段々人が逃げていく
水というのを眺めていると、小さな水滴が、粒々が集まって波立っているのを強く感じることがある。波立ち白波と化す頃にはあぶれた水滴がちらちらと波からはぐれ宙を舞う。
こう言うと情緒的だがそれは遠くから眺めているからであり、今の僕みたいに波の中心地にいるとただ轟々と煩いだけだ。
あの赤い光の乱射から数分足らずで、一帯は人の波で溢れていた。もちろん僕も例に漏れず走っている。逃げている。
逃げているのだが、チラシには西に逃げろとか東に逃げろとか書いてなかったし、どうしろとも書いてなかったので、ただ人の波に乗って走っているだけだ。これは中々賢い。しかしそれも束の間途中から人波は散り散りになりサーファーが乗るのも諦めそうな小波にわかれていってしまった。
指標がない逃走劇となると途端に不安に駆られる。こういう時はそうだ、逃走劇、劇なのだからスリルを求めよう。雨も凌げるし風も凌げるし、避難所みたいな形もしているし人もいるかもしれない。
という安直な思い付きから僕は街から遠く離れた大きな洞窟へと逃げおおせた。
これがのちに悲劇となる。
ちなみに、蛇足に過ぎないが冷静に言葉を紡ぐ僕は今泥と涙と鼻水に覆われていることをここに追記したい。