竹取物語28
「さて、それでは話に移ろうか」
飲み物が配膳され、花穂も席につくと博美が口火を切った。
花穂からの視線が痛い。
「まず、わたしからの質問を。どうしてあんな犯行声明を?」
「警察に動いてもらう為です。施設が施設だったから、最悪無人にさせることも出来るだろうと」
「なるほど・・・では、何故君たちはあの場に?避難を無事終わらせれば、人的被害は出ないだろう?」
「あれが『白と黒』というゲームアプリのシステム通りだと、クリアしておかないと本が漆黒化して更に厄介になる可能性があると判断したからです」
「君があれを『白と黒』だとなぜ思う?」
「オレがあのゲームを2年近く、ほぼ毎日やっていたからです」
「ゲームをやっていたから、ね。私の部下にも何人かゲームをやっていた者がいたが、すぐには気付けなかった。なんでだと思う?」
「敵がスケルトンだったからでしょう。あの手の敵は色々なゲームやらお話に出てきますからね。関連付けが出来なかっただけだと思います。エンブレムを見れば別ですが」
「灰色の本が封印されているモニュメントの事だね?」
「はい」
順番に繰り出される質問に対し、真司ははっきりとした口調で丁寧に答える。
嘘は無い。
ここまでは、おそらく向こうもある程度回答を予測していた質問だろう。あまり考える時間を取らずに次々と質問を投げかけてくる。
花穂は相変わらず憮然とした表情でオレンジジュースをストローですすっている。
「あのエンブレム『竹取物語』が漆黒化した場合、どの程度の被害が出ると予測する?」
「クエストランクが2層目に入ると思います。敵のレベルは今のスケルトンやウッドマンの2倍強。強さ的に言うと8~10倍の敵が出現しますね。本当にファンタジーな敵がどんどん出てきますよ」
「10倍・・・」
「数値的に、って意味だから。スケルトン相手に苦戦しているようなら、手も足も出なくなると思う」
花穂の呟きに真司が答える。
「・・・そうなると通常の武装では歯が立たなくなるか・・・」
「中堅クラス相手だと、傷一つ付けれない可能性もあります」
「やっかいだな」
博美は腕を組んで。考える。
「まあ今は考えても仕方ない。君たちは今後、事件が起きた時は・・・エンブレムが現れた時は、また解決に乗る出すつもりなんだろう?」
「まあ、そうなると思います」
「歯切れの悪い返事だね」
「今はクリア出来るレベルですが、今後はどうなるかわかりませんから。オレは自分の命が惜しいんです」
真司ははっきりと告げた。協力は出来るが、命を張るようなことはしないという意思表示だ。
「今回のモールでの件、場所と時間を正確に把握してたのはどうして?」
来た。この質問に対する回答をどう理解されるかが肝だ。
「・・・・・携帯に情報が入ってくるんです。『白と黒』の告知機能が働いて、クエスト情報が流れてくるんです」
「あのアプリは起動しないはずだが?」
「オレと、オレと一緒にいた女の子。それとモールで途中から合流した男のアプリは動きます」
「見せて貰っても?」
「どうぞ」
真司は携帯を取り出して操作。『白と黒』を起動して博美に渡した。
博美は真剣な面持ちで、それを操作していく。
告知の欄を見ると、確かにクエスト情報がある。
ご丁寧に、このクエストは終了いたしました。という文字まで
「このスマートフォン、調べさせてもらってもいいか?」
「拒否します」
今までよりも暗い声で否定を口にした。
がらりと変わった雰囲気に花穂は驚き、博美も眉間にしわをよせる。
「・・・理由を聞いても?」
「オレが死ぬかも知れないからです」
真司の言葉には、真実を帯びた力が込められていた。
「死ぬ、とは穏やかではないね。説明を求めても?」
「そのままの意味です。オレ達はその『白と黒』のアプリケーションの力で生きているかもしれないんです」
息を深く吐いて、説明を始めることにする。
「オレ達は全員、一度あいつらに殺されています」
『!』
「3人とも、例外なくです」
「何を・・・・現に君たちは」
「事実です。オレ達は死んで、生き返りました」
「ありえません!死者の復活は、それだけは絶対にありえません!」
花穂が机を叩いて立ち上がり抗議の声を出す。
「かの英国、大魔闘での不死鳥の願いでもそれだけは叶わない願いなのですよ?!そんな魔術!魔法使いだとしても不可能です!」
「その辺の話はオレには理解できないけど。四条さんと初めて会ったとき。あの時の30分くらい前に、オレはスケルトンに手も足も出ずに殺されてるんだよ」
「・・・にわかには信じられない話だが」
「九十九さん、そこのパソコンはインターネットに繋がっていますか?」
真司は部屋の隅にあるデスクトップ型パソコンを指差して質問。
「ああ、今使えるようにしよう」
博美は困惑の表情を浮かべつつ、電源を入れてパスワードを打ち込んだ。
真司はパソコンを借りると、『白と黒攻略WIKI』を開いてサフィーの項目を開いて席をあける。
それを博美と花穂は顔を合わせながら読んでいくと、徐々に険しい表情になっていった。
「オレは死んで、生き返った身です。ですが話はそれだけでは終わらないんです」
ページを読み終わってなお、信じられないと連呼する花穂。
実際にゲームの内容が事件と化している以上、こういったシステムも稼働しているのだろうか・・・博美にはわからない。
「生き返ると、ゲームのキャラクターの力が使えるようになるんです。オレの
キャラクターは高司祭。回復魔法と、神聖魔法を扱うキャラクターです」
正確には高司祭ではないが、真司はWIKIに載っていないことまで話すつもりはなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
長い貯めの後、博美がやっと口を開いた。
花穂は理解していないらしい。
「ゲーム時代のキャラクターとしてサフィーに生き返させられたんです。だからオレはあんな魔法が使えたり、あれだけの敵に攻撃されても平気なんです」
「・・・花穂、賢を呼んできて」
「えっと?」
「駆け足!」
「分かりました!」
博美の勢いに、思わず敬礼をして花穂があわてて扉を開き、閉めもせずに出て行った。
誰かを呼びに行ったらしい。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




