竹取物語27
そこにいたのは超が付くほどの美人さんだ。
短くそろえた茶色いショートヘア。その髪質を邪魔しない程度に輝くピアス。
整った顔立ちと凹凸のくっきりしたグラマラスなスタイル。
これで花穂と同じく警察官だというから何か間違っている気がする。
「私は警視庁公安部第0課の九十九博美です。瀬戸川君、わざわざ足を運んでくれて感謝するよ」
花穂に無茶苦茶な指示を出した張本人のようだ。
「課長、大成功でした」
グッと親指を立てて花穂が成功を報告する。
「あんたホントにあれ実行したの?ああ、瀬戸川君可哀想に。今頃学校では色々と噂が広まって収集着かなくなってるんじゃない?」
「ちょっと?!課長がやれって台本まで意気揚々と用意してたじゃないですか!私昨晩必死に暗記したんですからね」
「台本にはきちんと、最終手段って書いておいたじゃない。もっとマシな方法で連れてきてあげればよかったのに」
やれやれ、と肩をすくめて博美は呆れた表情で・・・親指を上に立てた。
「ああ、帰りたくなってきた」
そんなやりとりを見て真司の口から本音がげろり。
「いま帰ったら、きっと注目の的だろうね」
悪女がいた。
そんな悪女が花穂に視線を送る。花穂は真司を机に勧めて椅子を引くと座るように促す。
「さて、さっそくだけどコレを聞いてほしい」
表情を改めて、博美は胸のポケットからICレコーダーを取り出すと、再生ボタンを押す。
『本日20時より夜明けの森ショッピングモールにて、ここのところ世間を騒がせている事件と同質の無差別攻撃を行う。信じる信じないはお前たちの勝手だ。ゼロに伝えろ。前回のように、盛大な花火があがるかも知れないぞ。とな』
くぐもった、それでいて少し甲高い音声を真司は聞かされた。
こんな感じに聞こえてたんだな。と真司はしみじみと聞き入った。
「そしてこれが、この声を解析して元の声に直したもの」
・・・。
・・・・・・・・・。
「この声は!」
花穂が真司の顔を見る。
「オレの声ですね」
「認めてくれるのかい?」
「これはオレが警察に連絡した内容ですから」
真司はあっけらかんと答える
「では今までの事件はあなたが!?一体何人の犠牲が出たと!」
花穂が声を荒げ、真司の肩を掴んだ。
真司はそんな花穂を無視して、博美と視線をぶつけ合った。
「あなた程の術を操れる力があるのであれば!他にいかようにも力の使い方があるでしょう?!なんでこのような無差別な破壊を!」
「オレじゃないよ」
花穂には視線を戻さず、真司は博美から視線を外さない。
「それをどう証明する?現段階で、容疑者は君と君の連れていた女の子の二人だけなんだ」
「あなた達は、常にああいった手前を相手にしていたんですよね?」
「そうだが?」
「じゃあオレ達にあんな真似が実行に移せるかどうか、もうわかっているんじゃないか?」
「それを聞き出すためにも、足を運んでもらったつもりなんだがね」
「あれがどういった目的で、なんで発生しているのか。どうやってあんな事件が起きているのか、それを聞きたいだけならオレが言えることは何もないです」
真司は席を立とうと椅子を引く、肩を押さえていた花穂の手に力がこもっていく。
沈黙が支配する。
「・・・なるほど、いい男じゃないか。瀬戸川君、お茶とコーヒーどっちが好きだい?」
その視線を正面から受けた博美は、しみじみと頷きオーダーを聞く。
真司としては意外な展開だ。呆けた表情に一瞬なる。
花穂の組織が国家権力である以上、いずれは相対しなければならないと思っていた。
どうすれば話を聞いてもらえるか、どうすれば話を信じて貰えるか。
その答えがなかなか出ず、情報も少なかった為今まで花穂との接触を避け今日まで過ごしてきた。
花穂の奇襲に負けて、若干なるようになれと思いながらついてきた真司だが思いのほか話の出来そうな相手が出てきたのには正直助かる。
「コーヒーで。選べるならアイスコーヒーがいいですね」
「花穂、用意してあげな。わたしのも頼むよ」
「課長!」
「彼はね、あんたじゃ手におえないよ。話も長くなりそうだし手錠も外しておやり」
「ですが」
「逃げずに大人しくここまで来たのは、わたしに話があるから。そうだろう?」
その問いかけに真司は無言で頷いた。
博美も満足そうな表情を浮かべて、花穂に視線を投げかける。
「しかし!なら手錠だけでも!」
「あんたが彼にコーヒーを甲斐甲斐しく飲ませてあげれるんならそのままでもいいけど?」
「!!!・・・・・・・・・・・・・・知りませんからね!」
顔を赤くした後に、大声を出すと真司の腕に指を向ける。
自然と手錠が外れた。
くるりと振り向き、大股で部屋から花穂が出て行った。
扉を閉める音がでかい。
真司は机の上に手錠を置くと、拘束されていた部分を手で撫でる。
「純粋で、思い込みの激しい子なんだ。勘弁してやってくれ」
「あんた、それで楽しんでいるクチだろ」
「わかるかい?」
「見ていればね。さて、何から話せばいいかな」
「まあ待ちなさい。花穂の入れるコーヒーは美味しいよ?」
話は飲み物が来てからだ、と真司は諭された。
「・・・・・持ってくるんですか?」
「持ってくるさ。なんだかんだ言って彼女は君の事を気にかけているからね」
「今は完全に犯人扱いですけどね」
「くくくくくくっ」
笑い方が黒いなあ。と真司は本気で思ったけど口に出すのは憚られた。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




