竹取物語9
「とりあえず、灰色の本の近くまでいこう」
「なんで?」
「ボスはだいたい、本の近くに沸くんだ。特別な条件がない限りだけど」
「知らなかったわ」
「攻略WIKIを見ておくといいよ。過去のクエストも結構残ってるし今後も役に立つと思う」
灰色の本。竹取物語のクリスタルに向かうことを提案して真司は駆け出した。
静音も慌ててそれに続く。
「火鼠にしても大仏にして、最初は大量に雑魚モンスターを出してくる。だから柊さんは最初は建物の中に避難していて」
「はあ?」
「一定量以上でたらそれ以上の数は出ないから。全部吐き出させて、外から通常攻撃でオレの周りの雑魚を減らし続けて」
「あんた・・・自分が何言ってるのわかってるわけ?」
「スキルは最初は使わないこと。雑魚敵が増えなくなったら雑魚は無視してボスに攻撃。ここではサイレントキルを使って攻撃。SPが無くなったらさっきのポーション飲んでね?あのポーションはHPとSPを両方回復させる効果があるから」
「でも・・・もう手に入らないかもしれないのよ?」
「もっといい回復アイテムあるから平気。それにポーションは直前に狩りしてた時の戦利品の残り物だし。倉庫は使えないみたいだけど、もし使えるようになったら3束分あるし」
「3・・・束?」
「柊さんさ」
駆けながらも、顔を横に向けて静音の顔を真司が覗き込んだ。
「・・・何よ」
「『白と黒』あんまりやってなかった?それとも始めたばかり?」
「友達とやり始めて、すぐに飽きたわ」
「やっぱりそうかー」
「なによ!大体私嫌だからね!最初のうち避難しているなんて御免だわ!」
「あはは、やっぱり?」
「当然よ!そもそもあんた、復活直後あんだけキョドってたのに仕切らないでよね!私の方が前から命かけてたんだから!」
「それが不思議とさ、頭がすっきりしてるんだよね」
空中に浮かぶ灰色の本に向かいながら、真司がなんともなしに呟いた。
(それに、オレは命はかけない)
「じゃあ最初は攻撃を控えて。オレは最初に一度ボスを殴るから。そうすると周りの雑魚が全部こっちに向くと思うから。周りの敵がオレの方に向かい始めたら攻撃開始ね」
「・・・わかったわよ。でも本当に大丈夫なんでしょうね」
「大丈夫大丈夫。盾貰ったし」
「そんなんでどうにかなるくらいなら最初から勝てたわよ!」
「ヒーラーっていうのは便利なんだよ。まあ任せておいて」
話しながらも二人は灰色の本に着実に近づいていた。パトカーと救急車のサイレンと銃声と怒号が耳に入ってくるようになる。
「灰色の本の近くは敵が自動的沸くからね、他のポイントは柊さんが抑えてくれたけどここはどうしよもないよね。というかすごいよね、柊さんみたいなガンナータイプは1サシでの戦闘の方が圧倒的に強いのに」
「ふん、まあ私なら当然じゃない」
「またまた・・・あ、見えてきたね」
「パトカーと自衛隊の車両がバリケードを組んでるみたいね、どうしたら・・・」
二人は距離を少し開けて自販機の横に身をひそめたに。先ほどの商店街から少し離れたところにある大きめの運動公園だ。野球のグラウンドにもなる広さをもつここは障害物も少なく、公園の中に入ってしまうと身を隠せる場所がない。
「お前ら!何をしている!」
二人の事を見つけた警察官が怒鳴り込んできた。しかし警察官は真司の姿を見るとため息をつく。
「その子を守ってたのか。いい心がけだがそんなおもちゃでどうにかなる物ではないぞ。早くどこか建物の中に入りなさい」
「・・・何が起きているんですか?」
白々しいなーという視線を真司が感じ取った。
「わからん、だが建物の中・・・はここからじゃ無理か。パトカーの中に入ってなさい」
バリケードの外側にもスケルトンが見えている。
ロープで縛られて身動きが取れないものが多い。
真司が目配せをすると、静音も大人しく真司に続いてパトカーの中に一緒に入った。
「前回の教訓が生かされているらしいわね。あいつらが建物のドアや窓を開けたり壊したり出来ないことを知っているんだわ」
「縄も切れないってことか。まあゲームのモブにそんなアクションは設定しないわな」
芋虫のようになっているスケルトンは、それでももぞもぞと体を動かそうと這いつくばっている。
「それでどうするの?」
「クエストを進行させてボスを出す。混乱に乗じて公園の中に突っ込む。あとは作戦通りで」
「まあ・・・戦うならそれしかないわよね。でも・・・」
静音は周りを見渡して不安な表情を見せる。ここは人間が多すぎる。
「オレが先に出てく。目に見える範囲ではバリケードの内側には人はいないから中のスケルトンがオレに向かってくるはず。そのタイミングで柊さんがクエストを進行させて」
「やっぱり、危ないわよ。もう少し何か考えましょ?」
「大丈夫!任せて!」
言うが早い、颯爽とパトカーから降りて真司はバリケードに走りこんで飛び上がり背の高い車両の上に着地。
(こんなジャンプ力なかったはずなのにな)
そんなことを思いながら車列のバリケードから飛び降りて、公園の中心地に駆け出す。
「あ!おい!」
「止まれ!危険だ!!」
「なんだあのバカは!?」
バリケード越しに、銃を構えていた自衛官たちから声が上がる。
「いまっ!」
静音はクエストの進行を押した。
『殲滅クエストがクリアされました。報酬をお受け取り下さい』
スマートフォンから音声があがる。
『クエストが進行されます。MAPを参照してクエスト地点に急いでください』
この瞬間、上空の『竹取物語』エンブレムが激しく黒く発光。
その光が収まるとともに、一滴の黒い滴がエンブレムから流れ落ちてきた。
あとがきは、作品自体に需要があるようなら書くことにします。




