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神隠しの現実  作者: 月蛉
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本編第1話

主人公はオタクです。

そして、何処か天然です。

 

 朝になった。

 薄暗いのは窓ガラスなどが一切無く、板の間の隙間から太陽が顔を覗かせているからだろう。

 ここは何時の時代から時を止めているのだろう。

 口元から立ち昇る息を見て顔が引き攣るのが分かる。

 真冬でなくて良かった。


 絶対凍死する。

 つか、現代の布団に慣れた身体には板の間直引きセンベイ布団は身体が痛いわ。

 年か、年なのか。

 しかし、今は夏に近かった筈だ。山奥だから気温が下がっているのか、それとも何かが違うのか。

 そんな事を考えながら手元の掛け布団を見つめる。

 本当に昨夜の事は夢じゃ無かったのか。

 早く帰る方法を見つけないと、此処は優しすぎて溺れてしまう。

 弱い私は、人間の社会で生きて行けない気がする。

 ため息一つで起き上がる。

 掛け布団の上から半纏が落ちる。

「ありゃ、優しいね」

 寒くて震えてでも居たのだろうか?

 一朗太さんだったね。

 今時珍しいくらい紳士だわ。

 いや、こんな山奥だからなのかな?

 人間では無いからなのか。

 異性とこれだけ会話した記憶が無いから判断がつかないわ。

 取り敢えず、布団は軽くたたんで土間に降りた。

 ああ、部屋、いや、家の中に人気が無いからさ。農家だと考えれば朝から農作業ってのが正しい姿かと思うから家の近くに畑位はあるだろう。

 そう、当たりを付けて 大きく伸びをした。


 靴を履いて、少しガタガタ言う扉を開けて辺りを見渡せば、そこには牧歌的な光景が広がっていた。

 庭らしき場所に放し飼いのニワトリは二十羽ほど。

 大きさは、私が知ってるニワトリはレグホン種か烏骨鶏くらい。違う種類に見えるが、でも大人しいな。

 私は鳥は好きだが、懐かれるのと好きなのはイコールでは結ばれない。

 つまり、そーゆー事だ。

 彼奴らは私を玩具かエサだと認識しているに違いない。


「おはようございます、一朗太さん」

「もう少し寝てても良かったに」

 朝日の中で初めて見る一つ目に、内心ビビるかと覚悟をしていたが、昨夜慣れたのか、はたまた麻痺しているのか、然程(さほど)気にはならない事に逆に驚いた。

 そう言いながら、手に持ったエサの入った箱をこちらに差し出してくる。

 働かざるもの食うべからずですか。

 うん、襲われたら責任を取って貰おう。

「どのくらい食べさせれば良いのですか?」

 そんな事を考えつつエサをニワトリに向けた。

 あ、コレあかんヤツや。

「本人達が食べるのを止めるわな」

 うーわー羨ましい。

 太らないですね、その生活。

 腹回りに付いた自分の………うん、止めよう。

 取り敢えず、受け取ったエサを見よう見まねで奴等に向ける。

 途端に襲ってくるのは、私を舐めているんですね⁈

 私がエサを持った瞬間に奴等の目が野生に帰った。

「ぎゃーっっ‼︎」

 こんなん相手に出来るかー‼︎

 思わず手にしていたエサ箱を落として一朗太さんの後ろに回り込んだ。

 やっぱり、コイツら私の敵だー‼︎

「人は食べんから安心するといい」

「本能的な恐怖はどうしようもありません‼︎」

 そーゆー事では無い‼︎

 奴等の視線は紛れもなく、敵対行動だ。

 私は徹底交戦を望む‼︎

 一羽残らず焼き鳥にしてくれるわ‼︎

「華苗さん、大丈夫か?」

「まだ、蛇の方がマシです」

 群はアカン。

 タイマンを望む。

「あー、少し早いが朝飯にすっか?何か食いたいモンあるかね?」

「おにぎりでお願いします」

 ええ、某補佐官様。日本人にはおにぎりが一番ですよね。

 いや、おむすびかもしれませんが。

 おにぎりとお汁があれば特に何も要りません。

 三食それで良いです。

 いや、それが良いです。

「川魚くらいならあるぞ?」

「夕飯にお願いします。朝昼はおにぎりに汁物でご馳走です」

 しっかりと抱き付いていた腰に顔を押し付けた辺りで、自分の体勢に気がついた。

 コレは不味い。

 いや、嫁入り前でもないし、特に気にする歳でも無いが、逞しいな。

 腕が回り切らない。

 がっしりとした体型は、実戦向きなのだろう。

 コレなら、熊ともガチな勝負が出来そうだ。猪位は担いで帰ってこれそうだぞ、一朗太さん。

「用意するんで、待ってて貰って良いかな」

「うわ、はい‼︎あ、じゃあ、井戸とかあります?顔を洗いたいんですが」

「ニワトリとは逆に行けば井戸があるから好きに使うとええ」

 あ、笑うとこんな風に愛嬌あるんだ。

「お借りします」


 断って家を出る。

 ニワトリを確認して、先程とは逆サイドに向かう。

 …………うん、井戸だね。

 鶴瓶タイプは流石に初めてだよ。

 手で押して汲み上げるタイプは祖父の家の前にあったけどね。

 町中だったんだけど。

 電車の終鉄駅前の、デパートとか市電も走ってた街中だったんだけど。

 いや、今はどうでも良いか。

 このタイプは流石に使った事無いからな。

「何事も挑戦」

 うん、荒縄は現代日本人には厳しい事だけは理解した。

 桶一杯なんて馬鹿な真似はせず、半分以下の量が入ったところで桶を引き上げる。

 が、手が、手がーー‼︎

 痛い‼︎

 皮がめくれる‼︎水膨れになり掛かった手で何とか引き上げた水で顔を洗う。

 冷たい。が、顔よりも手にダメージが入る辺りが情けない。

 取り敢えず、残りの水は井戸の脇に流してニワトリに気をつけながら扉に向かう。


「あ、丁度良かった。卵拾ってきてくれないかな」

「……頑張ります」

 働かざるもの食うべからず。

 自身に言い聞かせてニワトリの居なくなった前庭?から地面に落ちている卵を六つ程拾う。

 大丈夫、ヤツらは居ない。

 急いで中に戻ると、確認をする。

「卵は六個で良かったですか?」

「ああ、井戸とは逆に行くと後四つほど落ちてるはずだがなぁ」

「逝ってきます」

 誤植にあらず。

 土間のテーブルの上にある小さめの(かご)に取ってきた卵を入れる。

 持ったまま行くなんて、死守出来るかい‼︎割るフラグじゃないか。

 私は己を知っている。

 籠を持ち直して一つ深呼吸。

「卵焼きは甘い方が好みです」

 そう言って笑うと扉の外に出る。

 二〜三羽が戻って来ているが、今はまだ狙ってこない。

 よし。

 そーっと一朗太さんが言っていた所を覗き込むと、確かに卵らしき物体が見える。

 深呼吸をして覚悟を決める。

「突撃」

 足元で騒ぐ奴らに目もくれず、足を突かれようが、噛みつかれようが予定通りの卵をゲットする。

 残りの4つをゲットして、小屋の中に逃げ戻る。

 いやもー、鳥嫌い。

 食べるのは好きだけど生きてる奴は確実に私の敵だわ。

「人間の街に送って行きたいんだけども、今のうちに種蒔き済ませらないといかんからな。2〜3日待ってくれ」

「あ、分かりました」

 丁度連休で良かった。

 あ、ダメだわ。溜めといたゲームが可哀想な事になってる気がする。

 特にデータとか。

 最近はジャニオタにシフトしてくれたから安心してたんだけど、流石に数日放置してあったらデータの上書きくらいはやられそうだわ。

 飯は、コンビニ弁当とか色々あるだろうけどさ。

 一朗太さんの手の大きさで握られたおにぎりは、どう見ても、爆弾おにぎりか、目貼り寿しですな。

 ゆっくり食べればきっと食べきれる。

 勧められた所に腰を落ち着け、卵焼きとおにぎりに、お新香とお味噌汁。

 と言う朝ごはんを食べました。

 しゃーわせです。


 食器は取り敢えず、水の張った桶の中に沈めて家を出る一朗太さんの後を付ける。

 何をするのだろう。

 いや、確か畑に種蒔きとか言ってたし。

 ならば畝でも作るのだろうか。

 家庭菜園程度ならやってるから少しは手伝える気がする。


 うん、気がするだけだったよ?

 わざわざ鉄の(くわ)を貸していただきました。木で出来た鍬は使いにくいだろうとね。

 ですが考えていただきたい。

 熊とガチで勝負して勝てそうな体格の人が振るう鍬の重さを。

 そして、そんな人が食べる量を育てる畑の広さを。

 友人の家が持ってる畑を一区画借りてるんだが、そんなの笑えるくらい大きさが違う。良くTVなんかで見る大型トラクターが耕す畑を思い起こして欲しい。

 そのサイズとさほど変わりは無い。

 そこを手起こしだ。

 あぜ道を挟んで一朗太さんは木で出来た鍬一本で田んぼと思われる区画を耕していらっしゃる。

 あの速度と出力は生身の人間が出来る事じゃ無い。

 しかも、軍手無いのよ。ハンカチを2枚取り出して手の平に巻き付けてやっててもマメが出来出る。

 潰れるのも時間の問題だが、手伝うと言った以上、決してここで投げ出す訳には行かないのだ。

 明日は筋肉痛だ‼︎



まだまだ予定の所まで進んでないのが笑える(涙)

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