された。
「おめでとう」
「おめでと」
「おお?ありがと。って、あんたらねえ」
簡単なお祝いの言葉に思わず静音は返事をする。
『Lvが30に到達しました。JOBアップクエスト 銃弾の味 が公布されます、受注いたしますか?』
思わず静音は真司の方を向く。真司が頷くのを確認すると静音はすぐさまウィンドウパネルを操作。
『 銃弾の味 が受注されました。クエストクリア条件。銃、または狙撃銃を装備している状態で敵30体を倒して下さい』
「あれ?意外と簡単?」
「最初のJOBアップだからね。ほら、あそこの塊を」
いつの間にか横を走っていた真司の指示する方向に、静音はバーストショットを撃つ。
「次あっち」
「バーストショット!」
「あそこもあそこも」
「わかってるわよ!『バーストショット!』」
『 銃弾の味 がクリアされました。JOBがシュータになります。新スキル 二丁拳銃 を覚えました。新スキル クロスショット を覚えました。新スキル 連射 を覚えました。新スキル 0距離射撃 を覚えました。新スキル 一点撃ち を覚えました。』
「よし!ナイスだ柊さん」
「ちょっと?!なんかいっぱい言われてもわかんないわよ私!」
慌ててステータス画面を開く。そこには見慣れないスキルがいっぱい増えていた。
最大HPの上昇もあって、HPが半分くらいになっている。そう思った瞬間にHPバーは全快していた。
「まず装備欄に前使ってた銃を、空いている左手に装備できるようになってるから
装備して」
「えっと、出たわ!」
「クロスショットを使って」
「クロスショット!」
『クロスショット』使用中は一定時間射撃攻撃力と、射撃距離によるダメージ減算を軽減させるスキル。
「クロスショットは効果時間がクイックドローやコンセントレーションより短いから頻発させること。なるべく絶やさないように」
「分かったわ!」
「敵の数が目に見えて減ってくるまでは、作戦通りにダマにはバーストショットで。単品単品には通常攻撃を」
真司の指示に静音が頷く。
「敵が明らかに減ってきたら、新しいスキル自由につかっていいから。とりあえず今は我慢してて。あとお願いがあるんだ」
「なによ?」
走りながら、攻撃をしてこないにしてもスケルトンの軍団の中での会話は緊張感がある。
静音はあまり余裕がなく短い返事しか出来ていでいた。
「さっきの作戦より、少しオレ寄りにポジションとって。オレの攻撃範囲も少し受け持って欲しいんだ。シューターになった今なら出来るはず」
「・・・・いいわ。任せなさい!」
「ありがとう。次郎丸さんは少し、公安の人たち寄りにポジションを」
「了解」
三人は三様に分かれて、敵の迎撃を始めた。
「ラッシュ!ラーッシュ!」
「・・・・・・・祈り」
「バーストショット!」
三人のスキルが発動し始めた。
「すごい光景だ」
賢の呟きに、花穂が無言で頷く。
敵の数がすごい。
目に見える範囲、龍の周辺もそうだが、住宅街の隙間から次々とスケルトンがはいずり出てくる。移動速度が遅い分、その光景は異様である。
だがそれ以上に異様な光景は龍の周りで起きていた。
自分と同僚、それに博美の実力を花穂達は知っていた。
敵が一撃で倒れせるのであれば、彼女達の勝利は揺るがない。
過去にも、天邪鬼の群れを殲滅したことがあった。その時よりも敵は弱く脆い。
次々と増援が入り込んでいるものの、彼女達の周りには少しスペースが空きだしている。
博美はその後ろで数人と座り込んで話し始めていた。
休憩を交換でとるつもりだろう。
花穂自身も遊んでいる訳ではない。橋の上から水龍を招来させ、仲間が作るスペースの内側に残ったスケルトンを掃討している。
龍の範囲攻撃の内側に人間が入らないように、その上で敵を倒し全体を見渡せる位置取りである。また、念のため狼も出して狙撃部隊と賢を護衛していた。
自由に暴れまわる同僚たちと、その同僚たちを援護する遠距離型の魔導師達はいつ見ても心強い。
「彼らもすごいね」
「そう・・・ね」
彼ら、とは真司達の事だ。
次郎丸は近接格闘のスペシャリスト『グラップラー』という職業らしい。
彼は最初からいままで、ずっと同じペースで敵を倒し続けている。
右から敵が来たら右拳で殴り、その反動を利用して別の敵に左足で蹴りを叩き込む。
左側の敵は左拳で殴り、空いてる右足を軸に回転して敵を吹き飛ばしていく。
一列に敵がいると、その拳で後ろに控えているスケルトンまでまとめて粉々に砕いた。
あれも『貫通打』なるスキルというものらしい。
右に左に忙しく動き回る次郎丸。遠目で見てなければ影すら追えないかもしれない。
『スケルトンオーガ、来ます』
シーバーに向かって賢が話す。
一際背の高い、金棒をもったスケルトンだ。
川辺に降りてくる瞬間にそのスケルトンオーガの近辺で爆発が起きる。
静音の『バーストショット』である。
静音は最初、右に左にと動き回り両手の拳銃で敵を倒していた。
時たま見せる爆発のスキルで敵を纏めて葬り去るっているのも、上から見ている花穂にはよくわかった。
だけど、今は足を止めて中腰で銃を乱射しているだけだ。
敵の進行より、静音の殲滅力が上を行っているのは明らかだ。
何よりその殲滅範囲が広い。
ミーティングで受け持つ予定のはずの広さ以上をカバーしているのではないだろうか。
今の戦場で、龍を守るという意味での一人一人が受け持っている範囲の中で一番広い範囲を担当しているのは静音である。
「彼は・・・一体何をしているんだろうか」
「何かをしているようには見えないわね・・・でも」
「うん。彼の前には敵がいない」
真司は動いていない。
それどころか、立ってすらいない。
一人で座っているだけだ。
真司の前、前方10メートルくらい先まではスケルトンが進行してきている。
しかし、それまでだ。そこから先はまるで凪場のように何もない空間が広がっている。
その凪場に足を踏み入れたスケルトン達は、一様に膨らみ・弾けて消え去っていく。
たまに立ち上がると次郎丸に手を振っている。
おそらく回復魔法だろう。
あとで分かる事だが、真司が使っている魔法はエリアルリジェネーションという魔法だ。
発動を指定した場所を中心に、8ヘクス内にいる味方と敵のすべてに少量の回復を定期的に行う範囲回復魔法。
この効果により不死属性のスケルトンにはダメージが入り悉く倒れていくのである。
スキル制限の為スキルレベルを下げて発動しているこの魔法には本来、スケルトンを倒せるほどの威力は無い。
真司の回復魔法は高く、更に『祈り』スキルの効果により回復魔法の威力と自身のSP回復速度が大幅に上昇している。菩提樹の杖も回復魔法の威力効果持ちの為、スケルトンを蒸発させれるほどの威力を持っているのである。先ほどその範囲内に足を踏み入れた猪型のスケルトンも、2・3歩歩いただけで破裂していった。
『クエスト時間、残り45分』
真司の声が無線から聞こえてきた。
まだまだ油断は出来ない。だが既に最初、上から見て確認していたスケルトンは半数以上が消えていた。
「あれは・・・なんだ?」
賢の呟きが、花穂の思考を止める。
賢の視線が、何かを捕えていた。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




