竹取物語32
『落ちてきました、エンブレムです』
賢が橋の上から双眼鏡を片手に無線で全体に言う。
『どこから出たか見えた?』
『すみません、自分の知覚範囲より更に上からとしか・・・』
『そればかりは仕方ないわね。いいわ、後回しにしましょう』
『液状化しています。落下しました』
前回の火鼠よりも大きい。その場にいたメンバーは皆息を飲み込む。
そこにはまさに、幻想から生まれてきた東洋の龍だ。
体は折りたたまれて、自身の体を少し重ねながら地面に降り立つとその場に伏せる。
全長は10メートル以上あるだろうか。
『クエストMAP竹取物語・第一階層が生成されました』
同時に3人の端末が宙に浮きあがる。
『クエスト制限の制限以上の装備は自動で解除されます』
それぞれがそれぞれの武器と防具を装備。
静音は前回もらった羽つき帽子が追加、次郎丸はカンフー映画に出てきそうな真っ赤なチャイナ服に黒のカンフーパンツ。歩くと、地面に金属部分が打ち鳴らされるブーツに鋼鉄製のナックルダスターを装備。
真司は前回と変わらず木製の盾。こん棒ではなく枝のような形状の菩提樹の杖を装備
『見えてるわ、あんたはそこから狙撃手に倒す順番の指示に集中して』
『了解』
博美は賢との会話を止めて、全員を見渡す。
「瀬戸川君。どう?」
「やはり集まり始めてます。数が多いですが・・・これはどうしようもないですね」
珠玉龍の落下地点、川辺の中腹より少し川寄り。思ったより川に近いところに落下してくれたので真司は少し安心していた。川が天然の防壁になってくれる。
「始まりました。みなさん、しっかり見ていて下さい」
真司が見ていてくれ、といったのは珠玉龍の攻撃範囲だ。
珠玉龍は、モンスターやプレイヤーから攻撃を受けると範囲攻撃でのカウンターを行う。
上半身側だとブレスを、下半身側だと尻尾を振り回す。
「あとはゲーム通り、あいつが動かなければ万々歳なんですけど」
「動くと思う?正直あんなサイズの化け物が歩き回ったら被害は図り死ねないわ」
「わかりません。ここのステージでは動きませんでしたが、上級のクエストになると体を浮かせながら宙を飛び回ります。このクエスト用に防御力だけは下がってますけど、あいつ自体はLv80前後で相手にするような手合いですからね。攻撃力も高くて範囲攻撃持ちと厄介な敵ですよ」
数匹のスケルトンが龍に突進をしていった。
「ブレスのモーションです!」
スケルトンの武器攻撃を受けた龍は、面倒臭そうに体を揺らしてスケルトンを吹き飛ばす。吹き飛ばされたスケルトン達はそのまま龍の放った炎の息で消し炭と化した。
地面は焼け焦げ、スケルトン達はこの場から消滅していく。
「あのブレスと、尻尾の範囲攻撃には触れないでください。即死ですから」
真司の言葉を聞いてか、跡形もなく消えたスケルトンの集団を見たからか。周りにいるメンバーは一唾を飲み込んだ。
「このクエストは敵が時間制限いっぱいまで、沸き続けますからね。人気なんです けど、龍の範囲に入っちゃって死亡するプレイヤーが後を絶たなかったんです。特に近接攻撃職は攻撃に夢中になってて気が付いたら・・・みたいにね」
今度は尻尾を振るっている。その一振りでスケルトンがやはり粉々になって宙に飛び散っていく。
「ちょうどいい目印が出来ましたね。あそこより内側に入らないでください」
焼け焦げた地点を指差す。静音と次郎丸が頷いた。
「まだ行かないのか?」
「ええ、もっと龍にダメージが入らないとまずいです。あまり余裕でクリアしてしまうとボーナスクエストのトリガーになりますから」
ボーナスクエスト、それは上級者の為のコンテンツである。
全容は不明だが、一部のクエストをクリアした時にある条件をクリアするとボーナスクエストが解放される。
通常のレベルを大きく上回る敵が出るが、その分経験値も敵のドロップアイテムも高価だ。
この竹取物語クエストのボーナスクエスト。それが今回のクエストには隠されている。
隠されているものの、攻略はすでにされているため条件も既に判明している。
ぶっちゃけていうとWIKIに書いてある。
ネットの情報ではあるが、ほぼ間違いないだろう。真司は過去にこのクエストをクリアしているからそれはわかっていた。
「龍のHP、大体8割くらいまでだっけか?」
次郎丸も当然知っている。
真司はその声に頷いた。
「これ以上は待つのは無理・・・かな。ポジションが取りにくくなりそうだ」
地面に落ちたお菓子に群がる蟻の如く、そこら中からスケルトンが沸きだして龍へと向かっていく。
真司達の横を通り過ぎる個体もあるほどだ、こちらには見向きもしない。
「しかし。本当に攻撃されないとはな」
今回のクエストは龍を殺そうとする敵の排除。
逆を言えば、敵のターゲットは龍のみ。こちらから攻撃を行えば反撃も当然ある が、だがこちらから手を出さない場合は敵もターゲットを変更しない。
公安のメンバーの一人が呟いた、信じられないといった表情だ。
「なによ?こいつの言うことを信じてなかったわけ?」
そんな呟きに、静音が律儀に反応していた。
「いや、そういうつもりで言った訳ではなかったのだが」
「じゃあどういうつもりなのよ」
「柊さん、いいから・・・そろそろ行こう」
「ふん」
そんな静音の反応に、困ったような表情を浮かばせながらも公安のメンバーも思い思いの武器を装備する。
近接戦闘の先陣に立つのは鞘も持たず、むき出しの日本刀を片手に持った博美だ。
「みんな、死ぬんじゃないわよ!」
『はい!』
博美の号令と共に、全員が行動を開始し始める。
エンブレムが落下してきて、まだ5分ほどしか経っていなかった。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




