竹取物語11
(囲んで攻撃をしてくる敵は12。たまに飛んでくる矢もあるけどダメージはほぼ0)
真司は冷静に状況を分析していた。
だが恐怖心が無くなっているわけではない。自分を殺そうとする攻撃は今もなお自分自身に降り注いでいるのだ。
盾を振り、防げるものは防ぐ。
体を捻らせ避けれるものは避ける。
半歩も歩けない状況で、この視界に迫るスケルトンの攻撃に最初は何度も目をつぶってしまった。
だが真司の命は消えない。
この程度では消えようがないと、冷静に判断できている自分がいる。
怖いものは怖いが、それはあくまでも精神的なものだ。
我慢出来る。
「やっぱ、ゲーム通りだね」
思わずにやけてしまう。
フレイムラッドと目があった。向こうはこっちを凝視している。
こいつは自分を攻撃したくてたまらないはずだ。だがスケルトンが邪魔で攻撃が届かない。
そして、攻撃を仕掛けてくるスケルトンからの攻撃は0か1、たまに10。
攻撃速度も遅い為、まるでダメージがない。
防御重視に成長させた高司祭の性能がそれを可能にしていた。
彼のステータスはintとvitに集中させた典型的な守り重視のステータスなのだった。
そして相手のレベルは真司のレベルより大きく下回っている。そこに決定的な差があった。
真司のHPは削れない。仮に削られたとしてもヒールがある。
いまは敵が多いから下手に攻勢には出れない。
静音が敵を減らしてくれているはずだ。
敵がリポップしなくなってきてから。それが真司の動く時だ。
それまでは静音をサポートする。
(あぶない!)
視界の端に捕えた静音が攻撃を受けた!
「ヒール」
即座に回復魔法を放つ。
(PT組んでおけばよかった・・・てか出来るのか?)
わからないが、ゲーム通りなら静音のHP残量が正確にわかるようになる。ヒールの無駄うちも減らせる。
(柊さんのレベルとHP量聞いておけばよかったなあ)
「ヒール」
攻撃を受けながら、自分自身のHPも見つめつつ静音にヒールを飛ばす。
静音は動き回る範囲を狭めて攻撃に専念し始めた。
気が付くと、静音の周りのスケルトンは残り数体まで減ってきている。
(よし)
視線をフレイムラットへと戻す。静音を心配する必要はもうなくなったと言ってもいいだろう。渡しておいたポーションは1度や2度の戦闘で使い切る量ではない、まだまだ余裕があるはずだ。
「ヒール!ヒール!ヒール!」
自分の前に陣取っていたスケルトンを倒す。
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」
空いた隙間に横からずれたスケルトンがスライドしてくる。さらにそれを倒して 徐々にフレイムラットとの距離が近くなってきた。
「ヒール!」
5%ほど減っていた自身のHPを回復させる。フレイムラットの手はもう届く範囲だろうか。
『ヂャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
奇声をあげてフレイムラットが体当たりを仕掛けてきた!
真司は左手の木の盾を前にだし、それを抑え込むと右腕を振り下ろした。
「くらえっ!」
抑え込んでいたフレイムラットの頭にこん棒を叩き込んだ!
フレイムラットの表情は変わらず、鋭い視線で真司を睨みつけている。
「よっ!とっ!はっ!!!」
真司はこん棒をひたすらに振るってフレイムラットの頭を叩き続けた。
『ドスドスドス』
鈍い音が周りに響き始めると、そこに新たな効果音が加わってきた。
『ピスッ!ピスッ!ピスッ!』
静音のサイレントキルだ。
サイレントキルはガンナーの基礎スキルの一つ。攻撃を与えても、どこからの攻撃か相手に気取らせないようにするスキルだ。
通常攻撃と威力こそ変わらないが、火力重視で回避値や防御値が低いガンナーが身を守りつつ攻撃するのに最適なスキル。真司も攻撃を行っているため、フレイム ラットは目の前の真司にのみ攻撃をしかけてくるが真司と静音は二人で攻撃をしている。
そして、攻撃を受けている真司はダメージをあまり受けない壁役だ。
(あとは静音さんの攻撃力次第かな)
真司は物理攻撃力が高くはない。転生継承とレベルの補正の関係上、サーバー全体の高司祭の平均レベルよりは大きく上回っているが所詮回復職だ。
そして使っている武器も弱い。
せいぜいLv20前後のキャラクターが装備するようなただのこん棒である。
全然弱い。
通常攻撃力だけでいえば武器攻撃職である静音の方が高い。だからこそ、静音次第だと真司は考えている。
(時間の問題だな)
クエストの残り時間を確認、残り時間は32分。
ボスのパターンがゲーム通りなら、HPがある程度減れば攻撃パターンも変わるし増える。それを踏まえても勝てるのはもう確定した。
計算を終えてフレイムラットの体当たりを盾で抑え込みながら真司は安堵していた。
『水龍神!!!』
突如、フレイムラットの横っ腹に強烈な一撃が叩き込まれた!
衝撃でフレイムラットの体が横方向に吹き飛んでいく。
同時に真司の前に水の塊が通過していった。
「!」
真司がその攻撃を、そして攻撃の出所をみる。
そこに立っていたのは黒く長い髪に巫女装束の女性。
(なんだあれは!?)
ゲームでは見たことのない攻撃。そしてゲーム時代には見たこともないモンスターがそこにはいた。
水の龍だ。
「早く離れなさい!ここからは公安で預かります!」
細く、長い指で見慣れない紙片を挟み込んでいた彼女がそれを振るう!水の龍が頷くと、フレイムラットに再び体当たりをしかけていった。
「何をしてるかわかってんのか!?あれは・・・」
「あなた方こそお下がりなさい!協力は感謝しますがここからは公務の妨げとなりますよ!」
「そうじゃねえ!あんな攻撃をしたら」
視界の端に陽炎が映る。フレイムラットがどんどんと高温を発している。
『時間超過に伴い、スキル制限と装備制限が一段階緩和されました』
真司の横に浮かぶスマートフォンがまた何か反応をし始めた。
一瞬真司の顔に動揺が生まれる。その瞬間にフレイムラットは上半身を持ち上げて体を起き上がらせる!
「間に合えっ!テレポ!」
瞬間、真司の体が掻き消え黒髪の巫女の真横に出現。
「え?」
「テレポッ!」
腕を掴みながらも今度は真司の体と巫女の体がその場から消える。
「何!?なんなの!?」
その言葉が言い終わる前に巫女の前には静音の顔があった。
「伏せろ!」
有無を言わさず巫女と静音を押しのけて、真司はその上に覆いかぶさった。
『んー!んー!』
二人が重なって真司の下で呻いているが、今は気にしている場合ではない。
『ヂャアア!ヂャア!ヂャアアアアアアアアア!!!!!』
フレイムラットは空に一声吠えると、全身から熱煙を吐き出した。体毛の隙間から毒々しい色の赤黒い高熱の爆風が生み出される!
『---------------------』
高温と、爆発に公園が飲み込まれた。
車列が吹き飛び、その場に居合わせたスケルトン達がばらばらになって吹き飛んでいく。
人間もだ。
爆煙が地面をえぐり、持ち上げながら公園のあらゆるものをなぎ倒す。
「ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!」
真司は自分の体の下に収めた二人に回復魔法をかけながら、自身の背中に走る痛みをこらえる。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




