竹取物語24
封鎖されたショッピングモールから離れて、二人は駅に向かって歩いていた。
沈黙の時間が長く続く。
「ねえ?」
静音が静かに真司に語りかけてくる。
「うん?」
「最後、私を置いて行ったのは足手まといだと思ったからよね」
「・・・・んー?そんなこと無いけど」
「あの装備みて思ったのよね、本当は一人の方が効率いいんでしょ?」
真司は答えることが上手くできなかった。
確かに優越感は感じたが、それ以上に理由もあった。
どう説明しようかと少し間が開く。
「前回はあんたもこん棒持って振り回してたし、今回も前半はそうしていたじゃない?」
横目で真司の顔を捕えながら静音が言う。
明るさが少ないせいで真司からは、静音の表情が見えない。
「でも、『グラップラー』だっけ?前に出てからあんたは直接殴ってないわよね?武器も杖に持ち替えて遠距離からたまに攻撃するだけで・・・倒す敵の順番とか指示して回復して、敵の攻撃を受け止めることもしなくなってたし」
杖はこん棒と違って、物理魔法を打ち出す攻撃方法だ。真司は後ろから横に漏れ たウッドマンをそれで倒していただけで、ほとんど攻撃を行っていなかった。
「私は弱いから、しょうがないかもだけど。後半は常にあの巫女警察官とセットで組まされてたから。ちょっと・・・いいえ、かなりくやしいわ」
後半は完全に呟くようなセリフ。
今回クリアしたクエストは内容的には、ゲームを理解していれば静音がソロでクリアできるレベル。
真司がいて、花穂がいて次郎丸がいたから戦力的には過剰な状況だった。
「・・・・今回はパーティ戦だったからね。ペアの時とは戦い方も変わるよ」
「ふーん」
また沈黙、だいぶご機嫌を損ねたようだ。
「・・・神官職っていうのは、パーティ戦では足手まといなんだ」
「へ?」
足手まといは自分だ、そういう真司の顔に驚きの表情を向ける。
「ゲーム時代の頃だけどね。パーティ戦だと回復は各自で持ち寄って、高火力で敵をなぎ倒すのが基本戦術だったんだ」
静音は真司の話に大人しく耳を傾ける。
「パーティ戦での人気職は、単体に高ダメージを叩き込める遠距離職、ASPDの高い近距離。次いで職範囲魔法と属性魔法で敵を倒せる魔法職。そんな中に回復持ちのキャラは入る余地がないんだ。経験値はパーティメンバーに均等配分だから倒せるキャラの方が重宝されるのは当然なんだよね」
道から少し離れた商店の横に隣接している自販機を真司は指差した。
真司は小銭を入れて飲み物を2本買うと(自然とおごる流れにされて苦笑いをしたが)飲み物をあけて二人で口をつける。
「そもそも携帯コンテンツだからさ。パーティ組まなくてもクリア出来るように、ソロ向けの回復アイテムがかなり種類あってしかも高性能。回復職の存在価値は、回復するのにお金がかからないだけの電池扱い。魔法攻撃もあるけど、専門の魔法攻撃職には勝てないからね」
「確かに、一緒に始めた友達にも神官職はやめとけって言われたわ。もともとガンナーか刀しかやる気にならなかったから特に気にしなかったけど」
そうだろうなあ、と真司も納得。そういうものらしい。
「魔属性や不死属性には滅法強いから、そこそこ需要はあったけどね。でもそれは魔法の高速発動に特化させたINT>DEXの神官系のみの需要で、オレみたいなVITまっしぐらの不沈神官は完全に畑違い。オレ、パーティ戦は苦手なんだよね」
「苦手って。完全に仕切ってたじゃない、何よ苦手って」
「あははは。オレがコントロールするのはいかに自分が死なずに、仲間も死なずに。って戦い方だけだよ。・・・・そして最後に老菩提樹に一人で挑んだのは、やっぱりボスを残しておくのが不安だったからっていうのもあったんだけど」
飲みきった空き缶をぶらさげて、真司は息をついた。
「あの自称警察官。あの人を死なせない為だよ。だから柊さんには彼女について貰ってたんだ」
「!」
「一応回復は通るけど、HPって概念があの人は通用しないからね。スキルは解放されてたけど、一撃死されたらヒールじゃどうしよもないしゲームやってない上に『白と黒』のアプリも手元にないからサフィでの蘇生も効かない。実際に死んだ人間にリザレクションをかけたことがないから蘇生魔法は成功するかわからないし・・・試したくもない。一時的とはいえ仲間になって貰ってるから死なれるのはちょっとね」
「それは、確かに・・・そうね」
「柊さんがいると楽だよ。敵を倒す速度はいまでこそオレと変わらないけど、あと1もレベルがあがれば・・・一応経験値バーあるから上がると思うけど。シューターになれるからね、そうすれば『二丁拳銃』が取得できるからASPDは今の2倍近くに膨れ上がる。今までのスケルトンや、今回の菩提樹に関して言えば敵じゃなくなると思う」
その言葉に、静音の口角が少しだけ上に上がる。
「実際のところ、今回のクエストも回復アイテムさえ潤沢に使えば柊さん一人でいけるレベルだったんだよ?ボスは無理だけど、別にボス倒す必要ないし」
「え?」
「柊さん一人で勝てたんだ。そんな人は足手まといになんてなれないよ」
「そうだったんだ・・・」
「次郎丸さんが入ってから杖にしたのは、その方が魔法使用後の硬直が短くなるから切り替えただけ。あの人が前衛してくれれば、オレはみんなを守るのに集中出来るからね。柊さんのこと、守るって電話で言っちゃったし」
「!」
守る、電話で。
確かに日中の電話でそんな事を言った、というか言わせた。
静音の顔は見る見るうちに赤く染まっていく
「つまり・・・」
(つまり、こいつは約束を果たしていただけ。つまり真司は、約束通り守ってくれようと考えてくれていただけ。私たちを・・・私を守るって。それを実行していただけ。やばい、恥ずい!私、結構無茶なこと言ってる!しかも拗ねてるとか最悪!)
「つまり?」
突然立ち止まった
「つまり、あんたが過保護なだけってことでしょ!はいこれ!ごちそうさま!」
飲み干されたペットボトルを真司に押し付けて、静音はずんずん先を歩き始めた。
受け取り損ねて、拾いなおすと真司は慌てて後ろをから追いつく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・戦闘中に、新しいスキル撃ったじゃない」
「ああ、そうだね。新スキルおめでとう」
おめでたいことなのか?とも思ったが、とりあえず静音は赤くなった顔を見られないようにすることの方に忙しかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次は、ちゃんと聞いてから使うから。教えてね」
その言葉に、真司は驚いて両手のゴミを落としそうになった。
デレた。と口に出そうと思ったが、懸命にこらえた!
「わかったよ。それも約束」
また『約束』と真司が口にすると、静音は顔も見せずに頷いた。
その後、駅まで歩く二人には会話こそなかった。ただ、並んで歩いて帰るだけ、それだけだった。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




