竹取物語15
「とりあえず、今日はありがと。あとごちそうさま」
あらかた情報交換を終えると(ほとんど真司が話していた)お店を二人ででて、駅まで歩いてきた。
静音が言うと、駅で二人は解散することにした。
「あー、うん。まあまた連絡ちょうだい」
おごるつもりはなかったのだが、女の子と二人で出かけるという真司的には貴重な体験をした対価だと思えば悪い気はしない。
「ふふ、それじゃ・・・またね」
少しさみしい気もしたが、真司は駅で別れようと改札をくぐって挨拶をすると、静音の方に声がかかった。
「あらら?静音様、ごきげんよう」
「・・・・・・・・ごきげんよう。こんな場所でお会いするなんて珍しいですね」
静音と同じ制服を着た少女がそこにはいた。
「ええ、今日は運転手の方がご用事でお休みでして」
「そうでしたか。それじゃあ私はこれで」
「あらら、あららららら?まさか?まさか?」
少女は真司と静音を交互に見比べると顔を赤らめて半歩離れた。
「・・・・お邪魔してしまいましたか?」
「違うわよ!?こい・・・っ、この方は私の親戚筋にあたる方ですの。ほら、私先日・・・両親を亡くしたので。私の事を心配してくれて・・・その」
「まあまあ!それはなんとお優しい。素敵なご親戚ですわね」
「えーっと、はい。従弟の瀬戸川真司です」
とりあえず話を合わせておこう・・・睨んできてるから。そう思って適当に挨拶をすることにする。
「わたくしは柏木早苗ですわ。静音様の事をよろしくお願いします」
わたし、ではなくわたくしと言うあたりどこか場違いな空気に飲まれるのを真司は抑えるのに必死になった。
「電車が来てしまうので私はそろそろ、じゃあ真司さん。また今度」
静音は逃げるように上りのホームへと階段を下りて行った。
真司さん、と呼ばれたとき少し恥ずかしかった真司がいたが。今の状況に気付くと顔が青ざめた。
(あいつ、押しつけやがった!)
「ではわたくし達も行きましょうか?瀬戸川様」
挨拶もそこそこに、先を歩き始める。
乗る電車同じなのかと真司はため息をついた。
「瀬戸川様は、学校がお近いんですか?」
「あ、はい。今日はあいつに呼び出されたからこっちまで足を延ばしましたが」
「まあまあ、わざわざ柊様に会いに来られたわけですね!素敵です!」
「素敵、かなあ?」
「どちらの駅で降りられるのですか?」
「ここから4駅先の・・・」
「まあ!同じです!ご一緒いたしましょう!一人で心細いと思っていたのです!」
手を握られながら、真司の顔に早苗の顔が近づく。
「あ、・・・すいません。はしたなかったですね」
「いえ、それはいいんですが」
「父も母も今日は忙しくて、車で連れていけないから休みなさいと言われたのですが・・・電車くらい一人で乗れますと!今日は久しぶりに柊様がご登校ですがなされるとおっしゃっていましたし休むことは出来ません!と・・・ですが、人が多くて大変ですわね。電車に全然乗れなくて大変でした」
どこのお嬢様ですか?と真司は思ったが、そういえば静音の制服もこの子の制服も、このあたりでは有名な私立の女子高である。確かにお嬢様が多いと人伝いに聞いたことがあった。
「えーっと。とりあえず電車きちゃうから行きましょうか?」
「はい!」
真司は早苗を伴って駅のホームに降りると、電車が丁度きたタイミングだったのでそのまま早苗と乗り込む羽目になった。
「・・・瀬戸川様はすごい方ですね」
「何がです?」
「わたくし、今朝はあまりの人の多さに上手く電車に乗れなくて。おかげで何本も電車に先に行かれてしまいました」
「え?!」
(そんな人いるんだー・・・)
「ですが、瀬戸川様が一緒に乗り込んでいただけただけで・・・こんなにも簡単に乗ることが出来ました・・・少し近くて恥ずかしいですが」
満員電車とまではいかないが、かなりのにぎわいを見せている電車のなかで早苗は真司の体に自分を預けていた。これは真司もかなり恥ずかしい。
「いやいや、オレも少し恥ずかしいですが」
「そうですわよね!ほほほほほ」
間近の顔にお互い赤面しながら、照れ笑いを二人で浮かべる。
「・・・静音様は、先日ご両親を失われてしばらく学校をお休みになられていましたの」
「・・・・・学校に行く気になれなかった、って本人の口から聞きましたよ」
「何度もわたくし、お電話をかけて。最初のうちは出ても頂けなかったのですが、先日ようやく連絡をいただけました」
「そうですか」
「それで、今日久しぶりに学校に来られていたのですが。わたくしその、遅刻をしてしまいまして。電車の乗り降りがある程度空くまで乗れなかったものですから」
(この人は何時間電車に乗れなかったんだろうか)
「だから、朝はお話も出来ず。お昼も別々になってしまったため、ゆっくりお話しできる時間がなくて」
「そうでしたか」
「柊様の御心中は、正直わたくしには計り兼ねますが。さぞお辛かったと思います」
その言葉に真司はこの間の静音の顔を思い浮かべた。ある意味死に別れるより辛かったのかもしれない。彼女も一度死んでしまっているのだから。
「お顔を拝見できてほっとしました。でもなんとお声をかければいいのかわからなくて。わたくしは友達失格ですね」
落胆の表情で、早苗は下を向く。
「オレにもあいつの寂しさはわかりませんよ」
「・・・そうですか」
「でも話を聞いてあげることは出来ました。・・・なぐさめることは出来なかったけど、あいつの力になることは出来たと思っています」
腕力的な意味でだ。
「誰もいない家に一人でいるのも寂しいと言っていました。男のオレがつきっきりになる訳にはいきませんが、あなたなら隣にいてあげることが出来るのではないでしょうか?」
その言葉に、驚いた表情を早苗が見せる。少しだけ瞳を潤わせた。
「瀬戸川様・・・・いえ。真司様、と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか」
「・・・いいですけど」
「真司様はお優しい方です。素敵な方です。わたくし、感動してしまいました」
少しボリューム大きいんですけど!とか、真司は思ったが、口に出せない。あと顔を上げて言われると見つめられてるような感じになる、というか見つめられている!ついでに胸も当たってきてる!
「・・・そろそろ着きますね、降りましょうか」
「はい、わかりました」
返事をしながら真司の手を早苗が握ると、真司は驚いたが・・・電車から降りれなそうになったので引っ張ることにした。
なかなか手が離れなかったが、改札口で別れた手は再びつながることはなかった。
早苗は少し不満そうだった。
「それで、駅からは歩いて帰れないとかはないですよね?」
「わたくし、そんなお子様ではありませんわ!」
「はは、すいません。それじゃあオレはこれで」
「あ、あの・・・これを」
早苗は鞄から財布を取り出すと、チケットを2枚出した。
「来月行われる、学校の学園祭の入場チケットですの。お越しになってくださいませんか?」
「来月、ですか」
「なにか・・・ご予定がおありですか?」
「いえ、大丈夫だと思います」
「父と母に渡すために貰っておいたのですが、どちらも忙しいようで。よろしければ是非お越しになってください!女性ばかりの場所でお寂しいでしょうけど」
「どうも」
「それじゃあ!絶対にいらしてくださいね」
♪でもつきそうな挨拶に、真司は圧倒されながら小指をからめられつつ指切りをさせられた。
なんとなく自分の指を見つめながら、真司は早苗の歩いて行った方向に目を向ける。
大型のマンションが見える位置にあった。あそこに住んでいるのだろうか。
そんなことを考えながら真司は家路につくのであった。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




